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2012-06-27up

この人に聞きたい

鎌田慧さんに聞いた

10万人集まろう!
政治を動かすのは、やはり「数」なのです。

7月16日に東京で予定されている
「さようなら原発10万人集会」
その呼びかけ人の1人として準備に奔走しているのが、
ルポライターの鎌田慧さんです。
3・11の以前から日本各地を取材し、
「原発とカネ」の構造を世に訴え続けてきた鎌田さん。
改めて今の思いをお聞きしました。

かまた さとし
1938年、青森県弘前市生まれ。ルポライター。新聞、雑誌記者を経てフリーに。『自動車絶望工場』(講談社文庫)、『原発列島を行く』(集英社新書)、『日本の原発危険地帯』(青志社)、『ルポ 下北核半島』(共著/岩波書店)など著書多数。『六ヶ所村の記録』(岩波書店)で毎日出版文化賞を受賞。「さようなら原発1000万人アクション」呼びかけ人。

「本気で頑張ってこなかった」後悔が原動力
編集部

 鎌田さんが呼びかけ人の1人になられている「さようなら原発署名市民の会」では昨年から、「脱原発を実現し、自然エネルギー中心の社会を求める1000万署名」を呼びかけてこられました。現時点でどのくらいの署名が集まっているのですか?

鎌田

 6月半ばの時点で約750万筆。目標にしている1000万まであと250万筆ということで、これは達成できる、と思っています。6月12日には横路孝弘・衆議院議長に、15日には野田佳彦首相(受け取り・藤村修官房長官)に、それぞれ集まった署名の一部を提出しました。

編集部

 さらに7月16日には、東京・代々木公園での「さようなら原発10万人集会」も企画されています。

鎌田

 だから、最近はやることがたくさんあって、寝ていても「ああ、あそこに電話しなきゃ」と思い出したりで目が覚めて、睡眠不足です(笑)。もともと僕は事務作業は苦手で、いろんな運動にかかわるときも、集会などに呼ばれていって、あいさつするだけのことが多かったんだけど、今回は文書作成や連絡なども自分でやっているから。

編集部

 鎌田さんが、それほどまでこのアクションに力を注がれているのはどうしてなのでしょう。

鎌田

 それは、福島の事故が起こるまで、ちゃんと「運動」をやってこなかったという思いがあるから。もちろん、建設反対の住民運動や反原発を掲げた集会などには参加していたけど、大集会にはならなかった。チェルノブイリの事故があったときでも集まったのは2万くらい、それもそんなに頻繁に開催されていたわけでもない。少なくとも僕自身は、ルポは書き続けてきたけど、運動で本気で頑張っていなかった、という思いがあるんです。

原発は、カネで地域を破壊してきた
編集部

 都市部ではたしかに、「原発反対」の運動はこれまでそれほど大きくなってこなかった。一方で、鎌田さんがかねてから取材を重ねてこられた各地の原発立地地域でも、それぞれ建設反対などの運動はあったわけですよね。

鎌田

 もちろんです。例えば、新潟県の柏崎刈羽原発や愛媛県の伊方原発などでも、原発ができるときにはしょっちゅうデモなどの反対運動があった。特に、たいていの原発は山を越えていかなきゃいけないような不便な過疎地にあるんだけど、柏崎刈羽はまだ海岸沿いの便利な場所だったので、刈羽村の若者たちが普通に会社に通勤しながら反対運動に参加したりできた。そういう地の利もあったので、反対運動はとても盛んでした。
 でも、そうした日本各地の反原発運動は、各個撃破で一つずつ叩き潰されていってしまうんです。それぞれに長い戦いはあったけれど、結果的にはほとんどすべてが潰されてしまった。

編集部

 それはどうしてだったんでしょうか?

鎌田

 原発反対の闘いが起こるより前、1960年代後半〜70年代にかけて広がった「公害反対闘争」と比べるとわかりやすいと思います。これは、大気汚染につながる火力発電所の建設に反対する運動だったんですが、それによってけっこういくつも建設計画が潰れたんですよ。

編集部

 原発のときは潰れなかったのに。なぜでしょう。

鎌田

 一つは、火力発電から出る煙は放射能と違って目に見えるし、トタン屋根が亜硫酸ガスにさらされてぼろぼろになっちゃうとか、目で見てわかりやすい形の被害があったこと。四日市ぜんそくの問題が起こったりもして、反対闘争にもみんな参加しやすかったということはあるでしょう。
 ただ、原発の反対運動が発展しなかった最大の理由は、やっぱりカネ。公害反対闘争から「反対運動は潰さなきゃだめだ」という教訓を得た自民党が、「電源三法」という三つの法律をつくって、原発立地地域に湯水のごとくカネを配る仕組みをつくったんです。それが電源三法交付金。田中角栄首相のときです。最近だと、130万KWくらいの大きい原発を引き受ければ、建設が完了するまで7年間で480億円、稼働後は固定資産税も含めて、10年間で500億円とか。そういう莫大なカネが投入されるので、地域が薬漬けみたいになっちゃうんですね。
 あと、「見学会」という名目で、地域の人たちを他の原発立地の近くに旅行に連れて行くというのもあった。2泊3日くらいで旅館に泊めて、ちょっと原発を見学させて、飲ませて帰すと。夏休みに子どもも一緒にどこかに連れて行くとかね。原発立地はさっきも言ったように過疎地が多くて、新幹線や飛行機で旅行に行くのもなかなか大変という地域が多かったから。

編集部

 そこに付け込むわけですね。

鎌田

 そう。賛成派に回った人は、「今度は九州に行きたい」とか、自分から要求するようになったりね。それくらいのカネ、電力会社にしたらぜんぜん大した額じゃないから、いくらでも払うわけです。
 だから、僕はいつもそこに対して怒っているんだけど、何もかもカネなんですよね。町や村の議会も、土建屋、今でいうゼネコンをやってる議員が多くて、原発を受け入れることでそこにカネがどんどん流れていくとか。そういうふうに「カネですべてを動かす」ことがまかり通っている、それがどうしても嫌だと思ったのが、僕の原発反対の原点なんですよね。
 ただ、これまで全国を取材してそういうことを書いてはきたけど、それだけだったなという思いもある。原発が危ない、事故が起きたら大変なことになるというのはわかっていたけど、じゃあどうしたかといえば「危ない」と書くだけ、言うだけ。それじゃやっぱりだめなんじゃないかと思ったのが、今回こういう運動をはじめた理由なんです。

10万人は集まる。集めなくちゃいけない
編集部

 10万人集会をやろう、と思いつかれたのはいつごろですか。

鎌田

 福島第一原発の事故の直後に新聞で、海外で20万人とかの反原発デモが起こっているのを見たんですね。でも肝心の日本では全然動きがないじゃないかというので、4月にインタビューを受けたときに「9月19日に10万人集会をやる」(「毎日新聞」4月28日付)と言ったんです。それがはじまりですね。
 だから、僕は最初から「10万人」と言ってたんだけど、周りの人に声をかけて、「さよなら原発」の呼びかけ人8人にお願いして準備をはじめたら、みんなに「10万人は無理だ」と言われて(笑)。それで昨年の9月の集会は「5万人集会」になっちゃったんです。でも、あのときは6万人以上が来たから、今度こそ10万人だと。それを前提に準備を進めちゃっているから、集まらなかったら僕は夜逃げするしかないけど(笑)。

編集部

 手ごたえはいかがですか。

鎌田

 集まりそう、というか集めなくちゃいけないと思っています。それに、集まる可能性は十分にあると思う。1000万人署名だって、本当に地域も年齢もさまざまの、いろんな人が署名してくれて、沖縄県の竹富島みたいに、島の人口が300人くらいなのに、その約半数が署名して送ってくれたなんていうところもあるくらい。東京だって、以前は「運動の砂漠」といって100人集めるのも大変だったのに、今は300人、500人の集会なんてもう、当たり前になっているでしょう。そのくらい、思いが広がっているということだと思うんです。

編集部

 実行委員会は今、何人くらいなんですか? 

鎌田

 最初は僕の個人的な知り合いや、これまでいろんな形で反原発の運動をやってきた人たちで、会議に来るのが今は80人くらい。最終的にはもっと増やしたいですね。これはかつての反原発運動みたいに、労働組合が中心の運動じゃないし、動員もありません。労働組合が動員する運動は人は集めやすいけど、外になかなか広がらないんですよ。
 もちろん、最初は実行委員会の中でも立場や意見の違いがあったけど、少しずつ変わってきましたね。かつては対立していた人たちが、今は一緒にやろうというようになってきた。それに、「素人の乱」の松本哉さんとか、「首都圏反原発連合」のMisaoさんとか、若い人たちともどんどんかかわるようになって。彼らは身軽だし、僕らがやろうとすると連絡に時間がかかるようなことも、インターネットを使ってどんどん進めていきますよね。

編集部

 以前、東京・杉並区で開かれた「住民による『脱原発杉並宣言』集会」では、若い世代に「(ちゃんと人が集まったという)成功体験を体感してほしい」という話もされていました。

鎌田

 そうそう。やっぱり「やった」という達成感がないと、運動は広がりませんから。僕は60年安保世代で、人がどんどん集まってくるという瞬間をよく知ってるんです。毎日毎日、国会の周りに人が集まってくる。僕だって当時はまだ学生で運動の中ではペーペーだったけど、クラスでストをやって、毎日デモに参加してましたよ。そんなふうに、運動が高揚してくれば、どんどんじっとしていられない人たちは増えていくはずなんです。

編集部

 たしかに、若い世代には正直なところ、デモや抗議で何が変わるんだ、という感覚もあるでしょうね。

鎌田

 でも、それはやっぱり数が少ないからですよ。一定の量を超えると、政治の側だって脅威を感じる。先日、750万の署名を提出に行ったときにも感じたけれど、政権には、これだけ反原発の運動が広がっていることも、原発自体が本当に大変な問題だということも、ちゃんとわかっている政治家はいるんです。でも、どこかで彼らはまだ吹っ切れないでいる。一応、「脱原発」を表明しているけど、財界の古い層に依存し、官僚を説得できない。
 だけど、運動の広がりを見て動揺している政治家は絶対に増えているわけで、それを決意させるにはやっぱり「数」です。10万人とかが集まってくれば、そんなに民衆の意向に逆らって政治はできないということは政治家にだってわかっているんだから、だんだん「決意する」人は増えていくはずです。
 それにね、「人が集まる」って楽しいんだよ。これはもう、人間の本能だと思う。若い人にとっても、そういう体験をすることは、絶対これからの人生にプラスになると思う。集まってくる人たちを見ていると、人を信頼できるようになるし、人生観が変わりますよ。そういう体験を、ぜひしてもらいたいですね。

(構成/仲藤里美)

先日の官邸前での「大飯原発再稼働反対」アクション。
45000人が集まったという人の波の中で、
鎌田さんのおっしゃる「人が集まってくる瞬間」というものを、
ほんの少しだけ垣間見たような気がしました。
7月の「10万人集会」は、きっと、さらに。
その「10万人」の1人に、あなたもなってみませんか?

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