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2013-07-03up

この人に聞きたい

武藤類子さんに聞いた(その1)

なぜ「福島原発告訴団」は
立ち上がったのか

作家の村上春樹さんの「東電の社長などは(原発事故の責任を取って)刑務所に行くべき」という発言が話題を呼んでいます。実は昨年、すでに原発事故における法的責任の追及を求め、立ち上がった人たちがいました。それが、東電幹部や政府関係者への告訴・告発に踏み切った「福島原発告訴団」。団長を務めるのは、一昨年の「さようなら原発5万人集会」でのスピーチでも知られる武藤類子さん。告訴に至った経緯や今の思いを伺いました。

武藤類子(むとう・るいこ)
1953年福島県生まれ。福島県三春町在住。和光大学卒業、版下職人、養護学校教員を経て、2003年に里山喫茶「燦(きらら)」を開店。チェルノブイリ原発事故を機に反原発運動にかかわる。現在、「ハイロアクション福島」事務局、福島原発告訴団団長。著書に『福島からあなたへ』(大月書店)がある。

この国では、責任が問われないまま
放置し続けられてきた
編集部

 武藤さんのお名前を初めて知ったのは、福島第一原発事故から半年が経った2011年9月、東京・明治公園で開催された「さようなら原発5万人集会」のときです。そこでの武藤さんの、「私たちはいま、静かに怒りを燃やす東北の鬼です」と、被災者を置き去りにしたままなお原発を推進しようとする動きへの怒りを訴えたスピーチは多くの人の共感を呼び、インターネットを中心に急速に広がりました。あのスピーチからまもなく2年が経とうとしていますが、その「怒り」はどう変化しましたか。

武藤

 基本的には変わっていない、と思います。ちょうど先日、原発事故以前に撮った写真を見ながら友人と話していたのですが、「このころとは(自分たちは)明らかに変わったんだよね」と。本質は変わらないのかもしれないけれど、「鬼になって」しまった、そうならざるを得ない状況があるんだよね、と言っていたところです。
 ただ、2年という時間が経って、怒りだけではなく冷静さが大事だともより強く思うようになりました。怒りは原動力にもなるけれど、それに身を任せるだけではなくて、ここからどう進んでいけばいいのかを冷静に見つめる時期でもあるのだと思います。

編集部

 そうした思いから立ち上がった活動の一つが、武藤さんが現在団長を務めている「福島原発告訴団」だと思います。昨年3月に、福島第一原発事故における法的責任の追及を求めて結成され、東京電力幹部や原子力安全委員会関係者などを業務上過失致死傷罪容疑で起訴するよう求める告訴状を福島地検に提出されましたね。そこに至る経緯を教えていただけますか。

武藤

 福島の原発事故は、これまで私たちが今まで経験したことがないような大きな事故でした。しかし、それに対する国や東京電力の対処の仕方を1年間見続けたときに、あまりにも納得のいかない、不思議なことが多すぎると感じたんですね。1年経っても、どこに、誰に事故の責任があるのか、まるで明確にされることがなかった。2011年8月に福島県二本松市にあるゴルフ場が、「福島第一原発の事故後、ゴルフコースから放射線が検出されて営業に支障が出ている」と、東京電力に対して汚染の除去などを求めたときも、東電は「原発事故で飛び散った放射性物質は、所有者のない“無主物”だから、自分たちに除染の責任はない」として拒否しました。

編集部

 ゴルフ場側が仮処分を申し立てた東京地裁も、「除染は国や自治体が行うもの」として、訴えを退けましたね。

武藤

 東電が起こした事故なのに、なぜ東電の責任において除染をしないのかと、とても不思議でしたね。その後、今度は避難しなくてはならなくなった人たちへの賠償の問題が持ち上がってきたときも、なぜか賠償する側の東電が審査をして賠償の範囲を決めるという。これも、どうしても納得がいきませんでした。
 それに、そもそも一般的に事故や事件が起こったときには、関係企業や機関に対して、捜査機関がすぐに証拠押収のための強制捜査に入りますよね。それが東電に対しては行われないことも、とても不思議だったんです。
 一方で、人々が原発事故という「人災」によって、生活を根こそぎ変えられてしまったこと、そして無用な被曝をずっとさせられてきているという現実は、たしかに存在しているわけです。

編集部

 現実に苦しんでいる人がいるのに、その責任を誰も問われていない。

武藤

 実は、福島では1989年にも、第二原発の3号機で原子炉に冷却水を送り込む再循環ポンプが破損し、2年近く運転が停止されるという大事故が起こっていました。1988年に地元の仲間と結成したグループ「脱原発福島ネットワーク」では、原因究明や再発防止を求めて東電に申し入れを20年間行ってきたのですが、そうした市民からの提言は一切受け入れられませんでした。2010年の6月にも、第一原発の2号機で冷却系電源が全喪失するという事故が起こっています。

編集部

 「意見は聞きましたよ」というポーズだけだった、ということでしょうか。

武藤

 そうですね。そして、何の対策も取られないままに東日本大震災が起こり、あれだけの事故が起こってしまった。その責任は、やはり大きいのではないかと思うのです。
 そして、こんなふうに「責任が問われない」という場面が、日本の歴史の中にはたくさんあったと思うんですね。

編集部

 というと?

武藤

 戦争責任の問題もそうだし、これまで多々起こってきた公害の問題もそう。一番責任があるはずの人たちの責任は問われないまま、いくつも放置されてきたと思います。そして国も大企業も、被害者を、弱い立場にある人たちのことを大事にしてこなかった。
 実は、東日本大震災と原発事故が起こったとき、これで少しは日本という国も変わるんじゃないか、という思いがあったんです。これだけの大事故が起こったんだから、いくらなんでも国も企業も変わるだろう、ちゃんと被害者を守るために動くだろう、と。でも、1年経ってみて、実際には何も変わらなかったことが分かって、とてもがっかりしました。
 さらにこのまま、今回の事故の責任も問われないとしたら、この先もこの国は変わらない。十分な救済もされないまま、国民は黙らされていくだろう。そう思いました。それで、一緒に反原発の活動に取り組んできた仲間たちとともに、告訴に踏み切ることを決めたのです。

告訴を、次のステップに進むためのきっかけに
編集部

 そして昨年6月に、福島地検に第一次の告訴状を提出されました。告訴人には呼びかけに応えた1300人以上が加わられたそうですが、どんな方たちが参加されたのでしょうか。

武藤

 条件は「原発事故が起こった時点で福島県内に住んでいた人」です。それ以外は年齢層も本当にさまざま。子どもの健康被害を気にかけている若いお父さんお母さん、「便利さを優先して原発を維持してきてしまったことを後悔している。自分たちの責任で何とかしなければ」という年配の方…。小さい子どもも何人か加わっています。告訴人それぞれがつづる陳述書には「突然引っ越しをしなければならなくなって、友達とも離れてしまって寂しかった」と書いてありました。

編集部

 一方、「被告」とされたのは、勝俣恒久・元東電会長や班目春樹・元原子力安全委員長など33人。「東電」という組織だけではなく、個人も告訴の対象になっているんですね。

武藤

 ええ。最終的にうやむやにされないためにも、個人の責任をきちんと問うことが重要だと思ったんです。

編集部

 それにしても、弁護士さんなどのサポートはあるにせよ、自分たち自身が法律の専門家というわけではない方たちにとって、「告訴」というのはかなりハードルの高いことだったのではないでしょうか。

武藤

 告訴に当たっての声明文にも書かれていますが、「人を罪に問う」ということは、自分自身の覚悟や生き方が問われるということでもあります。自分の名前で、自分の責任で人を刑事罰に問うわけですから、とても勇気がいると私自身も感じました。おそらく、皆さんそうだったんじゃないかと思います。

編集部

 それでも踏み切られたのは、なぜでしょう? 

武藤

 原発事故から1年が経つころには、すでに福島県民の間にも、溝というか分断ができてきていました。県内に残る人と避難していった人との間もそうですし、残った人の間でも、放射能汚染を危険だと考えている人と、そんなことは気にしないで生きていきたいという人と…。もちろん、すべての分断を防ぐことはできないけれど、選択する道は違っても、せめて東電や役人の責任を問うというところで一致点を見出して、つながれないだろうか、という思いがありました。
 それから、告訴を通じて「自分たちが被害者である」と自覚することが、福島県民が力を取り戻すことにもつながるのではないか、とも考えました。告訴の際には、自分がどんな被害に遭ったのか、現状がどうなのかといったことを陳述書に記入しました。誰もが胸の中に渦巻いているだろう怒りや悲しみをそうして文章化して外に出すことで、自分の置かれている立場を改めて認識し、その怒りをどこに向けていくべきかを考えるという、次のステップに進めるのではないかと思ったんですね。

被害者が自ら声をあげなければ、
「なかったこと」にされてしまう
編集部

 8月に第一次の告訴状が受理されて、その後11月には第二次の告訴・告発状を福島地検に提出されました。このときは第一次と違って、福島県外からも告訴・告発人を募られたんですね。

武藤

 第一次告訴のときから、県外からも「私たちも告訴人になれないか」という声をいただいていました。それに、放射能というのは、当たり前ですが県境で止まるわけではなく、いろんなところに拡散していきます。放射能拡散地図を見てもそうですし、食べ物や瓦礫を通じても全国に広がっていく。もちろんそれだけではなく、日本中の人が事故によって衝撃を受けて、心を痛めたはずで、その意味では誰もが被害者なんですね。だから、福島だけの問題ではなく、みんなが当事者なんだという観点に立って、一緒にやっていきたいと考えたんです。

編集部

 どのように呼びかけをされたんですか?

武藤

 全国10カ所に事務局を設置して、そこを拠点に各地で150回以上の説明会を開きました。私も、全部で60カ所くらい回ったでしょうか。集まってくださる方は皆さんとても関心が高くて…ただ、中には「本当に私たちが“被害者”でいいのでしょうか。むしろ加害者なのでは」とおっしゃる方もいらっしゃいました。

編集部

 原発を立地地域に押しつけて、便利な生活を享受していた、ということですね。

武藤

 それはとても大事な視点だと思いますが、私は「だからこそ責任を問う立場に立ってほしい」とお話ししました。「原発に反対してこなかった」ことを加害性と捉えるなら、それは福島県民にだって、誰にだってある。でも、だからこそきちんと責任を問い直して、新しい価値観の社会をつくるための一歩を踏み出してほしい。そういう責任の取り方もあるのではないか、と。もちろん、「やはり自分は被害者とはいえないから、告訴人ではなく告発人になる」という方もいらっしゃいました。それはご本人の意思を尊重しましたが。
 最終的には、北海道から沖縄まで、すべての県から告訴・告発人になってくださった方が出て、全部で1万3262人。その中には何の結論も出ないまま、すでに亡くなられた方もいて、とても申し訳なく思っています。

編集部

 第二次の告訴・告発状も昨年末に正式受理されましたね。そこから、起訴するかどうかを決定するための捜査が行われるわけですが、進捗はどうなっているのでしょうか。

武藤

 福島地検が、東京地検にも応援を求めながら事情聴取を行っている状況です。東電の勝俣元会長や清水元社長、原子力安全委員会の班目元委員長などに対しても、事情聴取を行ったようですね。告訴団に対してそうした報告があるわけではないので、新聞などのニュースで知るしかないのですが…。
 ただ、なかなか強制捜査にまでは至らない。それで、今年に入ってから「厳正な捜査と起訴を求める緊急署名」を呼びかけて、最終的には10万人以上の方に署名いただき、東京地検や福島地検に提出しました。5月31日にも東京で「福島原発事故の厳正な捜査と起訴を求める大集会」を開きましたが、今の私たちができるのは、そうして周知のための呼びかけやイベントをやったり、あとは証拠になるかもしれないさまざまな資料を意見書として捜査機関に提出したり、ということですね。8月4日にも福島県いわき市で、告訴受理1年を迎えての集会を予定しています。

編集部

 実際に起訴まで持ち込むのは難しいのでは、という意見もあるようですが…。

武藤

 それは検察次第なので、なんとも言い切れません。もちろん楽観はしていませんが、だからこそできることをやろう、と考えています。「あと、何をしたらいいだろう」というのはいつも頭の隅にありますね。不起訴や一部起訴という結果になった場合も、検察審査会に申し立てるなど、形は変わっても、あくまで責任を問い続けるということはしたいと思っています。
 というのは、被害者が自ら声をあげることが、今の状況では何より大事なことだと感じるからです。福島では多くの人が、今も不安と恐怖の中で暮らし続けていて、疲労もピークに達している。住民の間の分断も複雑化・細分化して、声を出しにくい状況ができあがってしまっている。でも、だからこそ声を出し続けないと、本当に封じ込められて終わりにさせられてしまう。その危機感もあって、活動を続けています。

その2へつづきます

(構成/仲藤里美 写真/吉崎貴幸)

「被害者自身が声をあげなければ、忘れ去られてしまう」。
それは、先日インタビューに登場いただいた、
福島県二本松市在住の佐々木るりさんもおっしゃっていたことでした。
痛みや悩みを抱えながら、声をあげてくれる人がいるのなら、
それをきちんと受け止めたい、と思います。
次回、武藤さんから見た今の福島の状況についても伺います。

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