「映画 日本国憲法」の挿入歌を提供したことでもお馴染みの、 ソウル・フラワー・ユニオンのヴォーカリスト、中川敬さんが、 改憲問題や今の社会状況について、するどく切り込みます。
以前より中川さんは、メディアなどにおいて、「誇りを持って9条の理念を世界中に輸出せよ」というメッセージを出されています。しかしその9条が、与党を中心に改憲しようという働きかけがあります。
憲法9条を、オレが変えない方がいいと思う最大の理由は、今、変えようとしているヤツらがこの憲法を守らなかったヤツらやから。これまで平和憲法を守ってこなかった連中なんやから、変えてもまた守らんよ、アイツらは。だから変えないでいい。きりがない。すぐ暴走する国家に、縛りをかける意味でも憲法9条は必要やね。 ヤツらみたいな政治家をずっと60年間も国の中心に据えた結果、今の世の中、子どもの受難に自殺率の増加と、かなりおかしくなってきた。それと、何よりもアメリカの占領統治がうまくいったね、日本は。アメリカにとっては、大成功でしょ。しかも米軍基地は、そのほとんどを沖縄に押し付けてる。沖縄へ行くたびに、「戦争」はすぐそばにあると感じるね。ファルージャで飛んでたヘリコプターと同じものが、沖縄の空を飛んでるよ。 だから、沖縄の子らは(政治的な)意識が高いね、若いコらでもね。本土に住む人間は、「戦争」を見ないで済むようにやってきてるからね、この60年間。
今や広島の高校で原爆ってナニ? 原爆って誰が落としたの? という質問が出るそうです。
そのうち「アメリカと戦争したの? マジっすか!?」みたいな(苦笑)。この国は来るとこまで来てるなって、ほんとおもうね。だから一人ひとりが変わっていかないとどうにもならんよね。どこからかリーダーが登場して、「みんな私について来なさい」みたいなのも困るし。 やっぱ、「一人ひとり」じゃないかと思う、これから世の中を変えるのは。「カリスマ」が出て来てあれやこれやというのがダメやったのは、もう20世紀で学習済み。逆に言えば、誰か一人に押し付けるようなのもダメ。一人ひとりが声を上げる。その集積で変わっていくというのでないと、あまり信用できない。だから今の日本に「ジョン・レノン」とか「毛沢東」はいらない。 確かにある意味、この右傾化の流れは簡単には止まらないやろね。一人ひとりが、(権力者によって)自分の足を踏まれて、踏むなよオマエ、みたいなことでないと、なかなかこの国は変わりようがないやろね。
しかしみんな鈍感になりすぎていて、気づいたときにはもう遅いということにならないでしょうか?
オレは人のことどうのこうのというより、自分は悔いのないように生きようということです。オレはオレの鬱陶しいものに対してもの言わせてもらうで〜、という感じかな。愛社精神とかないから、オレ。自己チュー(笑)。それに「遅い」かどうかを言うなら、もう「遅い」よ。遅くても、言うことがあれば言い続ける。 日本のミュージシャンは「政治性」を隠すよね。ちょっとややこしいアーティストやないのかとか、そういうレッテル貼られることを、みんな極端に恐れてる。特にレコード会社や事務所。簡単に言えば、それで仕事が来なくなるとかね。けど、もはやオレの場合は、もう関係ない。それにもともと仕事がない(笑)。 やっぱり9・11があって、「アフガン空爆」が始まったときからやね。こう考えるようになったのは。それまでも随分自分の思うことを言うてきた方やとは思うけど、実はオレはまだなんにも言ってないのじゃないかと、なんかそんな気分になったね。レッテルはもういっぱい貼られてるし、残りの人生、ついでやし、もうちょっと踏み込んでみようやないかと。結局、思ってることを言うか言わないかやからね。日本じゃ極左扱いやけど、オレみたいなのは、海外に行けばゴロゴロおる(笑)。 それと、イラクで高遠さんたち3人が人質として拘束されたとき。あのとき権力による弾圧ではなくて、「自己責任」という言葉に象徴された例のバッシングが、草の根でやって来たでしょ。いよいよ来たなって感じがあったね。これは闘いやなと思ったね。 イラクで拘束されたのが、彼女たちじゃなくて、(ソウル・フラワー・)モノノケ・サミットでもおかしくないからね。アラブのどこかで演奏してて、オレらが拘束されて、バッシングされる。そういうことやと思ったね。起ってることは。だから「自分の問題」やという感じがしたよ。
民主主義は、多数決が全てであるといった考え方が力を持ってしまうシステムでもあります。間違ったことであっても民衆が選んだのだからという理由で、まかり通ってしまう怖さがあります。
うん。だからこれからみんなどうすんのかということやね。一応北朝鮮と違って、日本は議会制民主主義やし。オレのやること、言うことは変わらないから。これからも耳障りなぐらいベラベラ喋るやろし(笑)、阪神の応援もするし、エッチもするし、音楽もするし。自分のやることは変わらないよ。
でも、それを誰かから、もうやるなといわれるかもしれないですよ。
だからこれは「闘い」。ずーっと続いてることやけどね。
闘うということは、何があっても自分のメッセージは伝えていくということですか。
それは何かが起こってみないとわからない。けれど、ステージに立って歌うということは、ある種そういうことやで。前々から覚悟をもってやってるよ。 ただオレの場合、ラクして生きたいというのが人一倍あってね(笑)。しんどいことやりたないし、好きなことしかやりたないみたいな。で、いろいろな出会いがあるやん、生きていれば。音楽やっていれば。 障害者との出会いとか、在日コリアンとの出会いとか、沖縄やアイヌ、あるいはパレスチナのコらとの出会いとか、東ティモールの若いヤツらとの出会いとか。元「日本軍慰安婦」のお婆ちゃんとの出会いもあった。 無数にある出会いの中で、オレは常にええ酒が飲みたい。もちろんお茶でもええけど。だから恥ずかしいねん、この国のカタチが。歴史を改竄するような恥ずかしいヤツらがおることが、迷惑やねん。あの自慰史観の連中。ほんま情けない。「大和魂」はどこへ行ったんや! 「右」も「左」もない。オレは「下」やけど。(笑) いくら自分のことを「在日関西人」やと思ってても、外から見りゃ「日本人」やからね。だから責任持たなあかんことがあるね。めんどくさいけど。ええ酒飲んで楽しく生きるためにも、オッサン・オバハンこそ、言い続けなあかんことがあるね。
今、近隣諸国において、外交の状況というのは最悪だとおもうんですけど、実際に影響というか、何か感じることありますか。
この間、韓国へ行ったとき、「日本人立ち入りお断り」ってビラを貼った、ホント若いコらの普通の古着屋さんがあった。ソウルの街のシモキタみたいなとこ。そこにクラブとかいっぱいあって、イベントにソウル・フラワー・ユニオンで出たんやけど。その時に見つけた。ああ、やっぱりあるんやなあって思った。一応記念撮影してきたけどね。もちろん店の中にも入った。店員の女の子、可愛かったし(笑)。で、ライヴが終わった後に、現地のイベント・スタッフの若いコらと話したけど、(反日騒ぎは)トクト(竹島)の問題じゃないんです、て言うてたよ。みんな。
竹島・トクト問題ではないと。
やっぱり、日本の極端な右傾化を気にしてたね。もちろん日本同様、韓国にも急進的な右翼はおるけど、日本政府が再軍備への準備を進めて、急激に右傾化してきていることを憂慮してたね。そういう声の集積やね。それをまたマスコミがおもしろがって「反日」とか煽り立てるわけや。そこにおった韓国の若いコらは、俺ら同様、「政府」と「人間」を分けて考えてたよ。 そりゃ、当然やろ。むしろ情けない気分になったよ、そんなこと言わして。こっちの問題やん。それと、韓国、中国のみならず、周辺のアジアの国が日本のODAに頼らなくても済む「経済力」をつけてきて、いわば声を上げ始めた、ということもある。対等になってきて、普通にものが言える状況になってきたということやね。まあ、ちょっとそろそろ言わせてもらいますわ。そういう感じやとおもうけどね。 「靖国」のことでも、「政治家の妄言」のことでも、中国や韓国から言われるまでもない。オレら日本人自身が決着つけなアカン問題やね、「大和魂」をもってして(笑)。
日本の右傾化は若年層を中心に広がっているように見受けられますが。
ちょっとシニカルかもしれないけれど、もうず〜っと140年ぐらい連綿と同じことが続いている、とオレはみてる。今は、右派が声を上げやすくなったっていうか、マスコミが取り上げるようになったでしょ。両論並べたら、なんかどっちにも理があるかのように感じる。以前は押さえ込まれてたいわゆる右翼的な言説が出てきやすくなったっていうかね。
それは社会的な背景が何か影響しているのでしょうか? マスコミの影響ももちろん大きいと思いますが。
オレは、これは“通り過ぎなあかん道”やという気がするけどね。というのは、例えば、ある人たちは日米安保があったからこの60年間日本は平和やったと言う。で、ある人たちは憲法9条があったから日本は平和やったって言う。なら、沖縄はどうなる? 在日コリアンのこの60年間は? 結局どこかに犠牲を強いた「平和」があるわけやね。だから、9条の文言だけ護ったところでね、それはどうなの? っていうのがオレはあるな。 だからホントにぶち当たらざるを得ないところに日本はもう来てるんやと思うよ。考えなあかんところに来ている。
ロック魂あふれる中川さんの言葉には、 かっこ良さとはどういうことか、ということを改めて感じます。 次回は、ソウル・フラワー・モノノケ・サミットの出発点となった、 阪神大震災直後の焼け跡での出前ライブでの体験や人との 出会いによって生まれるうた、についてお聞きしていきます。 お楽しみに。