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2013-06-19up

この人に聞きたい

佐々木るりさんに聞いた(その2)

自分の生き方として、
福島のことを伝え続けていく

テレビや新聞で福島が取り上げられることは、めっきり少なくなりました。ときおり登場するのは、復興に向けて懸命に努力する人たちの笑顔です。そうした報道に接していると、まるで福島は平時に戻りつつあるかような気がしてきます。でも、なかなか表に出てこない住民の素顔もあります。とりわけ、子どもを育てるお母さんたちは、どう考え、どんな気持ちで暮らしているのでしょうか。福島県二本松市に住む佐々木るりさんは、5人の子どもを持つお母さんです。真宗大谷派寺院「真行寺」の副住職を務める夫・道範さんと共に、隣接する幼稚園を運営しています。地元のお母さんから、たくさんの相談を受け、自身も悩み続けてきたるりさんに、福島の今を語っていただきました。

佐々木るり(ささき・るり)
1973年生まれ。福島県二本松市在住。真宗大谷派寺院「真行寺」で副住職の夫と共に寺務職の傍ら、寺に隣接する同朋幼稚園の教諭。五児の母。福島第一原発事故以降、こどもたちを被曝の影響から守るために、園児の母たちと「ハハレンジャー」を結成し、全国から送られてくるお野菜支援の青空市場開催、セシウム0の園児食「るりめし」作り、講演等で活動中。鎌仲ひとみ監督作品『内部被ばくを生き抜く』(2012)に出演。

震災後、初めて「活躍する女性」に出会った
編集部

 そもそも鎌仲ひとみ監督と出会ったのは、どんなきっかけだったのでしょうか?

佐々木

 震災後、時々うちのお寺に来てくれていた高遠菜穂子さんの紹介でした。鎌仲監督が撮影に来られたのは、2012年の2月くらいです。私にとって、鎌仲監督との出会いは衝撃でした。あんなに、いきいきと社会で活躍している女性に、出会ったことがなかったのです。震災が起きる前までの私は、女性は3歩下がって男の人について行けばいいと思っていました。お寺は封建的でしたし、二本松はまだまだ昔ながらの家父長制が残っていて、長男が家の跡取り、お嫁さんが同居して、というのが当たり前です。みんなは「かまちゃんかまちゃん」と呼んでいるのに、私だけまだそう呼べなくて。尊敬している親鸞様を「しんちゃん」と呼べないように、尊敬している鎌仲監督を「かまちゃん」とは呼べないんです(笑)。

編集部

 震災後の新しい出会いは、るりさんにとって大きな変化だったのですね。

佐々木

 そうですね。強く生きている女性との出会いは本当に勇気になりました。同時に、自分は楽な生き方を選んでいたことにも気づきました。だまってさえいれば注目されないし、風当たりもありません。自分がなかったかな、と思います。

編集部

 るりさんは、昨年、福井県の大飯原発が再稼働されるかどうかの時期に、官邸前のデモにも参加されていましたよね。

佐々木

 再稼働になる日は、とにかく気持ちが焦っていて、いてもたってもいられませんでした。主人は講演に呼ばれていて不在だったので、電話して「今から福井まで抗議行動に行きたい!」と話しました。すると「今行っても、何も変わらないかもしれないぞ。それよりも、地道にお前の思いをつないでいくことのほうが大事なんじゃないのか」と言われて。それで、いったん冷静になりました。結局、大飯原発はあんなにもアッサリ再稼働されて、「ああ、福島ってこんな扱いなんだ」と気づきました。それまでは、国が簡単に福島を見捨てるわけがないと少し期待していました。でも、全くそんなことはないことが、よくわかりました。

編集部

 昨年末の選挙では、原発維持派の自民党が大勝しましたね。

佐々木

 あの結果には、自分の中で何かがくじかれた思いがしました。そもそも選挙運動の段階で、それまで福島に来たことのなかった政治家がどんどん入ってきて、「原発反対」と言っていたことにも、すごく違和感がありました。自民党の議員に「あれ? 自民党ってそうでしたっけ」と誰かが聞いたら、「福島の自民党は原発反対です」と言うのです。このままでは、また福島の人たちはだまされて苦しい思いをする。官邸前に行ったのは、そんな気持ちを直接訴えたかったからです。でも、選挙結果はどうであれ、私たちの生き方、やるべきことは変わりません。テレビで選挙結果を見ていた時、ふと外に目をやると主人が黙々と庭の除染をしていました。こういうことかと。一番は子どもの目の前から放射能をどけて、安全を守ることで、そのためにできる限りのことをしていかなくてはいけないと思います。

「補償金を渡して言葉を奪う」は
原発建設と同じ仕組み
編集部

 国や福島県は避難した人を呼び戻そうとしていますよね。

佐々木

 そうですね。強制避難区域が解除されて、早く戻った人には補償を高くするという話があります。県外に避難した人への家賃補助は、どんどん打ち切られていっています。これからは福島に戻る人が増えるかもしれません。ただ、お金で人を動かそうとするのが果たしてどうか。私の父はいわき市の高校で教員をしているのですが、浜通りの方から避難してきた若者たちの将来を危惧しています。仕事すれば、東電からの補償金がおりず、お金をもらってしまうと東電に文句を言いにくくなります。でも、彼らには将来があって、これから先、ずっと働かずに済むわけではありません。教師として若者に生き方を教えてきたのに、今の状況ではそれができない。父は、自分の無力さを感じると気を落としていました。

編集部

 お金をもらったがために文句が言えなくなるのは、原発が建てられるときと同じ仕組みですね。現地の人の力を、どんどん削いでいるように見えます。

佐々木

 原発ができるときに国が何をしてきたか、聞いたことはありましたが「まさか」と思っていました。でも震災後は、本当にこんなことされるのかと、実感しました。行政や東電に対して声をあげるのは、手ごたえがなくて疲れます。徐々に「騒いだだけ損」という気になって、日々のストレスは身近な人に向かっていくんですね。自宅の庭を除染して、汚染された土をどこに置くかでも問題になるんですよ。隣同士が「自分の家から離してほしい」と言って両方の敷地のちょうど真ん中に貯めるしかないとか。本来なら、東電に持って行ってほしい。でもそれができないので、住民同士でいがみあってしまいます。

編集部

 家族や近所。大切なコミュニティーが、どんどん破壊されてしまっているのですね。

佐々木

 県外に避難できる人はすでに避難していて、残っているのは、それぞれ事情がある家庭ですね。うちは90代のおばあちゃんが認知症で、家と施設と行き来していますし、お寺も幼稚園もあります。どうしても逃げるわけにはいきません。うちの幼稚園の子どもは、震災前から1割くらい減りました。小さい子は本当に少なくなっていて、さみしいけれど、本当はみんないなくなったほうがいいのかなと思ったり……。でも、避難したご家庭だって、問題が解決したわけではありません。最初は避難して、福島が元に戻ったら帰ろうと思っていても、いつまでたっても何も変わらない。実家が県外にあるお母さんは、子どもを連れて避難したけれど、旦那さんの両親に「孫を奪われた」と思われて、結局離婚してしまった家庭。1人ぼっちで残っている旦那さんがノイローゼになって、うつ病の薬を飲みながら仕事に通っている家庭もあります。

編集部

 本当にせつない話ですね。誰も悪くないのに…。

佐々木

 食べ物をめぐって家族内でもめる、という話もよくあります。二本松の人たちはずっと、自分たちの食べる野菜は自分で作って暮らしていましたから、どうしても野菜作りをやめられないお年寄りは少なくありません。お嫁さんに止められて、いったんは作付けをあきらめても、近所でトマトがたくさんなっているのを見ると、悔しくてたまらないそうです。「もし線量が出たら食べなければいい」と思って、再び野菜を作ります。でも、実際に作物ができると孫に食べさせたくなるんですよね。お嫁さんが断ると、しかたがないから近所に野菜を配りに行き、受け取った側も困ってしまう。誰かが家庭菜園で作った野菜を無人販売で買ってきた高齢者が、お嫁さんとけんかになった話も聞きました。

編集部

 情報を受け取る側は、復興に向けて努力している美しい姿だけでなく、もめたり、だまったりしている姿からも目をそらしてはいけない気がしました。

佐々木

 ある人は「もう福島に住むと腹をくくった」と話していました。でも、私は、諦めるという意味で腹をくくるのは違うと思うのです。子どものために一生何かをするという意味の「腹をくくる」じゃなければならない、って。福島の人たちは、今もここに住んでいることの罪悪感を持っています。子どもを危険なところに住まわせているって。だから話したがらないということもあります。でも、声が上がらなくても、何も考えてないわけではありません。私は、一時的な運動や活動ではなく、一生、自分の生き方として福島のことを伝え続けなければいけない、「二度と繰り返さないで」と声を上げ続けなければいけないと感じています。

←その1

(構成/越膳綾子 写真/塚田壽子)

★お知らせ★
2014年秋公開予定 鎌仲ひとみ監督 最新作
『小さき声のカノン-選択する人々(仮)』

核や被ばくの問題を入口に、人の命や暮らしについて見つめるドキュメンタリー映画を世に送り出し続けている鎌仲ひとみ監督。佐々木るりさんも登場する最新作が、いよいよ本格始動しました。詳しくはこちら

建設の際にも、事故を起こした後にも、
人と人を引き裂き、コミュニティーをも破壊していく原発。
こんなことが、二度とあってはならないと強く思います。
そのためにも、るりさんのように「伝えよう」としてくれる人たちの声に耳を傾け、
何ができるのか、どうしていけばいいのかを一緒に考えること。
できる限り寄り添い、支え続けること。
それが私たちの責任なのではないでしょうか。

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