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今までに聞いた人

木村政雄さんに聞いた(その1)

大阪流「お笑い」外交を教えたる
著書『笑いの経済学』(集英社新書)では、これからは大阪力が日本を救うという
独自の論理を展開されている木村さん。
気になる憲法改定については、どう切り込んでいくのでしょうか。
木村政雄さん
きむら まさお・京都府生まれ。大学卒業後、吉本興業に入社。
横山やすし・きよしのマネージャーを8年間勤めた後、吉本興業の全国展開を推進。
常務取締役に就任後2002年に退職。現在はフリー・プロデューサー。
著書に『笑いの経済学』(集英社新書)『35歳革命』(大和書房)など。
勝ち負けを決めないか、自ら負けていく大阪のやり方
編集部 現在議論されている9条の改定について、
どう思われますか?
木村  9条の改定は、国際貢献という口当たりのいい言葉や自衛のためという大義名分にだまされている気がしてならないですね。
大阪では、偉い、りっぱなことを言う人には、どこかうさん臭さを感じています。
北朝鮮にそんなに脅威を感じるのならば、コメディとか、笑える番組を作って、電波を増幅して、北に向かってどんどん送ればいいんですよ。
実際に、金正日は日本のテレビ番組などを見ているらしいですし。こちらが武装するよりも、そうやって相手の国の指導者を変えていく方がいいんじゃないかと思います。
イラクにイラク語を話せるコメディアンを養成して、送り込むというのも、国際貢献になりますね。

 笑いは世界共通だし、笑いのあるところでは、闘いは起こらない。
それに“笑い”は第3の選択肢でもあります。戦争は勝ち負けしかないけど、笑いにはイエスでもノーでもない何かがそこにあります。
意見が違っていても、「両方仲良うしたらええんちゃうの」という。
一見曖昧に見える感覚ですが、内実は白黒をつけずにお互いの呼吸で判断するというか。それで信頼感を持って、違う何かを始めていく可能性がそこにはあるのです。
編集部 自衛隊への入隊率は、
大阪が一番低いそうですね。
 自衛隊の出身地ランキングで大阪は47位と最下位です。
大阪人は、口は達者だけれど、逃げるが勝ち、死んだら損と考えています。お国のためにという意識もあまりないと思います。
富国強兵時代の日露戦争のとき「またも負けたか八連隊」というあだ名で呼ばれた陸軍の連隊があったところですからね。大阪を中心とした八連隊は、日本陸軍の中では、最も弱かったそうです。
大阪人の判断基準は「損」か「得」か「ウケる」か「ウケない」かですから、自分にとって一番損な、死ぬことからは、一番に逃げますよ。
まわりから、「あいつはけしからん、弱虫だ、非協力的だ」と言われても、逃げて舌出して笑っているんです。日本もアメリカに対して、そうすればいいんです。

 こんな大阪的なテイストが、もう少し全国に伝わっていかないかあと思います。政治だけでなく経済についてもそうです。
大阪はかつて「天下の台所」と呼ばれ、商売の中心だった。それがいつのまにか東京に移り、商売を経済と言い換えたとたんに、ダメになった。
人間性が欠如して、数字のやりとりだけになってしまったからです。
商売には、もう少し心のやりとりがあったはず。
最近、30歳前後の若い人たちと、ビジネスセミナーで話をする機会がありますが、何をやりたいかという中身でなく、最終目標に“数字”を目指してどうするねん! といつも言いたくなります
編集部 でもよく大阪の友達に、「これいくらで買うたん?」と
モノの値段を聞かれますが。
 聞かれる前に、すぐに値段を言うこともありますが、あれはいいものを安い値段で買ったことが自慢になんですよ。東京は、高いものを身につけているののが、自慢でしょ?
そこの違いがあります。値段を聞くというのは、一つのコミュニケーションなんですね。大阪の人は、知らない人とでも平気で会話をする。それがちょっとうざったいところでもありますけれど。

 例えば、僕なんかでも、喫茶店でお茶飲んでると、店員のおばちゃんに声かけられますよ。 「あんた木村さんって人?名刺ちょうだい」
なんで? と答えるヒマもなく、隣のおばちゃんにも声をかけて、
「ほら、あんたも、もろとき」。

 大阪弁だとぎすぎすしない人間関係ができるんです。大阪弁を標準語にしたら、東の知事みたいな威嚇した表現はできなくなるでしょう。
マナーは少々悪くなるかもしれないけれど、戦争や命の危険は無くなると思いますが、さてどっちがいいですか?
幸せの価値観を、そろそろ変えた方がいい
編集部 政治家だけでなく、一部経済人たちも9条改定を推進する発言をしています。改定しないと、景気がますます落ち込んでしまうのでは、と不安感を抱く人もいるようですが。
木村  昨年の12月に、あるセミナーの講師に呼ばれました。一部は私が、二部はトヨタ会長の奥田さんがお話になりました。経団連の会長でもありますから、「年末から来年にかけて、経済は上昇傾向にある」と力強くおっしゃられてました。

 大阪に戻り、タクシーの運転手さんに「景気、どうですか?」と聞いたら、「もう冬眠したいですわ」。その言葉の方が、ずっとリアリティがあるでしょ。
トヨタは今や世界のトップ企業ですが、名古屋をまわっていると、すこぶる評判が悪い。下請け工場へのコストダウンの圧力がすごくて、みんな大変な思いをしています。

 日本経済を代表するリーダーの発言が、これほど庶民の現実や感覚とは乖離しているわけです。でもこれからはほどほどに生活ができて、楽しく暮らせればそれでいいや、という価値観に変えた方がいい。
いつまでも経済成長なんてできるはずもないし、数字やモノを全ての価値基準とした幸せなんて、いくら追いかけても本当の意味で人生はエンジョイできないでしょう。

 それに地球全体に視野を広げると、日本は、世界で最も豊かな人たちとされる8%の層の中に、1億2千万人の国民全員が入っています。
そして、日本人の出す残飯は、世界の食料廃棄物の25%にのぼるというデータもあります。それだけの食料があれば、世界の食料危機が解消できるそうです。

 こんな豊かで贅沢な国になっていながら、まだ何か欲しがっている。足りないものは何だろうと探しては、もっともっと欲しがっている。
つまるところそれは、どんどん貧しい国や人から搾取していくことになるだけなのに。

 そんなライフスタイルでいく限りは、いつまでたっても幸せなんてなれない。それに早く気がついた方がいいと思います。
木村さんならではの、
笑いの中にも真実がある、洒落っけたっぷりのお話、
どうもありがとうございました!
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