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2013-07-31up

この人に聞きたい

川崎哲さんに聞いた(その2)

世界は、すでに9条を選び始めている

自民党圧勝の結果に終わった参院選。さらに「改憲」が現実味を帯びてきた状況に、中国、韓国メディアなどではすでに、「憲法改正の動きの加速」を懸念する報道が始まっているともいいます。日本が9条を失うとはどういうことなのか? 世界が日本を見る目は、それによってどう変化するのか? 2008年に2万人以上を集めて開かれた「9条世界会議」事務局長を務め、NGOピースボートの共同代表として、世界各地の人たちの声を聞いてきた川崎哲さんにお話を伺いました。

川崎哲(かわさき・あきら)
1968年東京生まれ。ピースボート共同代表。核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)共同代表。「アボリション2000」調整委員。2008年から広島・長崎の被爆者と世界を回る「ヒバクシャ地球一周 証言の航海」プロジェクトを実施。2009~10年、日豪両政府主導の「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」でNGOアドバイザーを務めた。著書『核拡散』(岩波新書)で日本平和学会第1回平和研究奨励賞を受賞。雑誌『世界』(岩波書店)をはじめ国内外のメディアに寄稿多数。恵泉女学園大学非常勤講師。日本平和学会会員、日本軍縮学会会員・編集委員。

災害支援を入り口に、
東アジアに「平和の共同体」を
編集部

 前回、「9条の理念を世界に広げていく」ことの重要性についてお話しいただきました。具体的には、どのような道筋があるのでしょうか?

川崎

 一つは東アジア地域で平和のための共同体を作ることです。東アジアは世界で唯一、冷戦構造を残している地域です。今年7月には朝鮮戦争の休戦協定から60周年を迎えましたが、いまだに朝鮮半島は分断されています。中国と台湾の対立という問題もあります。日本と中国も、日本と朝鮮半島も、歴史問題で和解をしきれていません。これまでの歴史がひずみを抱えたまま、政治的・軍事的緊張が続いています。この状況を乗り越え、新たな共同体を作ることが必要です。
 ヨーロッパには欧州連合(EU)があり、安全保障協力の仕組みもありますね。フランスとドイツはかつては戦争を繰り返してきましたが、それを乗り越えて手を取り合いました。それが経済共同体になり、安全保障の共同体へと発展を遂げてきています。ドイツは戦後の出発点として、まず戦争における自らの誤りを認めました。自らを省みることで各国の信頼を得て、フランスとの関係も改善しています。今年1月には駐日ドイツ大使とフランス大使が共同で、独仏協力条約から50周年を記念して、「和解が互いの利益」とする論説文を「朝日新聞」に寄せています。
 6月に来日したオランド仏大統領は日本の国会で演説し、東アジアの緊張に「憂慮」を示し、「苦しい過去の後遺症に終止符を打つ」ことを呼びかけました。ヨーロッパでは「昨日まで先祖代々の敵だった」が、今日では「団結し連帯」しているというのです。同じことを、東アジアでできないはずはありません。9条をシンボルにした平和共同体を東アジアに作る努力をすべきです。

編集部

 そのためにはまず、どんなことから始めればいいのでしょうか?

川崎

 災害支援を入り口に、協力体制を広げていくことができます。2008年に中国・四川省で大地震が起きた際、日本からの救援活動に対して地元の人々はとても感激してくれて、中国における対日感情が大きく改善しました。東日本大震災の際には、アメリカの「トモダチ作戦」がマスコミに大きく報道されていましたが、中国をはじめ多くのアジアの国々も多大な支援をしてくれていたことを忘れてはなりません。東アジア地域の安全保障の協力体制は、このような災害時の相互支援の態勢を体系化していくことから築いていけると思います。
 災害が起きた後の対処ばかりではありません。津波、台風、環境汚染や感染症など、国同士で情報と経験を共有し、共同で予防し、対策を講じるべき問題が数多くあります。
 さらに私は、原発について「東アジア原子力規制委員会」を作るべきと思いますね。ひとたび事故が起これば、放射能による汚染は国境を超え、海にも広がっていくのです。韓国や中国で原発事故が起きれば、日本への影響は必至です。しかし、韓国や中国の安全基準に対して、日本の私たちが口出しすることはできないのが現状です。日本、中国、朝鮮半島、そして台湾における原発は、いずれも地域全体への脅威であるといえます。だからこそ、地域共通の安全性と規制の基準を、高度な技術や制度を駆使してあてはめる必要があります。そのような原子力分野での協力関係が生まれれば、北朝鮮の非核化にもプラスになるでしょう。
 これらは、軍事面での安全保障協力とは異なる、「人間の安全保障」の地域協力といえます。

編集部

 その中で「シンボル」になるのが日本の憲法9条なのですね。

川崎

 軍事力に対して軍事力で対抗しようとしても問題は悪化するだけです。古い冷戦がまだ残っているところに新しい冷戦を上乗せするようなものです。日本が9条を捨てれば、それは日本が軍事化へと舵をきったというメッセージとなり、地域全体の軍事化を助長します。むしろ「武力を用いずに平和を作る国」であることを積極的にアピールすることで、地域の信頼と平和に貢献できるのです。

今後どのような発展モデルを選択するのか
編集部

 「軍事力に頼らない国である」ことを、弱みと捉えるのでなく強みとしてアピールしていく、ということでしょうか。

川崎

 そうです。世界の国々には、それぞれにその国らしい「売り」や「カラー」がありますよ。例えばイギリスは、アフリカなど途上国の貧困対策に力を入れていることを積極アピールしてきました。2005年、白いリストバンドを身に付けて「世界の貧困問題はほっとけない」という意思を示す「ホワイトバンド」が話題になりましたが、イギリス政府はその運動を応援していました。2008年のG8洞爺湖サミットのときには、これに対抗してNGOが世界の貧困問題等を考える「市民サミット」を開いたのですが、そのときイギリス大使館から突然電話がかかってきて「ぜひNGOの皆さんと意見交換したい」と言われたのでびっくりしました(笑)。
 イギリスの場合、アフリカや中東、アジアを植民地支配してきた歴史がありますから、その贖罪意識が背景にあるのかもしれません。貧困対策という綺麗なかけ声の下で、必ずしも良いことだけをやっているともいえません。でも、「貧困をなくす」というはっきりとしたメッセージを世界に発信することが、国のステータスを高めていることは間違いありません。
 またドイツは、国策として脱原発を決めましたね。実際には、今も日本以上に原発が稼働していて、脱原発の達成までにはさまざまな課題があります。それでもドイツが掲げる「脱原発」の旗幟は鮮明で、他の国々に対しても「原発は見直したほうがいい」という働きかけをしているほどです。昨年「脱原発世界会議」を開催したときには、ドイツ大使館から電話がかかってきて「ぜひ出席したい」というのです。こういう外交を外国の市民団体に対してまで行うのですから、大したものです。世界に向けて、大きなアピール力があります。

編集部

 それと同じように、日本は「平和」を「売り」にしていけばいいということですね。

川崎

 「戦争のない世界を目指すことが日本の歴史的使命だから9条を守る、国際協力の場でも、9条があるからこそできることをやる」と言えば、世界の国々は力を貸してくれることはずです。日本政府は、もっとそれを自覚したほうがいいと思います。「マガジン9」というウェブサイトを、政府が運営していてもいいくらい(笑)。
 日本は先進国の中で、経済における軍需産業の占める割合がきわめて小さい国です。朝鮮戦争やベトナム戦争の「特需」で経済成長したという事実もありますが、それでも基本的には、軍事に頼らない発展を遂げてきた数少ない国といえます。これから経済成長していくいわゆる新興国にも、そのような日本型発展モデルを参考にしてもらえばいい。9条があったからこその軍事に頼らない発展モデルを世界に「輸出」することも、日本の役割なのではないでしょうか。

編集部

 平和と、経済発展とは両立可能だということを示すことにもなりますね。

川崎

 これからの将来、先進国の経済規模は横ばいか緩やかに低下していくことははっきりとしています。子や孫に残す社会が、戦車やミサイルを作ったり売ったりして発展していく、そんなものでいいのか。そうではなく平和で環境に優しい社会――持続可能な社会、あるいは9条的な社会という言い方もできると思いますが、そちらのほうがいいのか。選択する時期に来ています。
 昔の富国強兵の時代のように、巨大な軍隊を持ってどこかの国で戦争が起きれば出かけて行って参戦する。あるいは武器・弾薬を輸出する。そういう経済モデルが本当に「強い」といえるのか。発展性があるといえるのでしょうか? 私には、そう思えません。かつて「戦争に勝てば平和になれる」と思い込まされていた時代は、国民全体の目標が戦争での勝利でした。でも今は国民は、戦争の悲惨さを知っています。戦争がもたらすのは破滅です。軍需産業による「発展」には、将来性はありません。戦争に勝つことよりも、戦争を起こさないことを目的にする方向に、発展モデルは変わってきています。より未来のある社会のあり方を選び始めている人が増えてきているのです。
 すでにGDPやGNPではなくGNH(国民総幸福量)を指標とする考え方も支持を得ていますよね。国の強さはミサイルの数ではないことは、誰もが気がついているはずです。

市民主導で9条を世界に広げる
編集部

 改憲論議の中では、「日本も軍隊を持つ“普通”の国になるべきだ」という言い方もされますが、むしろそうした「国は軍隊を持つもの」という考え方自体がもはや古いというべきかもしれませんね。しかし残念なのは、今の政治家の中にはそうした意識を持って、新しい社会のあり方を考えようという動きが見られないことです。ここは政治よりもNGOなど民間が主導になって進めたほうがよいのでしょうか?

川崎

 もちろん政治の力が必要なことはありますが、民間レベルで進められる部分はたくさんあります。ピースボートが東北アジアの事務局を務めているGPPAC(武力紛争予防のためのグローバル・パートナーシップ)というネットワークでは、さまざまな国々のNGOが一堂に会する会議を毎年開いています。ここには日本、韓国、中国、台湾、モンゴル、ロシアのNGO、それから北朝鮮からも代表者が出席して、地域の安全を非軍事で守ろうと議論しています。政治がこういう場を作ることは、すぐにはできません。まずは民間レベルで議論し合ってプロジェクトを進める。その上で、法律を動かしたり財政出動をしたりする段階になったときに、政府や政治を「乗せていく」という順番になると思います。

編集部

 ピースボートが今年10月に企画しているという、東アジアの国々を旅するクルーズもそうした民間レベルの取り組みの一つと言えそうですね。

川崎

 憲法9条をテーマに、韓国、中国、台湾、そして沖縄を巡る船旅で、それぞれ現地では地元の若者やNGOのスタッフと交流するプログラムを企画しています(10月18~27日)。ここ数年、日中韓は領土問題で対立し、ナショナリズムが煽られています。でも、ひとたび海に出れば国境線はありません。国を飛び越えると、一国の利益だけを考えることがばかばかしく思えることでしょう。無人島の領有権より、東アジア全体が平和的に生きていくにはどうすべきかを、考えさせられます。そういう実感を多くの人に持ってほしいですね。
 また、クルーズの少し前、10月14日には、大阪で「9条世界会議・関西」を開催します。海外で9条に通じる取り組みを実践している人たちをゲストに迎えて語り合うなど、9条を東アジア全体のものとして実感できるプログラムを考えています。

編集部

 9条の問題は日本だけでなく、海外の視点も織り交ぜながら話し合っていくことが大切なのですね。

川崎

 領土問題も「世界の中の日本」という視点で考えれば、解決できないはずはありません。対立を悪化させず話し合いで平和的に解決する方法は必ずあります。すでに、世界で9条を選び始めている人たちがいるのです。それでも日本は9条を変えるのか? 立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。

←その1を読む

(構成/越膳綾子 写真/仲藤里美)

【お知らせ】

PEACE & GREEN BOAT 2013
「平和で豊かな東アジアのために」
2013年10月18日(金)~27日(日)[博多発着・10日間]
釜山(韓国)、基隆(台湾)、那覇(沖縄)、上海(中国)、博多(福岡) ※詳しくは公式サイトをチェック!

9条世界会議・関西2013 10月14日(月・休)10:00~16:30
会場:大阪市中央体育館(地下鉄中央線朝潮橋駅下車すぐ)
※ブース出展者なども募集中! 詳しくは公式サイトで。

憲法9条を守るべきという意見に対してはときに、
「現実を見ていない」という批判が寄せられることがあります。
原発をめぐる議論にも似た構図ですが、
果たして「安全を守るために軍事力を高める」という選択をすることが、
本当に「現実を見ている」ことなのでしょうか?
「国益」を考えればこそ、多面的な視点から見つめ直してみる必要があります。

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