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この人に聞きたい
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辛淑玉さんに聞いた

9条は在日外国人にとってもかけがえのないもの
憲法9条は、単に日本人だけでなく、日本で暮らす外国人にとってもかけがえのないもの。
在日朝鮮人の立場から、もしも9条が変えられたら
日本はどうなるかについて、具体的に語っていただきました
辛淑玉さん
しん すご 1959年東京生まれ。
在日三世。人材育成コンサルタント。
明治大学政治経済学部客員教授。
壮絶な個人史をまとめた『鬼哭啾啾』(解放出版社)をはじめ、
『怒りの方法』(岩波新書)、『女が会社で』(マガジンハウス)ほか著書多数。
最新刊はハンディを持つ子どもたちの絵をまとめた『となりのピカソ』(愛媛新聞社)。
殺す側に回る責任を負いたくないから、人は「政治家にだまされた」という保険をかける
編集部 辛さんは在日三世。日本国籍は取っていませんよね。
 それは表現がおかしいですよ。 私が取らないのではなく、日本の政府が与えてくれないのです。ですから、日本生まれなのに韓国籍です。
 旧植民地出身者に対して、国籍の選択も許さず、二重国籍も認めず、生地主義
(※編集部注:出生地主義とも言う。出生による国籍の取得に対して、父母の国籍を問わず、この出生地の国籍を与えるという主義)もとらず、「帰化」にも人権蹂躙問題をはらみ、国連から何度も勧告を受けているにも関わらず無権利状態に置き続けているのは、世界でも日本だけです。
編集部  在日外国人は、日本の憲法や法律からは除外されることが非常に多いですね。それでも憲法9条は貴重と思えますか?
 もちろんです。というのは、9条はけっして平和を守るためだけのものではない。9条は平和だけでなく、人権をしっかり守るための手立てとしてもすこぶる有益なものだからです。
  考えてもみてください。もっとも深刻な人権侵害を引き起こすのは戦争です。殺し、殺され、自由にものも言えず、男は戦争のタマに、女は銃後の備えに無理やりされてしまう。戦争ほど人権を損なうものはありません。なぜなら、戦争を遂行するためには人権などすべて剥奪しなければならないからです。
  国際人権宣言だって、数々の戦争への反省から生まれたものですよね。9条を変えるということは、人権はいらないと言っているのと同じことなんですよ。
9条の改変を軸に、あらゆる日本国民の権利が抑えられようとしている
編集部  9条が変えられると、在日外国人も困る?

 もちろんです。いま、日本社会を見渡すと、戦争に反対する声へのプレッシャーが日々に強まっています。たとえば、自衛隊のイラク派遣に反対するビラを配った人が逮捕されるという事件がありましたね。たかがビラを配っただけで逮捕ですよ。
 ビラだけじゃない。9条の改変を軸に、あらゆる日本国民の権利が押さえ込まれようとしています。盗聴法や住民基本台帳法などはその典型でしょう。住基法なんて、見事だとすら思いましたね。私は、あれは外国人登録法に極めて近い法律だと思います。
 今まで日本人については、ある人が戸籍に名前の載っている特定の人だということを証明することはできなかった。日本人は国家と個人の関係があいまいだったのです。これに対して外国籍住民は、犯罪者予備軍と見なされてきたことからしっかり管理されていて、国家と個人の関係が明確なのです。 個人を明確に識別できる、ということで一体誰が得をするか。実はこれは国家に大変な力を与えることになるのです。
  国にとって、個人を特定できることは、反対する者を抑えるのに極めて都合がいいことですよ。それなのに多くの日本人は、便利になってよかった、といった程度の感覚しかもっていない。在日外国人が置かれている状況を全く知らないから、これから自分たちが在日外国人並に扱われるということがどれほどしんどいのかがわからないのです。
 
また、東京都の教育現場のように、日の丸や君が代の押しつけが始まり、国民の内心の自由も侵されようとしています。

編集部  改憲をテコとして、国民の権利を制限するベクトルが働いているのですね。
 在日外国人を長いことやっていると、そうした動きがよく見えるんです(笑)。
 日本では外国籍住民に憲法の精神が及んでいるとはとても言いがたい。そもそも、外国人登録法にしても出入国管理法にしても、在日外国人を住民として遇する法律ではない。すべて処罰を前提とした法律ですよ。かつては永住者であっても指紋押捺の義務があったのはもちろん、住所変更を届けなかっただけで違反となり、重い刑事罰が課されました。いまは行政罰だけになりましたが。
  在日外国人は長い間、管理と抑圧の対象とされ、人権をないがしろにされてきました。そこには内外人平等の原則はまったく反映されていません。アパートへの入居も、就職もできない時代が長く続きました。何を大げさなと笑う人がいるかもしれないけど、現在も権利という意味では、在日外国人は奴隷のような状況に置かれています。
  それがこのところの改憲論議で、在日外国人の人権はさらに一段と低い地位に落とされかねないと危惧しています。
  私見ですが、この改憲論議は9条と両性の平等を謳った24条、それに教育基本法の改悪がワンセットになっていますよね。その意味するところは、男を戦争のタマにする、女は銃後の守り、さらにはタマの再生産役にしようということです。戦争動員という口実のもと、日本人も人権を制限されて国家の奴隷とされてしまうのです。日本国民も在日外国人なみに管理するという方向へ、さまざまな法整備や世論誘導が進んでいます。
9条が変えられると、日本人は奴隷に、在日外国人は家畜並の扱いになる?!
編集部  そうなると、国籍を持っていない在日外国人の人権はさらに守られなくなる?

 改憲を主張している人々は政権寄りで、社会的にも経済的にも強い立場の人が多いですよね。それでなくても日本社会は強者の論理が横行し、弱者は生きるだけで大変です。そんな状況で強者に反対するのは生やさしいことじゃないから、一瞬のすきをうかがう必要がある(笑)。大切な時、肝心な時にみんながどう手をつなげるか、そのことを今からよく考えておくべきですね。
 地方を講演で回ることが多いのですが、よく会場で「辛さん、がんばってね」と声をかけられます。「ちょっと待ってよ」と思いますね。
 「がんばれ」と声をかける前に、まず自ら何かをやってみること。ささやかでもいいからみんなが自分でアクションを起こせば、私たちはいつでもつながることができます。
  なのに、多くの人々が受身のまま、誰かが何かをしてくれるのを待っているだけです。自分は何ができるか、何をするかという自分自身への問い、発想に乏しい。このままでは、日本国憲法はいまの日本国民にはもったいなさすぎると陰口を叩かれても仕方ないかもしれません。そうならないように、この憲法を使って権力と闘うのだというくらいの気概を持ってほしいですね。

人権が守られなくなるということがどういう状態になるのか、
日本人として暮らしていると、
当たり前すぎて気がつかない多くのことを、
辛さんは在日外国人の立場からリアルに語ってくださいました。
辛さん、ありがとうございました!
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