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2013-05-08up

この人に聞きたい

谷口真由美さんに聞いた(その1)

「オッサン政治」に嫌気がさして立ち上げた「おばちゃん党」

「オッサン政治に物申す!」--昨年、関西でスタートしてメディアなどにも登場、大きな注目を集めた「全日本おばちゃん党」。「党」とはいっても政党ではなく、年齢もバックグラウンドもさまざまの女性たちが、今の政治や社会のおかしいところに「おばちゃん目線」でツッコミを入れつつ語り合う、インターネット中心のグループなのだそう。いったい何を目指してるの? 立ち上がったきっかけは? などなど、党の「代表代行」を務める法学者で、自身も「おばちゃん」を自称する谷口真由美さんにお話を伺ってきました。

谷口真由美(たにぐち・まゆみ)
法学者。大阪国際大学准教授。(公財)世界人権問題研究センター研究第4部(女性の人権)部長。「全日本おばちゃん党」代表代行。小1から高1までの多感な時期、花園ラグビー場の中で、マッチョな男の中で揉まれて育つ。専門分野は国際人権法、ジェンダー法など。大阪大学では講師として、憲法の授業も担当し「DJマユミの恋愛相談」で人気を博している。著書に『新・資料で考える憲法』(共編著、法律文化社)、『リプロダクティブ・ライツとリプロダクティブ・ヘルス』(信山社)、『レクチャー ジェンダー法』(共著、法律文化社)など。

社会を動かしてるのはオッサンだけ? の疑問が始まり
編集部

 今年3月、谷口さんが代表代行を務めるグループ「全日本おばちゃん党」「東京場所」に参加させていただきました。「オッサン政治に物言い!」のキャッチフレーズといい、「党の基本方針」とされている、<うちの子もよその子も戦争には出さん!>に始まる「おばちゃんはっさく」 といい、ものすごいインパクトだったのですが、そもそもこれはどんなきっかけで始まったものなんですか? 基本はFacebook上のグループなんですよね。

谷口

 去年の9月、民主党代表選と自民党総裁選がちょうど同時期にありましたよね。あのとき、何の気なしにテレビを見ていたら、出てくるのがあまりにも「オッサン」ばっかりやったんですよ。スーツの色もグレーと茶色と黒ばっかり、一応「若い候補者が」とかいうけど、私らから見たらそれもオッサン。社会はオッサンだけが動かしてるんか! と思ったら、ものすごい腹が立ってきたんです。
 それで、Facebookで「どないなっとんねん、ホンマに」とぼやいて、「既存政党を見渡してもこんなにオッサンしかおらへんのやったら、もう"おばちゃん党"でも立ち上げたろか」と書き込んだわけです。そしたら、それを見た友達から予想外に「面白い」「おばちゃん党、ええやん」とかって反応が来て。それで、「とにかくおばちゃんばっかりで何かやろうか」と、Facebookグループを立ち上げたのが始まりなんです。だから「オッサンばっかり」に対抗する「おばちゃん」なんですよ。

編集部

 そこから輪が広がって、グループに参加している「党員」はいまや2000人以上にものぼるそうですね。

谷口

 最初は友達がまたその友達を誘って、みたいな感じで、「400人超えた、500人超えた、すごい!」とか言ってたんですけど。まさかこんなに注目されて、マスコミに取り上げたりされるようになるとは思いませんでした。

編集部

 グループのページでは、原発のことや選挙のこと、人権のこと、教育、介護、食…と、幅広いテーマで「おばちゃん」同士の熱い議論が繰り広げられていますね。

谷口

 実は、こういう場を立ち上げたのには、私たち女性の側の自戒の念もあったんですよ。これだけ男性中心の「オッサン政治」の世の中になってしまったのは、もちろん彼らだけが悪いわけじゃない。おばちゃんも「私ら難しいことわからへん」とオッサンに任せきりにしてきたことに対しては反省しないとあかんと思うんです。
 だから、「おばちゃんの"底上げ"がしたい」というのもおばちゃん党の狙いの一つなんですね。知識的な底上げもそうやし、議論の仕方とかもそう。「なんで私、書き込んでもあんまり『いいね!』してもらわれへんねんやろ」とか考えるだけでも、いろんな気づきがあると思います。
 それから、党員には研究者や医者などいわゆる「エリート」の女性も多いんですが、彼女たちにとっても、「フツーのおばちゃん」にわかる言葉で議論をするためのトレーニングになるんですね。難しいことばっかり書いてても誰も読んでくれませんから。まさしく「井戸端会議」で、そこが双方向につながることに意味があると思ってます。

編集部

 昨年11月には、大阪で「始動式」を実施。翌月に「おばちゃんはっさく」が発表されました。

谷口

 あまりにも生活感のない「維新八策」に対抗して、うちらが「八策」を作ったろう! と(笑)。憲法で保障していることを書いただけなんですが、「わかりやすい」と言っていただいて、そこからまた「入党」される方が増えましたね。

編集部

 3月の「東京場所」でも、「骨太の方針」ならぬ「腹太の方針」が発表されましたね。<子どもに目ぇと手ぇと愛を><ステルスよりも豚まん買うて!>などなど、これまたすごいインパクトでした(笑)。

谷口

 それも仲間とのおしゃべりの中で「何が骨太や、私ら腹太やわ!」とか言ってる中で出てきたものなんです。あくまでパロディ、「オッサン政治」に正面切って対決するんじゃなくて「あほちゃうか」と茶々を入れる、肩すかしを食らわせるというやり方で行きたいと思ってるんですね。私は大阪の人間なので、あくまで笑いに昇華させたいし、それによって注目してくれる人も増えるはず。それに、もともと「お笑い」というのはそういう、権力者を「笑う」ものやったと思うんです。特に、大阪はそういう文化がある場所やと思っているので。

ポジティブに「おばちゃん」を自称する
編集部

 女性が主体となった政治運動というのはこれまでにもありましたけど、「おばちゃん党」というのは、ネーミングからしてもかなり異色です。

谷口

 今までのフェミニズムとかジェンダーとかを掲げた運動は、あまりにも一部のエリート、そしてキャリア女性のための運動であったなあ、という気がするんですね。それ以外の女性たちにはその概念が伝わらなくて、むしろ敵対するような感じさえあった。その女性同士の対立構造の陰で、ほくそ笑んでるのはやっぱりオッサン、というばかばかしい状況があったわけです。
 もちろん、そういう「エリートの運動」の形が必要だった時代もあったと思うんですが、これから先はやっぱりそうではなくて、「フツーの女性」の問題、という方向に持っていけたらいいなという思いがあって。あえてフツーの女性=「おばちゃん」を自称するのは、そういう理由もあります。

編集部

 でも、「おばちゃん」という言葉に抵抗のある人もいませんか。

谷口

 そこはやっぱり、オッサンの「ロリコン文化」に汚染されてますよね(笑)。「女性は若くなければ価値はない」とか、かつてならクリスマスケーキ、今は年越し蕎麦とか、平気で言ったりするわけじゃないですか。
 でも、考えてみたらなんで、単に中年女性を表す言葉である「おばちゃん」を名乗ることが、恥ずかしいことになってしまうのか。なんで目尻にできた皺が、自分の人生の豊かさやと思えないのか。女性たちも「マダム」と呼ばれるなら抵抗がないとか言いますが、フランス語のマダムは「おばちゃん」でしょう。それ以外の日本語訳は思いつかない(笑)。

編集部

 たしかに「マダム」は良くて、「おばちゃん」は嫌というのは、矛盾してますね(笑)。では、谷口さんもおばちゃん? 実年齢では「おばちゃん」と呼ばれることに違和感のある年代だと思いますが…。

谷口

 私は「3歳からおばちゃんでした」ってよく言うんですけど(笑)、年を若く言いたいとか思ったことは1回もないです。「女性に年を聞くなんて失礼ですよね」と言われたりもするけど、なんで失礼なのか全然わからない。

編集部

 自分の年を言いたがらないとか、「聞くと失礼」だとか、男性にはあまりない話ですものね。女性自身もそういう、「若くなければ」という価値観に縛られているところがあります。

谷口

 例えば、性的マイノリティの人たちが今好んで使う「クィア」という言葉は、もともと「変態」という意味の蔑称だったのが、本人たちがあえてそれを使うことによって社会的な認知が高まって、いまや「クィア学会」なんてものができるまでになった。それと同じように、私たちがポジティブにおばちゃんおばちゃんって言ってたら、「おばちゃんってええやん」っていう人が増えるんとちがうかな、と思っているんです。

男性も女性も「みんなが生きやすい社会」を
編集部

 さて、「おばちゃん党」の出発点になった「政治の場がオッサンばかり」ですが、たしかに日本の国会における女性議員比率は、世界でも最低水準(*)だと指摘されていますね。なぜここまで低いのでしょうか? クオータ(割当)制(*)を取り入れていないなど、制度面の問題もあると思いますが、それ以外にも何か原因がありそうです。

*日本の国会における女性議員比率は、世界でも最低水準 …IPU(列国議会同盟)の調査によるもの。朝日新聞記事など参照。

*クオータ制…ここでは、政治の場における男女格差を是正するための暫定措置として、議員・閣僚、政党候補者などの一定の数を女性に振り分けるシステムの こと。ヨーロッパなどで広く導入されているほか、アジアでは韓国が2004年国政選挙から導入、それまでは日本以下だった国会における女性議員数を大きく伸ばした。

谷口

 女性議員に対しては、男性議員に対してはあり得ない、特有の嫌がらせがあると聞きます。昔の彼氏の話とかも、すぐ引っ張り出されてスキャンダルにされるでしょう。別に何か悪いことをして付き合ってたとかでもないのに。知り合いの女性議員に聞くと、匿名での中傷もものすごく多いそうです。
 つまり女性は、家族に対するものも含めそういうプライベート面でのバッシングを引き受けて初めて議員になれるということ。あまりにもハードルが高いんです。女性議員のなり手がなかなかないのも当然じゃないでしょうか。

編集部

 一方で最近は、長引く不況もあって、自民党をはじめ構成員がほとんど男性の政党からも「女性の労働力をもっと活用すべき」みたいな声が聞かれるようになっています。

谷口

 でも本来、景気がよかろうが悪かろうが女性を活用するのは当然の話。景気がいいときはパートにも出ずに家でじっとしていてほしくて、景気が悪くなってきたら今度は安い賃金でたくさん働いてほしい、というオッサンの本音が見え隠れしてる気がします。

編集部

 安くて便利に使える労働力、という感覚から抜け切れていない…。

谷口

 そう思います。女性を「100均化」してるというか。女性へのリスペクトがなさすぎですね。
 唐突ですが、家でトイレ入っててトイレットペーパーが切れても、そのまま補充しない人っていてますよね。実はうちの夫がそうだったんですけど(笑)、そういう人ってたぶん、会社でコピー機使ってて紙がなくなってもほったらかしやと思うんですよ。あるいは、自分が毎日家で使ってるトイレットペーパーの種類も知らない人が、会社で在庫管理の仕事ができるとはどう考えたって思えませんよね。そんな日常的な観察もできてないのに、仕事で「お客様をしっかりと観察しなさい」とかなんで言えるんや! と。
 そう考えると、家事――家の中をマネジメントするって、ありとあらゆる職種をこなせないとやれないことなんです。それを担っている多くの女性――というかおばちゃんを軽んじて見ること自体がおかしいと思いますね。

編集部

 でもそういう、女性の役割を副次的なもの、二次的なものに押しとどめている状況って、決して男性にとっても幸せなものではないと思うんですが…。裏返せば「男は働いて家族を養わなきゃいけない」みたいな縛りがあるわけで、それはそれでシンドイ思いをしているのではないかと。実際、働き盛り世代(30才〜69才)の男性自殺者は、女性の2倍以上の人数にのぼっています。一概には言えない問題がそこにあるのでしょうが。

谷口

 結局、女性が生きづらい社会というのは、社会全体が行き詰まっているということでもあるんですよね。だから、本来的には「女性」というカテゴリにこだわるのでもなく、私らがみんな楽しく毎日、仲良く暮らしていける社会にどうしたらしていけるのかを考えたい。「おばちゃん」というネーミングはそこを包括できるものでもあるのかな、と。「党員」は今のところ女性のみですが、おばちゃんマインドを持った男性には、「オッサン」ではなく「おっちゃん」として党の「サポーター」になってもらっているんですよ(おっちゃんサポーターサイト)。

編集部

 「オッサン」と「おっちゃん」は違う、と(笑)。おばちゃん党が、そうして女性だけでなく男性も含めた、社会の硬直的な感覚を変えていくきっかけにもなっていくといいですね。ちなみに、今後のFacebook以外の活動の予定はあるんでしょうか?

谷口

 Facebookに参加していない人、インターネットにつなげない人をどう巻き込んでいくかは、今後の課題の一つです。それもあって、まずは8月に東北の、東日本大震災の被災地に行きたいと思ってます。題して「おばちゃんに乾杯」(笑)。特別にイベントとかは考えていなくて、ただとにかく東北のおばちゃんたちと「井戸端会議」をしたい。人にしゃべったら楽になること、部外者相手やから話しやすいことって、あるでしょう?
 あとは3年後に大阪で「全世界おばちゃんサミット」を開こうと思っていて。そのときはヒラリー・クリントンにもぜひ来てもらおう、という話を仲間としています。もともと、おばちゃん党を立ち上げたときも、海外メディアからの取材がかなり多かったんですよ。そうやって世界的な認知度を高めて、いつか英語の辞書に、「MOTTAINAI」と同じように「OBACHAN」を載せたい、と言っているところです(笑)。


(構成:仲藤里美 写真:シャノン・ヒギンス)

その2へつづきます

とにかくパワフルで、話を聞いているとこらちまで元気になってくる谷口さん。
5月11日(土)のマガ9学校では、
ゲストの雨宮処凛さん、想田和弘さんとともに、
「オッサン政治」にさらに切れよく「物申して」いただきます。
そしてインタビュー後編は、ご専門である憲法について。
いまの改憲論議のおかしさについて、鋭くツッコみまくっていただきました。
こちらもご期待ください。

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