戻る<<

伊勢崎賢治の15歳からの国際平和学:バックナンバーへ

070620up

伊勢崎賢治の15歳からの国際平和学

戦争とは? 紛争とは? 国際貢献とは? そして平和とは・・・?
世界各地で「武装解除」などの紛争処理に関わり、
現場を誰よりも知る伊勢崎賢治さん。
15歳のキミたちに是非読んでもらいたい! ということでスタートです。
先月成立をみた国民投票法。法律の施行には3年の凍結を経るそうです。
つまり、憲法改定の是非を問われるその投票権は、
現在15歳の国民から持つことになります。
ま、わかりやすくてオモシロイ「平和学講座」。
もちろん年齢制限なし。隔週連載の予定です。

武装解除 いせざき・けんじ●1957年東京生まれ。大学卒業後、インド留学中にスラム住民の居住権獲得運動に携わる。国際NGOスタッフとしてアフリカ各地で活動後、東ティモール、シェラレオネ、 アフガニスタンで紛争処理を指揮。現在、東京外国語大学教授。紛争予防・平和構築講座を担当。著書に『東チモール県知事日記』(藤原書店)『武装解除 紛争屋が見た世界』(講談社現代新書)などがある。
←アマゾンにリンクしてます。

第1回:「ブラッド・ダイヤモンド」が語らなかったこと

シエラレオネ東部のKono市におけるダイヤモンド採掘の様子。ザルでシャカシャカやるだけで原石が採り出せる。僕もやってみました。このダイヤモンドは「内戦」の”燃料“にもなってきたのです。(2001年9月)

こんにちは。伊勢崎賢治です。東京外国語大学という学校で、平和構築と紛争予防講座というのを受け持っております。これは一体何を教えるところか? 平たく言いますと、世界で多くの人々が犠牲になっている紛争を、その予兆が顕れたところで察知し、願わくは回避できるよう国際情勢の分析を怠らないという真面目な学問なのです。しかし、紛争は現実に起こっており実際にそれを回避する事は、神様の能力も超えていると言わざるを得ないのが現状です。でも、今起きている紛争の被害者を出来るだけ少なくするための人道介入。もしくは、起きてしまった紛争の後に将来同じような紛争を再発しない工夫を施すぐらいなら、何とか我々人間にもできるかも知れません。

「ブラッド・ダイヤモンド」、観ましたか? レオナルド・ディカプリオさん主演の映画です。

「マガジン9条」の僕の連載のはじまりは、まず、紛争がどのような原因で起きるのかを、僕が第二の故郷として愛してやまない、西アフリカにある小さな国「シエラレオネ」を題材に書きたいと思います。この映画の舞台です。 シエラレオネ

僕がシエラレオネに住んでいたのは、1988年から92年の春までで、欧米系の非政府の援助組織(NGO)のひとつ、「プラン・インターナショナル」の現地所長でした。NGOというと、日本の皆さんは、ボランティア団体のようなものを想像するでしょうが、欧米のNGOはお金の面でもユニセフなど国連よりも大きいものがあります。僕のNGOは、当時のシエラレオネでは、この国最大の援助機関だったのです。何せ、年間の国家予算が日本円で言うと約90億円でまかなえる小さな国です。その内60億円が国としての借金の返済。実質、残りの30億円で国の全ての機能を回すのです。教育や医療など子供たちの福祉活動をしていた僕のNGOの年間予算が4億円ほどありました。国家予算との対比で、一NGOと言えども国家に及ぼす影響を感じ取ってください。

「30億円で国の全ての機能を回す」というのは語弊があるかもしれません。小さな国と言っても人口は五百万人近くおります。30億円で、全ての国民のニーズがまかなえる訳がありません。だから、シエラレオネは、ここ四半世紀以上も“世界最貧国”としてランク付けられて来たのです。例えば、子供が生まれると、栄養失調や衛生問題、医療施設のないことによる原因で、5歳になるまでに4人に一人が死亡すると言われております。この国では出産や死亡を届け出るシステムも全く整備されておりません。例えば、ほとんどの農村では、交通手段が徒歩しかなく、最寄りの診療所までは、数十キロ。たどり着いても、職員の給料の遅延が原因で、休業状態。たまたま職員がいても、政府からの薬品の供給が滞っていて治療もできません。ですから、4人に一人と言う数字も大変深刻ですが、この数字の裏で記録にも載らず死んでゆく子供たちの数は計り知れないものになるのです。

そもそも、世界でも最良質のダイヤモンドが採れ、超硬合金チタンの原料となるルータイルの世界最大の産出国の一つであるシエラレオネが、なぜ世界最貧国なのでしょう。

「腐敗」です。本来なら国民全員のものであるべき天然資源が、外国資本の企業やバイヤーにワイロと引き換えに闇の便宜を提供する一部の政治家や官僚によって、タダ同然に国外に持ち去られてゆく。その象徴がダイヤモンドです。

隣国リベリアに近い東部のコノという町では、地表の土をほじくり返して、それを川べりに運び、ザルでシャカシャカやるだけで、原石を採るのです。原石は持ち運びが簡単です。ポケットの中に隠して海外に密輸は簡単です。もちろん、これらは違法行為ですが、どうやって取り締まれるのでしょう。僕も、シエラレオネにいたとき何度も話を持ちかけられましたが、原石が採れそうな土地のオーナーにある程度の金を払い、そして人夫として使える地元の若い衆の斡旋までする“業者”がいたのです。これは、私有地だけでなく公有地まで及びます。もちろん、これらは全て違法ですが、それを取り締まるべき地元の警察や役所にワイロを払えば済むことで、“業者”はその手配までしてくれます。密輸行為を水際で止めるのは、空港や港湾の税関ですが、これもワイロで事はすべて収まります。

こういった腐敗は、必ず連鎖します。横を見て、もしくは上を見て、皆がまねをするようになります。警察がワイロでどうにでもなるということは、もう社会の末期症状です。殺人を罰することさえできなくなります。僕のスタッフの一人が、友人とのちょっとした口論がきっかけで刺殺されるという事件が起きました。その犯人は、世間に対して高をくくっているのか、逃げも隠れもせず、警察も何もしようとしないので、スタッフの家族から泣かれて僕が警察署長に掛け合うことになりました。地元の“大物”であった僕を邪険に扱えるわけもありません。捜査を快諾するも、もみ手をしながらの条件付きです。その条件とは、犯人のところに行くためのパトカー(署長が私物化している)のスペアパーツとガソリン、起訴書類を作るためのタイプライターのインクリボンとタイプ用紙を恵んでくれと言うのです。政府から何の支給もないからという理由で。

そうやって、やっと警察署に拘留した犯人ですが、数日後のある夜、町のバーに行くと横のカウンターでビールをラッパ飲みしていたのは、なんとその犯人でした…。

こういう無政府状態を招いた根本の原因は、1961年の英国からの独立以来ずっと続いていた一党独裁だと言う人もおります。当然、独裁政権を倒そうとする政治的な動きも出てきます。どちらにしろ、社会がどうしようもない状態が長く続けば、それをどうにかしようという動きは必ず出てきます。暴力という手段を使ってまでも。

それが、「ブラッド・ダイヤモンド」の中で、子供兵士を操り、一般市民への殺戮だけでなく、生きたまま手足を切断するという蛮行を働くRUF(Revolutionary United Front:革命統一戦線)という反政府ゲリラだったのです。映画の中のRUFは、ダイヤモンドに目がくらんだ極悪非道の暴力団のように描かれていますが、彼らの蜂起の目的は、「革命」だったのです。そして、当時の革新的なインテリ層、そして、現地政府の腐敗に辟易していた僕を含めたNGOの人間の一部も、この革命を歓迎したのです。この武装蜂起が、10年以上も続く内戦となり、50万人以上の一般市民の命を犠牲にすることなんか、想像もせずに。

(次回は、この内戦を終らせるためにどういうことをしたかを書きます。)

第1回目の伊勢崎さんのコラム、いかがでしたか?
シエラレオネでは、政府の腐敗を打倒する目的で起こった「革命」がなぜ
「内戦」へと向かったのか? 次回をお楽しみに!

ご意見フォームへ

ご意見募集

マガジン9条