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2012-10-10up

佐藤潤一の「カエルの公式」

第12回

ネスレを変えたグロテスクなビデオ

 こんにちは。
 さて今回からは、前回お知らせしたとおり、グリーンピースの企業への働きかけの具体例を紹介していきます。
 今日は、その中でも最近話題になった代表例を一つ。

ネスレキャンペーンの有名ビデオ

 まずはこのビデオをどうぞ。(注:ショッキングな映像が含まれていますのでご注意ください)

 「気持ち悪い…」 「こんなことして良いの?」という声が聞こえてきそうです。
 このビデオは、2010年に世界最大の食品・飲料会社のネスレグループに対して、インドネシアの森林破壊につながるパーム油を買わないように訴えたグリーンピースのキャンペーンビデオです。
 森林伐採に関与していた企業からネスレがパーム油を購入し、誰もが知っているキットカットの材料として使われていた(注:生産国によって使用する油は違う)ことから、キットカットを食べることが、インドネシアのオランウータンを脅かしていることと同じだと伝えたわけです。
 このビデオはすぐにネット上で話題になりました。さらにネスレがFacebookやyoutubeで、このビデオや関連コメントを削除要請したことから、火に油を注ぐことになり、2か月間で合計150万回以上も再生されます。
 その結果、世界中から30万通を超える消費者のメッセージがネスレに届くことになり、2か月後にネスレは、森林破壊をしてつくられた原料を使用することをやめ持続可能な原料に切り替えるとの画期的な調達ポリシーを発表するのです。

(写真は、インドネシアのパームやし農園。森林がアリの巣のように切り開かれる)

 ネスレが、このような調達ポリシーを発表したことで、すぐにバーガーキングなどの他の企業も調達先を変更します。このネスレのキャンペーンの前には、グリーンピースの働きかけですでにユニリーバやクラフトフーズなどの企業が調達先を変更していました。
 その後もさまざまな企業が動きはじめ、パーム油の生産企業に変化を求めていったのです。その結果、インドネシアのパーム油会社GAR社が、2011年2月9日に森林破壊をこれ以上行わない新しい方針を打ち出すことになります。
 このネスレキャンペーンは、ビデオというオンラインツールがひとつの企業を変え、さらには市場全体を変えることにつながった例として有名になりました。また、企業とNGOの関係を考える良い例としても取り上げられます。

サプライチェーンリアクション

 さて、ある企業1社がある環境破壊を止めたとしてもそれだけでは意味がありません。他の企業が、同様のことをしてしまったら「いたちごっこ」だからです。
 よって、企業に働きかけるときには、その企業が変わることによって業界、市場さらには国や国際的な規制が変わり、地球規模で解決に向かうことを目指してキャンペーンの戦略を練ります。
 すでに紹介したネスレの例は、その成功例と言えます。世界最大手のネスレが変わることで、「インドネシアのシナール・マスグループが生産しているパーム油には問題がある」という市場へ与えるメッセージはとても強力になるのです。
 そして他の大手企業が調達方針を同様に変えれば、パーム油のサプライチェーン全体へチェーンリアクションが起き、生産方法の変更を迫り、最終的に森林生態系を守ることにつながるというわけです。

非暴力行動に似ている!?

 さてこのネスレのキャンペーンビデオですが、そのやり方ゆえに、賛否両論でした。特に日本では、拒否反応を示す人が多かったように思えます。 
 ただ、そのような方でもこのビデオをきっかけに、パーム油生産による生態系破壊がいかにひどいかを話すと「なるほど」と理解してくれる場合が多いです。
 やり方に賛否があるのは、非暴力行動に似ています。今回のビデオも、非暴力行動も、「問題があることを知らせる」という意味を持つわけです。
 社会問題において問題解決が難しいのは、そもそも問題があることに気が付かない人の多さに起因していることがほとんどです。よって、このような意見を言いたくなるビデオを故意に作成することで議論を喚起するのも手法の一つなのです。
 しかし、感情的にこのようなビデオや、非暴力行動をしてしまえば、その後受けるであろう「やり方への批判」には耐えられません。しっかりとした主張や、証拠を持ったうえでキャンペーンをしていくのが重要です。
 例えば、ネスレキャンペーンのビデオも、ビデオ単体で発表されたわけではありません。グリーンピースが数年間にわたって行った現地調査の報告書が同時に発表されています。このビデオは、その調査報告書に興味を持ってもらうためのツールとして使われたというわけです。

(グリーンピースが発表した調査報告書。画像をクリックすると報告書がPDFでご覧になれます。)

 いずれにしても、国際的な企業キャンペーンは、大半の日本人が持つであろう「ただの反対活動」というイメージとは一線を画したまったく新しい次元へと進化しています。

企業キャンペーンの目的

 誤解されないように最後に書いておきますが、グリーンピースが目的としているのは、地球規模での環境破壊を止め、多様性豊かな地球を次世代に引き継いでいくことです。
 よって、企業キャンペーンにおいて、企業の存在自体を否定したり、企業活動をやめてほしいと訴えたりすることが目的となることはありません。
 前回の「カエルの公式」でも紹介したように私たちは、国よりも力を持ちつつある大企業に変わってもらうことで、地球環境をまもることに貢献してほしいと思っているのです。
 ただ、環境破壊が手遅れになる前に企業に変わってもらうためには、「批判と応援」の両方をしっかりと使いわけてキャンペーンをすることが重要だというスタンスです。
 もちろん、ネスレがそのポリシーを変更した際にも、グリーンピースはその対応を評価しました。

(ネスレが森林破壊に荷担しないというポリシーを発表し、グリーンピースがそれを評価したときのもの)

 次回も、企業キャンペーンの具体例を見ていきます。お楽しみに!

参考リンク:
「大手パーム油会社、森林破壊ストップを約束! インドネシアの森林保護がまた一歩前進」2011年2月10日 グリーンピース・ブログ

「シンポでパーム油のCSRを紹介――GPの活動も」 2011年2月24日 グリーンピース・ブログ

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ネット上ではかなり話題になっていたネスレキャンペーンの動画、
「自分もこれでパーム油の問題を知った」という方も いるのでは?
手法の是非はたしかに意見の分かれるところでしょう が、
一般の消費者の声が大企業を動かすことができる、
それを証明する好例となったことは確かでしょう。
ほかには、どんなやり方や効果があるのか?
次回以降、さらなる具体例を紹介していただきます。

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佐藤潤一さんプロフィール

さとう じゅんいち グリーンピース・ジャパン事務局長。1977年生まれ。アメリカのコロラド州フォート・ルイス大学在学中に、NGO「リザルツ」の活動に参加し、貧困問題に取り組む。また、メキシコ・チワワ州で1年間先住民族のタラウマラ人と生活をともにし、貧困問題と環境問題の関係を研究。帰国後の2001年、NGO「グリーンピース・ジャパン」のスタッフに。2010年より現職。twitter はこちら→@gpjSato