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この人に聞きたい
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雨宮処凛さんに聞いた その2

改憲の是非を問うまえに軍事力の現状について議論しよう
現在日本には24万人の自衛隊員がおり、
世界の第4位にランキングされる軍事力を保有しています。
現状の軍事力について正しく把握すると共に、湾岸戦争以降、
質が変わったといわれる自衛隊の動向について、山田朗さんにお聞きしました。
やまださん
やまだ あきら 1956年大阪府生まれ。
愛知教育大学卒後、東京都立大学大学院博士課程を経て、明治大学文学部教授。
日本近現代史、軍事史、天皇制論、歴史教育論が専門。
おもな著書に『軍備拡張の近代史-日本軍の誇張と崩壊』吉川弘文館
『歴史修正主義の克服-ゆがめられた<戦争論>を問う』高文研
アメリカの良心・デニス・クシニッチ下院議員との出会い
編集部 山田さんは昨年10月に『護憲派のための軍事入門』(花伝社)という本を出されましたが、これを書かれたきっかけは何だったのですか?
山田 ここ数年、憲法9条をめぐる論議が盛んですけど、改憲派も護憲派も、日本の軍事力の実態を正確に押さえないで9条の問題を議論しているように見えたんですね。
改憲派は「現状(自衛隊)と9条は乖離している。だから憲法を現状に合わすべきだ」とか「9条を変えても現状が大きく変わるわけじゃない」という言い方をよくします。つまり現状は正しいという前提で物事を語っているわけです。
でも実際には、湾岸戦争(91年)以降、自衛隊は国土を守るというそれまでの役割から大きく逸脱して、海外に派遣することを目的にした組織に変化しています。9条を変えるべきと考える人のなかにも「海外派兵は反対」という人がいると思いますが、こういう現状を認識しているのかなという疑問があります。現状を肯定して正式に軍隊として認めてしまえば、これはもう海外にどんどん行って戦闘にも参加することになってしまいますからね。
編集部 一方の護憲派については? 本のタイトルが「護憲派のための」というぐらいですから、軍事的な知識は改憲派よりもないと?
山田 軍事の現状を押さえていないという点では改憲派と似ています。「平和を求めるには平和について話し合うべきで、戦争や軍事の話は必要ない」という人がけっこういるんですよね。それで済めばいいですけど、人類にとって戦争とは言ってみれば病気みたいなものですから、それを治すためには病気に対する知識がないとダメですよね。戦争や軍事を否定したいのであれば、その具体的なメカニズムを知る必要があります。
日本では軍事を語ると「右翼だ、改憲派だ」と言われる傾向がありますよね。私もずっと軍事史に関する研究をしてきましたが右翼と言われ続け、天皇の戦争責任に関する本を出すと今度は「左翼だ」と言われました(笑)。

9条に関しても、「改憲派は戦争好きな右翼」で「護憲派は平和ボケした左翼」というようなレッテル貼りがあります。そういう次元で止まったまま「9条を変える」「変えない」と議論をしても、主義主張のぶつかり合いに終始するだけで建設的とは思えません。
9条を変えるか変えないかは、軍隊を持つのか持たないかという、まさに軍事そのものの話ですから、ならばなおさら具体的な軍事の知識が必要だと思うんです。
たとえば、スイスの例を出して、「日本も武装中立国になるべき」という意見がありますよね。
編集部 先日、『マガジン9条』で行なったアンケート調査でも、日本が軍隊を持つべき理由としてスイスの例を挙げる人が複数いました。
山田 この場合、スイスと日本が置かれた国際的な環境や地理的状況、そして現在の軍事力など具体的な話をもとに議論すべきです。
5ヵ国と国境を接しているスイスと周りを海に囲まれた日本とでは、地理的な条件が全く違います。海というのは最大の防御壁であって、現在、大規模な上陸作戦を行なって他国を侵略できる軍事力を持っているのはアメリカだけと言っていい。それぐらい海を越えて他国を侵略するのは難しいんです。だから長年にわたって侵略戦争が繰り返された陸続きのヨーロッパに位置するスイスと日本では、軍事力を持つ必然性に大きな差があります。
それからスイスは武装国家と言っても、日本の軍事力と比べたら微々たるものです。毎年の防衛予算で言えば、スイスが約4千億円に対して日本は約5兆円。常備兵力では、スイス22万人(動員可能32万人)、日本24万人とほぼ同数ですが、装備の面では日本がはるかに上回っています。
さらに歴史的に見ても両国は大きく違います。スイスは武装中立を国是に長い間国連にも加盟せず(2002年加盟)、とにかく独自の道を進み、他国へ軍隊を絶対に出さないことを表明してきました。それに対して日本は、日米安全保障条約のもと米軍と一体化し、自衛隊の海外派遣も行なっています。そんな日本が今さら武装中立を表明しても、スイスと同様の信頼を周辺国から得られるわけがなく、東アジアの軍拡競争を煽ることになります。
こう見ていくと、「スイスのように……」という改憲の理由に根拠がないことがわかると思います。
専守防衛を逸脱して海外展開をメインに考える組織になった自衛隊
編集部 湾岸戦争以降、自衛隊は海外に派遣することを目的にした組織に変化していると言われましたが、具体的にはどのように変わってきているのですか。
山田 海上自衛隊が顕著なのですが、この15年の間に、世界のどこにでも行けるほどの能力を持つようになりました。もう完全に「専守防衛のための必要最小限度」を飛び越えています。

海軍力を見る場合、一般的には艦艇の保有量(総トン数)で比較します。湾岸戦争当時、海上自衛隊の総トン数は31万9000トンでしたが、2005年は43万8000トンと、この15年間で11万9000トン、約37%も増えています。逆に主要戦闘艦艇数は75隻(90年)から69隻(05年)に減っています。つまり一隻ごとが大型化しているわけですね。
編集部 艦艇の大型化は遠征能力の拡大に直接つながると?
山田 そうです。遠洋航海をするためには燃料ほかの物資をたくさん積む必要がありますし、長期間の海上生活に乗組員が耐えられるように居住空間を広げる必要も出てきます。そうすると必然的に艦艇が大型化します。
これらのことは、98年から就役している「おおすみ」型輸送艦(8900トン)の例を見れば一目瞭然です。「おおすみ」型輸送艦の前身は、「あつみ」型輸送艦(1480トン)と言って、本州から北海道などへの兵員・物資輸送などを想定して作られたものでした。「あつみ」型が老朽化したという理由で後継艦「おおすみ」型が作られたのですが、排水量6倍、輸送能力3倍の艦艇となりました。遠征能力を高めることを目的にしていることは言うまでもありません。

たとえば国会で議論をして「これからは自衛隊は海外に行きますよ」と決めたうえで艦艇の大型化を計るならまだ分かります。しかし現実は、艦艇を作ったあとに目的ができています。
在外邦人の救出のために艦艇とヘリコプターの使用を認めた改正自衛隊法が閣議決定されたのは98年4月、国会を通過したのは99年5月です。ところが「おおすみ」の建造予算(1隻約270億円)が承認されたのは93年度、起工は95年12月と、法律の改正よりはるか前に決まっているのです。つまり、ハード(兵器)が先行してシステム(法律)が後から追いかけているわけですね。
このような事例は海上自衛隊だけでなく、あらゆる分野で見られます。しかも誰が決めているのかがはっきりせず、国民には全く知らされていません。
編集部 より強力な兵器を持てば、それに合わせた戦略が練られ、今度はその戦略を補強するための兵器が作られ、さらにその新兵器に合った戦略が……という具合に際限ない軍拡につながりませんか?
山田 そうなりますね。湾岸戦争の後に自衛隊は掃海艇を派遣しましたよね。もともと掃海艇は日本近海に敷設された機雷を取り除くのが仕事ですし、木造の小さな船ですから当然遠征能力はありませんでした。だから当時はイラク近辺まで行くのに相当苦労したようです。
ところが、遠洋での掃海作業という実績がいったん作られてしまうと、今度は「遠征能力をつけなければだめだ」となり、掃海艇を遠くまで引き連れて行くための掃海母艦が作られました。そうなると次は、派遣する部隊が独自性を保てるように、情報収集のためにイージス艦が必要だとか、そういう考え方がまかり通ってしまいます。既成事実だけが先行して、それに合わせて軍事力が更新される、そんなことが湾岸戦争以降続いています。
シンプルに「戦争はいやだ」というとこにいきついた
編集部 そういう質的な変化について、国民はもちろん多くの政治家も知らないと思いますが、チェック機能が全く働いていないということですか。
山田 日本の軍事に関する基本的な指針が定められているのが防衛計画の大綱ですが、その内容は「ザル」もいいところ。なぜかというと、護衛艦×隻、作戦用航空機×機とか、数が書いてあるだけで、質に関する規定が全くないんです。
例えば、老朽化した1000トンの艦艇の代りに、遠征能力を高めた1万トンの大型艦を新たに作ったとしても大綱上は何の問題もないわけです。1000トンだろうが1万トンだろうが、船1隻に変わりないということです。
編集部 それにしても1000トンの船の代りに1万トンの船を作れば、予算も相当かかるわけですよね。予算に関して国会のチェックは全くないのですか。
山田 予算については国会がコントロールしているはずなんですが、実際はフリーパスと言っていい状態です。予算案として提出されるときは「旧式化した船の更新」という名目で出されますが、何の目的でどんな装備が必要なのかなど中身はほとんど検討されません。大雑把に言えば、「新しくするのだから高くなっても仕方ない」ということで承認してしまっているのです。だから、大型化や高度化がますます進んでしまう。
しかも、どんな装備の船を作るのかなど、いったい誰が議論をして決めているのかが分からないため、ますますチェックすることは不可能になります。
編集部 密室の協議で決められている?
山田 はい。自衛隊の幹部、いわゆる制服組だけの話し合いとは限らないですが、防衛庁幹部など、ごく一部の専門家によって新兵器の開発などが決められています。国民の代表である政治家には全く主導権がないと言っていい。だから「自衛軍を持ってもシビリアンコントロール(文民統制)がきくから問題ない」という人がいますが、もうすでに現時点でもシビリアンコントロールは機能していないわけです。
編集部 すでに暴走していると?
山田 そうです。国民が9条を変えるか、変えないかの議論をしている間に、すでに自衛隊は海外展開を主目的にした軍隊に変質している。それを、いつ、誰が決めて、どのように予算化されていくのかがほとんど分からないわけで、ある意味では戦前の軍隊よりも不透明と言えます。これが正式に軍隊となれば、さらに強固な「軍事機密」という壁ができてしまい、さらに不透明になります。
自民党が昨年発表した改憲草案では、「国際協調」のための活動などを理由に海外派兵を可能にしています。だから、9条が改定されれば、タイムラグなしに自衛軍は戦闘部隊として海外派兵されることになると思います。ここら辺を改憲派の方たちにも考えてほしいですね。
つづく・・・
現時点でもシビリアンコントロールが機能しておらず、
すでに暴走をはじめている日本の軍事について、
現状をきちんと把握すると共に、
なぜ、今9条を変えて軍にする必要があるのか、
改めて考えてみたいと思います。
次回は、さらに日本の軍事力の具体例と
今後の自衛隊が目指すべき方向についてお聞きしていきます。
ご意見募集!

ぜひ、ご意見、ご感想をお寄せください。

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