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それは、一枚の反戦Tシャツから始まった!?
渡辺さんが考える9条改憲問題の決着のつけ方、
そして世界の行方についてお聞きしました。
わたなべ・しんや
日本とアメリカにて経済学を専攻後、ニューヨーク大学大学院にて美術修士課程を修了。世界34カ国を陸路にて単発的に放浪する過程にて、国民国家とアートとの関係性をテーマとした国際美術展を製作するようになる。2005年愛知万博開催の際には、日本国内とニューヨークを舞台とした展示「もう一つの万博 - ネーション・ステートの彼方へ」をキュレーションした。この展示では、万博の構成単位となっている国民国家そのものを作品のテーマとして扱っている美術作家を旧ユーゴスラビア諸国などから集め、2005年8月15日の60回目の終戦記念日にニューヨークにて開催することで、二つの世界大戦を産んでしまった近代国家と、その現状への影響を批判的に展開。今年1月には、憲法第9条をテーマとした美術展「アトミックサンシャインの中へ - 日本国平和憲法第9条下における戦後美術」を、ニューヨークにて開催し、大きな反響を得た。
渡辺さんは現在、ニューヨークを拠点に活動されていますが、アメリカとの関係ができたのは、いつ、どのようにしてでしょうか?
最初にアメリカに行ったのは、1999年です。いわゆる語学留学のためのホームステイを19歳の時にしたのですが、その時お世話になった家庭が、ユニタリアンでした。ユニタリアンとは、どちらというと神道に近いような自然信仰を持つアメリカではまれな宗教ですが、ホスピタリティ溢れるアメリカ人家庭で、とてもいい部分にたくさん触れ、感激と感謝で。私を本当に家族の一員として迎えてくれた、彼ら、そしてアメリカへの恩返しがしたいと思い、将来は、アメリカの大学で学ぶことを考えました。
その後、大学3年生のときに、イリノイ大学に1年間留学をしたのですが、ちょうどアフガン空爆前夜みたいな感じになって、日本にもどってきてから大学で、1人反戦運動をやっていました。
“1人反戦運動”って、どんなことをしたんですか。
昔、オノ・ヨーコさんが反戦アピールをした“ベッドイン”のときに作ったあのTシャツを真似て、「WAR IS OVER, IF YOU WANT IT」とメッセージの入ったのを自分で勝手に作り、それを着て毎日学校に行くんです。そうすると、「渡辺君、このTシャツ欲しい」とか言ってくる人がいたり、「何でこんなことやるの」と聞いてくる人がいたりするから、そうすると「おれは、民主主義をやっている限りは、みんなが自覚的にならないと変わらないことだと考えているから。今戦争が起こっていることに関してもそうだ」という話とかを、延々、禅問答のようにやるんです。
そんなことをやっているうちに、大学の経済学部のゼミとかで、先生から「渡辺に1枠やるから、ディスカッションをして、学生と意見交換をしろ」と言われたので、「アフガン空爆に賛成?反対?どっち?」みたいなテーマでやったら、なんとそこにいた学生の半数が、アフガン空爆賛成だったんですよ。私、それに愕然として、みんな、バカだ!と思って・・・。
そこから、1人反戦運動をやるようになって、学生を一人ひとりつかまえて話をするんです。「アフガン空爆についてどう思っているんだ?」「なぜそう思うのか?」「そんなことで本当にいいのか?」と。
それは、相当な変わり者として、学内で目立っていたでしょうね。
そうですね。卒業後、再びアメリカに行き、ニューヨーク大学の大学院に入るんですが、そこでも、反戦運動の中心メンバーと目されていたんです。でも一切、いわゆるグループには加わりませんでした。
それはどうしてですか?
嫌なんですよ。団体の威厳みたいなものをどこかで持ち出してきて、それを肯定するようなやり方というのは絶対嫌だなと思って。私たち団体はこうであるみたいな感じで、少数意見をつぶすみたいなのが私はすごく嫌で。だから、1人でやるしかないと。
なるほど。それで、だんだん美術の世界に興味が向いていくのですね。
私は、日本の立ち位置ってかなり特殊で、おもしろいことが言える立場にあると思うんです。一神教が成立していなく、9条を持っており、とりあえず近代化を成し遂げている、というのはやはりかなり特殊だと思います。
何かそういう所でおもしろいことをやりたいなっていうのをずっと考えているんですけど、例えば日本において難しいのは、宗教の話がまずできないというのが1つと、アメリカにおいて難しいのは、外部的視点を持つことが苦手すぎる、ということ。
そうするとどうなるかというと、ある種のトランスナショナルなものというものを通過した人たちが、ユニバーサルな言語をもって話すしかない、という話になってくると思うんですね。それに近づくような芸術、展覧会を、私は企画してやりたいなと思っています。
ところで、渡辺さん自身は、憲法9条はどうすればいいいと考えてますか? 研究対象としておもしろい、重要である、ということだけではなくて。
私は、憲法9条をどうしたらいいのかというのは、現時点では実はわかりません。そう思っている人は結構多いと思うんですけれど・・・しかし私は、自分がどうして「分からない」と思うのかを、多くの方と正確に共有したい、と考えています。
私は、とりあえず現実的な路線として3つの道があると思っています。
1つはガンジー主義ですね。私は、非暴力、非抵抗のガンジー主義を日本がやることは現実的に不可能だと思っています。というのは、これは例えば、町に警察がいないというのと一緒で、国家というのは暴力の独占機関ですが、暴力を独占することによって、法治国家として、犯罪を抑止するという機能があるわけです。そういうところを、何か一段抜かしにしてしまって、例えば兵隊がなくなれば世界が平和になるというふうに考えるのは、私は問題だと思っています。だからガンジー主義はちょっと難しいだろう、と思います。事実、ガンジー主義は失敗しました。
もしも、日本国民が一致団結してガンジー主義をやろう、というのであれば、私は最後の1人になった場合は、その動きに同意します。でも、その最後の1人までが同意しない限りは、ガンジー主義は成立しないと思うんですね。そういう意味で、私は、現実的じゃないと思います。でも、9条の理想というのは究極的にはガンジー主義に近づくことですよね。
2つ目が現状維持です。現状維持というのは、自衛隊を保ちつつ、安保も保ちつつ、戦争に加担せず、9条を持った私たちは平和な国民です、と言い張ることです。しかしそれは、現実と憲法がまったく乖離しており、分裂的情況を悪化させてしまう為、例えば加藤典洋といった靖国の問題をやっている人たちからすると、何とかしなくてはならない、というものです。逆に内田樹が言うように、現状維持というのは疾病利益の様に非常に高等な戦略であると。それで日本は非常にうまくやってきたと。それは保守の思想としては、私はそんなに間違ってないと思っていているので、現状、つまり未来の数年間というスパンで考えた場合、選択肢としては、これしかないかなとちょっと思っています。
第3の道が改憲です。改憲をして自衛軍を持つ。しかし、その改憲をする最大の条件は、日米安保を破棄することに尽きます。
アメリカのネオコンが今、狙っているのが、集団的自衛権という名目を利用して日本軍を、海外でアメリカの戦争に利用する、ということです。そうすると、アメリカにおけるベトナム戦争の黒人兵のように、日本軍が最前線で戦わせられて、日本そのものが疲弊していくでしょう。
アメリカは、対テロ戦争という非対称性そのものを相手にして戦っていて、絶対に勝てない戦争を続けています。そんなものに、今、日本が巻き込まれようとしている。こういう状況でただ単に9条を改憲したら、日本はアメリカの戦争に駆り出されていくだけです。それを防ぐためには、もしも自衛軍を持つのであれば、もう私の国は自分で守りますよ、日米安保は要りませんからアメリカの戦争にも協力しませんよ、といって改憲することしかない。
私は、とりあえずの立場で言うと、2から3への時期がおそらく10年後、20年後に来るのでは、と思います。そのときになってみないと、ちょっとわからないですけれど。
でも芸術という理想を述べている身としてみては、やっぱり1も捨てがたいんですよね。
アメリカの侵略戦争に巻き込まれないために改憲するというのは、慶應大学の小林節さんもおっしゃっていることですよね。でも小林さんは、その一方で、改憲しようとしている今の勢力、自民党の政治家たちがあまりにも憲法のことを知らない、そんなやつらにあぶなっかしくて、新憲法なんて作らせたくない、ともおっしゃっていましたが。
私もある程度同意します。自由民主党そのものがアメリカの後押しで成立した政党であることを理解しなくてはなりません。さらに憲法の話というのは、実はそんなに単純ではないですよね。例えばマックス・ヴェーバーとかカール・シュミットとかフリードリヒ・ハイエクとかそういうところをある程度押さえないと、憲法議論というのは正直難しいなというふうに思うんですよ。
それは陪審員制度とかに関しても一緒で、これについて、日本国憲法草案チームの責任者だったケーディス大佐がすごくおもしろいことを言っているんです。日本の憲法学者が1993年に来日したケーディス大佐に、「なぜ日本の憲法に陪審員制度を書かなかったんですか?」という話をしたら、ケーディス大佐は「陪審員制度そのものがアングロサクソンの思想であって、ナポレオン法典とワイマール憲法をベースとした日本に合わない」ということを言っていたそうです。いや、この人はすごいな、と思ったんです。だって、それを言っているケーディス大佐は、ニューディール政策に加担したユダヤ系アメリカ人なんですよ。だから、アメリカ人の視点でもなく、ヨーロッパ人の視点でもなくて、マイノリティー的な視点が、そこにはある、ということです。
イングランドの憲法というのは、かつてノルマン・コンクエストのときにデーン人のバイキングの王様が来て、アングロサクソンの国民たちがいじめられた、という所に根ざしています。その時に、みずからの権利を守るために権利の章典、マグナカルタをつくって、しかも陪審員制度やコモン・ローということを作ることによって、国民たちをみんなで守ることができたわけですよね。
日本でそれをやってしまうと、私、ちょっと機能しないんじゃないかなと思っていて。やっぱり、歴史のコンテクストがあまりにも違いすぎて、もしも、例えば日本がモンゴル軍にやられていて、モンゴルに対する反省から、例えば陪審員制度で自分たちを守ろうみたいなものがあるのであればわかるんですけど、下手に倫理的なものというものが世の中を動かしてしまうときに、私は危険な方向に行く可能性のほうが高いと思うんです。
日本では、裁判員制度が来年には施行されますが、「もし裁判員に当たったら、どうやったら断れるのか」といった本当に目の前の自分中心の心配事ばっかりが話題になっていて、根本的な議論が進まない現状があります。
日本は本当に・・・これから大変だと思います。すごいリアルポリティックスに話をすると、アメリカそのものが圧倒的に弱体化するでしょう。アメリカそのものがネオコンに牛耳られてしまっている状況で、アメリカの「保守」そのものが成立しないという、日本にちょっと似た状況が生まれていて、パラダイムシフトが近いうちに何らかの形で起こると思うんですけど。
例えば、ドル崩壊とかが起こり得ると私は思っていて、そのときにどうなるかというのも結論が出ているという噂もあります。連邦準備銀行の通貨そのものを州政府に移してしまうと。そうすると、アメリカの連邦制そのものが破綻するんですよ。または、北米諸国を巻き込んで、アメリカ経済の延命のために北米通貨を作る、なんて噂もあります。私は、21世紀中に何らかの形で世界が連邦化していくと思っていて、そのときの過渡期みたいなものが今だと思うんです。今、国連の最重要議題が人口統制になってきていて、それも恐ろしい話なんですけど。
うーん、深刻ですね。人口爆発と食糧需給の問題もあります。そういう世界的な危機、世界のシステムの過渡期だからこそ、芸術家たちはそこで何をしていくかというか。彼らの出番ですよね。
でも、そういう芸術家そのものが、今、いなくなってしまって。それこそ、アートフェアでどうやって作品を売るかみたいなのが芸術家になり下がってしまったのであれば、非常に残念ですよね。アートフェアがだめとか言っているわけではなくて、芸術家そのものはもっと大きなものを見なくてはいけないと思うんです。そういう思想家が、日本にはかつていたと思うんですよね。吉田茂が、それこそ9条と安保に関して、「将来、絶対に日本とアメリカの知恵比べをする時がもう1回来る」と。その時に、日本人がどうするかだ、と彼が言っていることは、ちょっとナショナリスティックに聞こえるかもしれないですけど、私は本当にそうだと思っていて。日米安保を結んでいることは、もう日本にとって国益にならない時代が、もうすぐ来ると思うんです。
だから、そういうダイナミズムというのをいかにみんなが読み取ってやっていくかということなんじゃないでしょうか?でも、今、安保反対を唱えている人なんか、ほとんどいないですよね。
たしかにそうですね。今回は、いろいろな角度から9条や憲法について、改めて考える機会が持てました。ありがとうございます。展覧会の成功をお祈りしています。
8月に東京で開かれる企画展
「アトミックサンシャインの中へ ー日本国平和憲法第九条下における戦後美術ー」は、
現代美術の作品を通して、憲法や近代の問題を考えてみる良い機会になるでしょう。
8月6日のオープニングシンポジウムには、
鈴木邦男さんもパネラーとして参加します。詳しくはこちら。
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アトミックサンシャインの中へ
ー日本国平和憲法第九条下における戦後美術
日 時:2008 年8月6日(水)〜8月24日(日)11:00-19:00 月曜休
入場料:500 円
会 場:代官山ヒルサイドフォーラム ヒルサイドギャラリー 03-5489-1268
お問合せ:article9@gmail.com
詳 細: http://www.spikyart.org/atomicsunshine/indexj.html
寄付のお願い)
ニューヨークでのパネル・ディスカッション・イベント、映画上映会、美術展の開催後、日本巡回展に向けて準備をしてきましたが、展示の性格上、巡回の為の助成金を集めるのが非常に困難です。
そこで、この展示企画に賛同して下さる方々から寄付金を募りたいと思います。詳細はこちら
皆様からの寛容なるご協力をお待ち申し上げます。失礼します。
渡辺真也
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