戻る<<

この人に聞きたい:バックナンバーへ

この人に聞きたい

091118up

梅林宏道さんに聞いた(その2)

北東アジアの非核地帯化と
沖縄基地問題解決に向けて

核廃絶への第一歩として、かねてから「北東アジアの非核地帯化」を提唱してきた梅林さん。
それは日本と北東アジアに、そして世界にどんな変化をもたらすのでしょうか?
オバマ大統領来日でますます注目の集まる、沖縄の基地問題についても伺いました。

うめばやし・ひろみち
1937年兵庫県生まれ。東京大学大学院を修了後、大学教員を務めるが1980年に退職。フリーの反戦平和活動家として、NPO「ピースデポ」を設立、代表を務める。現在はピースデポ特別顧問。核軍縮を目指す国際NGO「中堅国家構想(MPI)」運営委員なども務める。主な著書に『米軍再編−−その狙いとは』(岩波ブックレット)、『在日米軍』(岩波新書)などがある。

「北東アジアの非核地帯化」に向けた、
日本政府としてのメッセージを

編集部

 さて前回、新政権の核問題に関する姿勢への期待について伺いましたが、実は民主党では昨年、岡田外相が会長を務める「核軍縮促進議員連盟」が、日本と朝鮮半島を非核地帯にするという「東北アジア非核兵器地帯条約」を発表しています。
 これは、日本、韓国、北朝鮮の「地域内国家」3カ国と、アメリカ、中国、ロシアという三つの「近隣核兵器国」が非核地帯条約を締結し、地域内国家は核兵器の実験・保有・使用を、近隣核兵器国は地域内国家に対する核兵器の使用・威嚇をしないと定めるもの。「ピースデポ」でも以前から提案されている、いわゆる「スリー・プラス・スリー」の仕組みですね。

梅林

 そうです。私たちが作成・提示している、北東アジア非核地帯化の「モデル条約」の考え方が、かなり取り入れられています。
 ただ、これは核軍縮議連の段階で、党全体の政策という意味では、まだまだ漠然としてしか共有されていないのが現状ですね。総選挙前の党首選では鳩山さんも岡田さんも「北東アジアの非核化」を公約にしていましたし、特に岡田さんはよく勉強している方なので、政権内でどこまでやれるかということを考えてはいると思うんですが……党全体としてのプライオリティは、まだそれほど高くないというのが私の印象です。
 でも、新政権には、中長期目標ということでもいいからこの「東北アジアの非核地帯化」を、なんとか政府として言葉にしてほしいと思いますね。というのはこの考え方は、多くの市民に受け入れやすい考え方であり、考え方の多様な広がりを許す言葉でありつつも、本質的にきわめて新しい状況を生みだすキーワードになる、と思うからです。

編集部

 といいますと。

梅林

 つまり、「非核地帯化」を目標として掲げたからといって、政権の足元ががたがたになるといったような、「過激」な提案ではない。民主党の中には安全保障政策についてもいろんな意見を持っている人がいます。また「非核化を」といったときにも「北朝鮮の核がある中では非現実的だ」という議論が必ず出てくる状況があると思うんですね。しかし、「非核地帯を目指す」というメッセージは、北朝鮮の核放棄に対しても決してマイナスにはならない。そのためにこそ非核地帯化を目指すんだ、という言い方ができるし、実際そうなんですね。
 一方で、「非核地帯化」というのは、「非核化」とも大きく違います。なぜなら、「北東アジアの非核化」といったときには、ただ単に「北朝鮮の核放棄を目指す」という、日本にとってある意味で「他人事」の話になりかねない。日本の「核の傘」をどうするのか、という議論が置き去りになってしまうからです。
 「非核地帯化」というときには、そこの部分にも手がかかってきます。民主党議連が出した案も、言い換えれば「核の傘ではなく非核地帯で核の脅威をなくす」「核抑止力、核の傘ではなく非核の傘で安全を確保する」ということを意味しているわけです。
 ただ、民主党全体としてはまだそこまで明示的なメッセージは出ていない。だから政府には、なんとか「北東アジアの非核地帯化」を言葉として掲げてほしい。それに向けて、市民の後押しの声も強まってほしいと思います。

非核地帯化の議論に、
中国を巻き込んでいく

編集部

 先ほど、北東アジア非核地帯化の「スリー・プラス・スリー」における「周辺核兵器国」の一つとして中国の名前が挙がりましたが、今年9月の国連安保理サミットで、中国の胡錦涛主席が、「普遍的安全保障の世界を共に築こう」と題した演説の中で、「核戦争の脅威から抜け出すために」として、非核保有国への核兵器の使用禁止や、核保有国どうしでの先制不使用条約締結などの主張を行っていましたね。中国というとやはり「軍事大国化」「核兵器保有国」といったイメージですが、そのトップが公の場でこうした発言をするというのは少し意外な気がしました。

梅林

 これは、もっと多くの人に認識されるべきだと思うんですが、実は中国は、1964年にはじめて核実験を行ったときからずっと、一貫して同じことを言ってるんですよ。自分たちは、決して核を先に使わないし、核を持っていない国に対して使わないということ。それからもう一つ、自分たちの核は防衛のための核であって、核軍備競争には決して加わらない。敵が核兵器を強化したから自分たちもというのではなく、防衛のための必要最低限の核だけを持つという立場なんだと、ずっと繰り返しているんですね。

編集部

 そうなんですか。それは、日本ではほとんど知られていないような……

梅林

 そうですね。日本政府は当然そのことを知っているんですが、これに対してずっと、「中国にだまされるな」と言い続けてきました。口ではそんなことを言いながら、実際には核の近代化を進めてるし、日本にとってはもっとも大きな実際的脅威なんだ、と。むしろ中国がいるから日本にはアメリカの核の傘が必要なんだ、という言い方さえしてきました。
 しかし、今回の安保理サミットでは、たまたま議長国がアメリカで、オバマ大統領のリーダーシップで史上初めて核不拡散や核軍縮がテーマになり、各国のトップがそれに基づいて演説を行ったわけですが、その演説の内容を読み比べてみても、やっぱり中国は他の国とはまったく違うスタンスを持っているということが改めて浮かび上がってきます。他の国の言っていることと比べて、非常に主張がクリアなんですね。
 この中国の「異色」な核政策の姿勢を、もっと活かせないだろうかというのが、最近僕が考えていることです。鳩山政権は、「核兵器のない世界へ被爆国として先頭に立つ」と言うと同時に、「アジアとの関係を深めていく」とも言っていますよね。この二つを組み合わせて、中国のこの方針をもっと活かす形で対話を進める。そして、北東アジアの非核地帯化を進める上で、中国に大きな役割を求めていったらどうか。
 たとえば、日本と中国との二国間交渉で、「中国は日本に核攻撃をしない」という協定を結ぶ。中国は核非保有国には核を使用しないと言っていますから、日本がアメリカに先行不使用を求めることと組み合わせる工夫ができれば、これは可能なはずです。中国が信用できる、信用できないという議論ではなくて、とにかくこれは彼らがずっと言っていることなんだから、それを前提にした議論で合意を積み重ねて、ある種の拘束力をつくっていく。これは、北東アジア地域全体で、核兵器の存在を重視する機運を低下させ、非核地帯化を推進していくための手がかりにもなると思うんです。
 もちろん、「じゃあ、どうして中国は核をなくさないんだ」という議論は必ず出てくるでしょう。また日本政府はずっと、中国は核に関してもっとも透明性のない国だと言い続けていますが、これはある意味で事実です。必要最低限の核戦力という言い方をするけれども、何が「最低限」なのかということは一度も言っていないし、実際にどのくらいの核戦力を持っているかもわかりません。  ですから、そうした透明性の部分、そして中国の核削減といった部分も、先ほどの日中間の具体的な交渉の中に含みこんでいく。その上で非核地帯化に向けた議論を進めていくことが可能だと思います。

今こそ、大きな「チャンス」のとき

編集部

 さて最後に、現在非常に注目が集まっている、沖縄の米軍基地の問題についてもお聞きしたいと思います。民主党は総選挙の際のマニフェストに「在日米軍基地の見直し」を掲げ、宜野湾市にある普天間基地の移転計画についても、予定されていた名護市辺野古への移転ではなく、「県外、国外移設」を基本方針としてきました。
 しかし、これに対してアメリカ側は強く反発しており、高官による「計画の見直しはありえない」といった発言も相次いでいます。鳩山政権が当初の方針を貫いて、辺野古への移転を中止させることは可能なのでしょうか?

梅林

 沖縄の米軍基地の問題について、まず必要なのは、アメリカと「本来しなければならない議論」をすることだと思っています。

編集部

 「本来しなければならない議論」?

梅林

 つまり、米軍が日本に、沖縄にいるのは本当に日米安保条約でいうところの「日本及び極東の平和」のためなのか、アメリカのグローバルな安全保障戦略の一部を支えるためなのか、ということです。
 もともと、鳩山さんなどは以前から米軍の「有事駐留論」を主張していました。米軍基地を恒常的に日本に置くのではなく、有事の際にだけ受け入れる、日本を守ってもらうために必要なときだけ来てもらうという形でいいんだ、ということ。たしかに、本来の日米安保条約の精神で言えば、そうした「最低限有事駐留論」は当然出てくるはずなんです。
 しかし、実際には沖縄の米軍部隊や米軍機がイラク戦争に行き、アフガンに行きということで、在日米軍は当たり前のようにグローバルなアメリカの安全保障戦略を支える存在になっていた。さらに、自民党政権のほうも、そうすることが日本の安全保障にとって有益なことであり、これはアメリカのためではなく日本のためになるんだという論理を掲げ続けてきた。それはおかしかったんじゃないか、在日米軍は何のために日本にいるのかというところにさかのぼらないと、「普天間の部隊も、少なくとも日本常駐はいらないから、海外に移そう」という議論ができないんですよ。
 本心で言えば、現在の政権は「米軍は日本にこんなに常駐する必要はない」と思っていると思います。だからもっと数は減らせるし、減らしたいと考えているんじゃないか。ただ、それをそのまま口に出せば、すぐさまアメリカとはけんかになってしまうということですよね。

編集部

 すでに、アメリカの新聞などで、日本の新政権の安全保障政策が批判されている、という報道もありますね。

梅林

 「鳩山は日米同盟は機軸だと言っているけれど、実態は違う」とかね。「米軍なしに平和が守れると思ってるのか」「北朝鮮の脅威をアメリカなしでどうするつもりなんだ」とか、そうした論調も目立ちます。「ウォール・ストリート・ジャーナル」では、「ディフェンス・カブキ」といって、鳩山は国民受けを狙ってカブキショーをやっているだけで、ぜんぜん現実的じゃない、という批判をしていました。すごく飛躍した議論だけれど、それがアメリカの感じ方なんですね。
 もともと、これまでアメリカで「知日派」と言われていた人たちは、日本をよく知っているのではなくて、自民党の政策を知り尽くしていたというだけなんですね。アメリカ政府のブレーンにも、そういう人物しかいないわけです。だから、新政権がこれまでとはまったく違うことをやろうとすると、すぐには米国側の理解がついてこない。頭が切り替えられないんです。そこで「在日米軍基地とは」という「そもそもしなければならない議論」をやるには、相当時間がかかるでしょうね。

編集部

 しかし、ゲーツ国防長官が「辺野古への移転がなければ、グアムへの海兵隊の移転もない。米軍再編自体が止まり、沖縄への土地の返還もなくなる」と、半ば脅しのような言葉を口にするなど、アメリカからの圧力が非常に強まっています。時間をかけて交渉すること自体が、可能なのかどうか……

梅林

 たとえば、岡田外相が提案している嘉手納基地への統合論がありますね。私はこれがよいという立場では決してありませんけれども、これなんかも、時間稼ぎ、基地撤退への「つなぎ」としては一理あると思います。少なくとも、辺野古に移転してしまうよりはましです。新しい基地をつくってしまったらもう、元には戻せないんですから。

編集部

 嘉手納に統合することで時間を稼いで、その間に改めて交渉して、最終的にはアメリカに移転してもらう、ということですね。

梅林

 もちろん、ただ統合というのでは地元の人たちの反対は避けられません。そこで、嘉手納に普天間基地の機能を統合すると同時に、航空機の飛行回数を制限して、統合前の飛行回数を越えないようにする。つまり、嘉手納の空軍活動を縮小して、その分普天間にいた海兵隊が入ってくる、という考え方です。この交渉ができれば、少なくとも基地が一つ減ることは間違いないわけですよね。
 アメリカはこれについても、「すでに検討済みだ。話にならない」と言っています。でも、岡田外相はそれに対しても「本当にそうなのか」と言っています。これまでの政権はそれさえ言わなかった。「アメリカがそう言ってるんだからしょうがない」というところで止まってしまっていた。「本当に“話にならない”のか」を検証しようというのは、それだけでも非常に新しい。
 当然、時間はかかるでしょう。でも、時間はかかっても本来的な議論をしていかないと、新政権が目指しているはずの「基地の削減」は実現できません。アメリカとの関係を壊さず、しかし今のように米軍が数多く国内に駐留している状態を変えていく、そのためには、日本は安全保障全体をどう考えるのかといった、本質的な議論がどうしても必要になります。時間はかかっても、なんとかケンカにならないようしのぎながら、そこに持っていかないといけないんです。そして、そうした対話をする相手として、オバマ政権は非常にいい政権ですよ。

編集部

 そう考えると、非常に困難が多いにせよ、今が状況を変える「チャンス」なのは間違いないですね。アメリカも、日本も政権交代した、今だからこそ……

梅林

 そのとおりです。今は、日本にとって非常に大きなチャンスなんです。

←その1へ

沖縄の基地問題については、お話を伺った後も、
オバマ大統領来日を挟んでいろいろな動きがありましたが、
「時間はかかっても、根本的なところからの議論を」という、
梅林さんの言葉の重要性はますます重みを増しているのではないでしょうか。
この「大きなチャンス」を逃すわけにはいかない! と強く思います。
梅林さん、ありがとうございました。

ご意見フォームへ

ご意見募集

マガジン9条