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この人に聞きたい
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鈴木聡さんに聞いた その2

日本としてのかっこいい胸の張り方を考えてみよう
生まれ育った熱海に居をかまえ、ニューヨークからトゥバ共和国まで、
さまざまな場所を舞台に、独自のスタイルで活動を続けている巻上公一さん。
ここ数年の政治状況には、鋭い批判のまなざしを向けていますが、
その根拠となる考え方について、お聞きしました。
巻上公一
まきがみ こういち
1956年熱海市生まれ。超歌唱家。即興演奏家。
1979年「20世紀の終わりに」でデビュー以来、
今なお特異な活動を続けるヒカシューのリーダー。
日本トゥバホーメイ協会代表、ベツニ・ナンモ・クレズマー専属歌手、
日本口琴協会会員、J-scat(日本作詞作曲家協会)理事、
日本音楽著作権協会評議員、人体構造力学「操体法」インストラクター、
中国武術花架拳を燕飛霞老師に10年間師事。
著書に『声帯から極楽』(筑摩書房)など。
最初から護憲や改憲ありきではない議論の場を
編集部 巻上公一さんはご自身のオフィシャルサイト「MAKIGAMI VOCAL WORLD」のおすすめリンクのコーナーに、『マガジン9条』のバナーを大きく貼って、紹介してくださっています。偶然それを見つけてうれしかったのですが、まずは『マガ9』のバナーを貼るにあたっての理由、もしくはきっかけについて教えてください。
巻上 理由? それは簡単です。憲法9条について、今、こういう状況になって改憲という動きもあるけれど、9条の平和主義について皆さんも改めて考えてみてくださいと、自分のメルマガで書いたところ、読者から「北朝鮮とか中国の脅威についてどう考えているのですか? おそってきたらどうするのですか」というメールをもらったのです。

えっ、これはやばいぞと思って。こんな教養のない人が、僕のメルマガ、読んでいるんだ、と思って。これは、9条やさまざまな情報について、ちゃんと伝えていかないといけない、と思ったのがきっかけでした。「9条の会」は、更新があまりされていないようだし、何かいい情報源はないかな、と思っていろいろとネット内を探していたところ『マガジン9条』にいきあたってね。いいのがあったと、貼らしてもらっています。
編集部 ファンからそういう声を直接聞くこともあるのですか
巻上 僕のメルマガの読者は、千人ぐらいしかいないのに、普通千人だったら、そういう意見は来ないだろうというのが、僕の計算ではあったんですが、・・・千の単位からもういるんだな、とわかって。これは、そういう考え方の人ときちんと話し合う機会を持って、どうしてその人がそう思うのかを、僕らがまじめに考えていかなければならないと思いました。

 考え方にギャップがあると、自分はもう50歳になるから、若い人が考えていることがわからなくなっているのかな、と思ったりするけれど、よく話を聞いてみると、本当はちゃんと考えていなくて、考えているんだというふうに思いこんでいるだけのこともある。特に、若い男の人、保守的になっている傾向を感じます。

 保守的になっている背景には、何かにすがりたい、という気持があるのだけれど、今はそれが無くなってしまっている。だからこそ根拠というか、いわゆる「よりどころ」が欲しいのだと思う。でもその「よりどころ」をまちがえちゃうと、大変なことになります。
編集部 今の時代、終身雇用がなくなり、かつてはどこの町でも普通にあった、近所づきあいとかも少なくなってしまいました。だからこそ「すがりたい」という気持も強くなるのでしょうか。
巻上 ずっと前から、“確固たるたる権威”というものは、とっくに消失しちゃっていて、あらゆるものは既に出そろっていて、あとはそれらを選択し、どう組み合わせるか。そんな「ポストモダン」という(くだらない)ことを、僕らの世代がずっとそれをやってきた。そのせいで、後に続く人たち、わけがわかんなくなっている。本当に信じられるものが、わからなくなっているのではないかな。
編集部 そのあたりについて、世代的な責任のようなものを感じたりしますか?
巻上 感じますね、とっても。崩壊すべきものなんてとっくにないのに、あたかも“あるかのようにふるまっていた文化状況”というのは良くないでしょう。そして僕らのまわりの友達にも、そういう傾向は強くあって、芸術家は政治のことを語ってはいけないという方向に向いていったし、そういった雰囲気がありました。

本当は、自分の芸術活動そのものが、政治や自分の生き方と、強く関わっているということを、きちんと伝える必要があるのに。だって、芸術は芸術として存在しているなんてことはありえませんから。そういったことは昔から、文学でも音楽でも芸術の歴史を見れば、すぐにわかるはずなのに、僕らの世代がそうしなかったということは、ようするにみんな教養がないわけ。
ひどいことを言っちゃっているけれど、(苦笑)僕の世代は、哀しい事態だった。要するに逃げの世代、逃避の世代ですね。
「恐怖」は報道によってつくられている
巻上 僕らの世代、そういった風にそうとう酷いのだけれど、それでも まだ僕たちに“ある前提事項”はあったと思う。でも今は、それがもうないんだよね。ある前提事項とは、つまり、日本人はひどい戦争を経験しているから、絶対に戦争はいけない、戦争はしない、ということを、たとえ、誰も言わなくても、暗黙の了解としてみんなが持っていたということ。アメリカ人もそれについては賞賛している時期があったし、海外から日本に来ると、そのことを強く感じると言っていたしね。 でも、今はそれが無くなってしまっています。
編集部 そのような傾向は、冷戦崩壊後でしょうか?
巻上 要するにイデオロギー、信じられる理念が無くなったということです。新しい理念を作ってこなかったからとも言えます。それについては、僕たちの世代にも、もちろん大きな責任があると思います。

今、攻め込まれた時やそういった恐れがある時は、戦争になっても仕方ないだろう、っていうムードにだんだんなっていますね。攻められたら戦うのは当たり前でしょう、と今なら言われてしまいそうだけれど、ちょっと前の時代までは、広島や長崎に投下された原爆の何十倍もの核兵器が作られているのだから、再び戦争がおきたら、その時は地球が滅亡する時だ。だから戦争はもう起きないし、起きた時はもう終わり。そういう共通認識が、みんなにあったと思う。
編集部 ここ数年、近隣諸国の脅威論や不安から、自衛隊を軍に変える必要性や、日本を守るためには、今の9条では不十分だといった議論があります。
巻上 それにてしても、みんなウルトラマンの見過ぎだね。地球を侵略しに未知の世界から、宇宙人がやってくるから、地球を守らなくてはいけない、みたいな。 ウルトラマン的な世界で見ているから、あんなチンプな発想になるんじゃないかな。
だいたい何のために国際交流をやっているのか、経済や文化の交流をやっているのか。会ったらみんな宇宙人ではなく、自分と同じ普通の人だったということが、わかるはずです。

それに、僕は武術をやっているからわかるのですが、武術ではおそっていった方が負けます。おそった力で返されますから。だから弱い方が本当は強いんだという、そういう考え方もあるのです。
「恐怖」は報道によってつくられている
編集部 近隣諸国の脅威ということでは、冷戦時代の方が緊迫状態にあったと思うのですが、当時よりも今の方が、政治家たちも簡単に口にするし、メディアもくり返し取り上げます。
巻上 今の蔓延する不安については、資本主義経済をつかさどっている連中が、マーケティングとしてやっているようにしか思えません。恐怖心をあおることが一番、経済に有効ですからね。例えば、あなたそのままの肌でいると、ボロボロになりますよ、って脅しておいて化粧品を売る。それと同じじゃないですか。アメリカ社会がまさにそうですね。恐怖心をあおってモノを売る。なぜそうなるのか、と言えば、経済が一番大事だと考えている人が、コントロールしているからでしょう。

ともかく、今の一番の問題は、この国に理想が持てないことではないかな。今の復古的な愛国とか、憲法改定への動きというのは、旧態然とした権力をもういちど復興させたい、という動きでしょう。そういう考えは、やはりやめた方がいい。こうなってしまった背景には、コミュニズムが死んで、イデオロギーがなくなって、いろんな人が非常に空虚な感じをもっていることによるものだけれど。

だから今、求められているのは、新しいイデオロギーを作ること。そういう理想を作らなくてはいけない。それがないから、今みたいな、旧態然としたものを復活させようというおかしな事態になっている。
僕らはそれを、みんなでがんばって作っていかなくてはいけないと思う。何もヒーローを作る必要はない。僕たち、一人ひとりが考えて、理想とする新しいスタイルをつくっていく。

日本は戦後のある時期、とてもうまくいっていた。国民主権と自由、民主主義国家でありながら、資本主義の競争社会よりは、やや社会主義的な側面をもち、安定した生活に幸せを感じていた。そういった世界でもめずらしい社会スタイルを持っていたのだけれど、それが今、民営化という名のもとで、どんどんなくなりつつある。

果たしてこのまま、アメリカみたいな資本主義の競争社会になっていいのか、ということもひとつ、考えなおす時期にきているでしょう。共産主義ではないと思うけれど、未来にむけて、どういったコミュニティを作ったらいいのか、真面目に考えなくてはいけない。

いろんな思想家がそのことに少しずつ気付いてはいるけれども、まだまだみんなに伝わってはいないよね。僕たちの世代は、これまでの反省も含め、ほんとうにがんばって、このことについて考えていかなければいけないと思っています。
つづく・・・
次回は、ポストモダンの反省を踏まえ、
巻上さんが考える新しい理想の社会スタイルについて、
お聞きします。お楽しみに!
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