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2012-11-21up

この人に聞きたい

伊藤真さんに聞いた(その2)

憲法上問題だらけの「秘密保全法制」
誰が何のために作ろうとしているのか?

先日、愛知県で、ある弁護士が国を相手取り、「秘密保全法」を巡る情報開示の徹底を求めて提訴したとのニュースが伝えられました。成立すれば、国民の知る権利や報道の自由が厳しく制限されるともいわれるこの秘密保全法、 いったいなぜ制定されようとしているのか? そして、その危険性とは? 伊藤先生に詳しく解説いただきました。

いとう・まこと
伊藤塾塾長・法学館憲法研究所所長。1958年生まれ。81年東京大学在学中に司法試験合格。95年「伊藤真の司法試験塾」を開設。現在は塾長として、受験指導を幅広く展開するほか、各地の自治体・企業・市民団体などの研修・講演に奔走している。 『高校生からわかる日本国憲法の論点』(トランスビュー)、『憲法の力』(集英社新書)、『なりたくない人のための裁判員入門』(幻冬舎新書)、『中高生のための憲法教室』(岩波ジュニア新書)、『憲法の知恵ブクロ』(新日本出版社)など著書多数。

あらゆる秘密、あらゆる行為、あらゆる人を対象とし、あらゆる人権侵害の恐れのある制度
編集部

 秘密保全法については、マガ9の連載コラムにおいて、「国家の情報を秘密にする【秘密保全法】」として、その危険性について述べられています。また伊藤塾ホームページにある、第203回の「塾長雑感」にも、メッセージを出されていますね。
 改めて、秘密保全法がどういう性質の法律で、何が目的なのか、そして国民の側からみた問題点について、お聞きしたいと思います。

伊藤

 秘密保全法制には大きな問題がいくつもありますから、私も東京弁護士会の憲法委員会や日本弁護士連合会の憲法問題対策センターにおいて、弁護士間で問題意識を共有できるようにレクチャーを行ってきました。

 まず、憲法上の大きな問題として挙げられるのは、国民の「知る権利」を大きく制約することです。2011年1月に学者による「秘密保全のための法制の在り方に関する有識者会議」(以下「有識者会議」)が政府内に設置され、同年8月に報告書が公表されました。その中身を見ると、規制対象が、国の安全、防衛秘密に限らず、外交、公共の安全、秩序の維持に関する情報まで拡大しています。これは「あらゆる秘密」が対象になっているということです。
 また、規制される行為は情報の漏洩に限らず、探知・収集行為にまで及んでいるため、正当な取材・報道行為まで処罰の対象となる恐れがあります。つまり、「あらゆる情報にかかわる行為」が対象となっているのです。さらに規制対象は、単に公務員だけではなく、関連する大学や民間企業の従業員、職員の方々やインターネットなどで情報を収集しようとする一般市民も対象になりえますから、「あらゆる人が対象」となります。
 そして、秘密保全の手法として、単に違反した人に罰則を科すだけではなくて、適性評価制度というものを導入することになっています。適性評価制度とは、国家の秘密を取り扱う上で、国が不適切であると思う人をあらかじめ排除するものであり、その調査の過程でプライバシーを含めた「あらゆる人権が侵害」される恐れがあるのです。
 このように秘密保全法制とは、「あらゆる秘密を対象とし、あらゆる行為を対象とし、あらゆる人を対象とし、あらゆる人権侵害の恐れのある制度」であり、本当にとんでもない法律が今、作られようとしているのだなと強い危機感を持つと同時に、このことを広く市民の皆さんに知っていただきたいと思っています。

 特に、公共の安全、秩序維持というところまで網を広げてしまっていることから、私たち一般市民が自分の生活にとって必要と考える情報が、官僚によって規制対象である秘密として指定されてしまうと、それを探し求めたり、調査したりすること、すなわち自らの意思でそれを知ろうとする行為自体が処罰される恐れがあるので、主権者として自ら国家の情報を収集しようと考える市民の活動に大きな萎縮効果を与えてしまうことになります。

 例えば、皆さんの関心の高い原発問題で考えてみると、「福島第一原発はどうなっているんだろうか」とか、「建設を再開した大間原発の活断層はどういうことになっているんだろうか」など、本当の情報を入手したいと思ったところで、仮にそれが国民の不安をあおり、公共の安全・秩序の維持を乱すものとして、秘密にするべきだと政府が判断した場合には、一切その情報にタッチすることはできなくなります。具体的には、情報を入手しようとする行為そのものが処罰対象になりますし、共謀、教唆、煽動というような情報取得以前の行為も処罰対象になります。
 ですから、インターネットなどで「●●について教えてください」というふうに誰かにお願いをすることも処罰の対象になってしまうのです。国民自身が国家のやり方に疑問を持ち、自分の判断に必要な情報を入手しようとする行為自体を、大きく萎縮させてしまう結果、国民が主権者として行動し、判断するために必要な情報を得ることができなくなってしまうのです。

主権者である国民の主体性を奪う制度
編集部

 これだけネットが発達して情報をとりやすくなっている社会において、そんな規制がかけられるのか? という疑問も残りますが…。しかし厳重な罰則、例えば刑事罰がつくとなると、一般の市民はたしかに萎縮するでしょうね。

伊藤

 国家による情報統制が認められてしまうと、国民は主権者として主体的に行動するこの国の主人公ではなく、官僚や国家に支配・コントロールされる客体として位置づけられてしまうことになります。国が国民をいわば支配・コントロールの対象におとしめてしまう、それが一番の問題だと思います。例えば、環境問題や原発の問題、平和活動などさまざまな運動やオンブズマンとしての活動などをしたいと思っても、「その運動や活動が処罰の対象になってしまうのではないか」と、萎縮してしまう恐れがあるのです。
 もし今のままの内容で法制化されたら、国家の情報統制が一気に進み、市民はもの言わぬ従順な存在となり、この国は国民主権とは到底言えないような国家になってしまうでしょう。

編集部

 秘密保全法の制定については、アメリカからの圧力もあると聞きましたが。

伊藤

 もともとこの法案は、特に防衛秘密とのかかわりで日本の自衛隊と米軍の軍事一体化を進めていきたいというアメリカからの要請の下で議論がスタートしたものです。ですから、秘密保全法制によって、憲法前文と9条でうたっているこの国の平和主義がないがしろにされてしまうということも、主権者たる国民がもの言わぬ従順な国民になり下がってしまうことと同じくらい大きな問題だと思っています。

編集部

 具体的にはどういうことでしょうか?

伊藤

 この法案は尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件の際に起こった海上保安庁のビデオ漏出問題、あれがきっかけで唐突に出てきた…そんなイメージを持たれている方が多いと思いますが、実は、自公政権の時代からずっと一貫して、アメリカの要請に基づいて検討されていたものなのです。逆に言えば、今後、民主党政権から別の政権にかわったとしても、引き続き秘密保全法制についての検討は進み、必ずや法案として出てくるに違いありません。

編集部

 そうなんですね。

アメリカからの軍事協力要請の一つとして検討がはじまった「秘密保全法」
伊藤

 これまでの経緯を書いた資料を見てもらうとよくわかると思いますが、85年に「スパイ防止法」というのが出てきます。これは市民運動によって廃案に追い込むことができました。その後、しばらく目立った動きはなかったのですが、97年の「新ガイドライン(日米防衛協力のための指針)」あたりから、アメリカがかなり日本に対して日米軍事の一体化、共同作戦を要求してくるようになります。言葉を変えれば、冷戦後のアメリカの軍事戦略をどうするのか? アメリカとしては、本来は冷戦が終わったのですから軍縮の方向に行ってもよかったわけですが、それでは国内の軍需産業が納得しないということもあったのでしょう。軍隊を使う場を対ソ連以外のところに、新たに見つけ出す必要があったわけです。

 そこでアメリカの軍隊及び軍需産業を維持させるために、アラブや北朝鮮など新たな紛争地域に駆けつけていって、米軍が新たな役割を果たすように方向転換していきます。その中で、日本と共同の軍事作戦を進めていきたいとアメリカは考えていくわけです。
 そのようなアメリカの思惑があり、97年頃から国際的な安全保障環境というものを日米合同でつくり上げていこうと、新ガイドラインを発表します。ここで情報の保全責任が明記され、その後アーミテージの報告にあるように、機密情報保護立法化の要求が出てきます。
 そんな中で9・11同時多発テロが起こり、すぐさま自衛隊法が改正され、防衛秘密漏洩に対して民間人が初めて処罰の対象になりました。その後、2005年10月の「2+2」(日米安全保障協議委員会)による 「日米同盟:未来のための変革と再編」が発表されます。このことは、元外交官の孫崎享さんがずっと前から指摘されていますが、これによって日本の安保条約の性質は大きく変わってしまいました。

 それまでは、日米安保条約は独自法であり、「在日米軍はあくまで日本国と極東の安全を守るために駐留することが認められている」と安保条約には書いてありました。ところが、この「未来のための変革と再編」には「国際的な安全保障環境の改善のために緊密に協力する」と書かれています。しかしこの国際的な安全保障環境というのは、孫崎さんが解明されているとおり、結局は、アメリカの軍隊及び軍需産業にとって有益になるような環境のことであり、アメリカの国益・方針に反するものは、いわゆるならず者国家と名指しされてしまった国のみならず、すべてこの国際的な安全保障環境にとっては脅威なわけです。その安全保障環境の改善に日本が緊密に協力すると約束してしまったわけです。

編集部

 アメリカの国益を守るための「日米同盟の深化」なわけですよね。

伊藤

 結局は、「アメリカの国益を実現するための戦争に日本は協力します」と合意したに等しいわけです。決して日本の国土を守ったり、日本国民を守ったりするためではありません。自分たちを守るために自衛権は必要で、そのためには自衛隊も必要だとしましょう。それについては、百歩譲ったとします。しかし、アメリカの国益を守るために地球の裏側で行われているアメリカの戦争に日本の自衛隊が協力すると約束することは、憲法上許されないことです。しかしながら、日本政府は合意をしてしまいました。さらに「共有された秘密情報を保護するために必要な追加的措置」を採ることにも合意してしまったのです。
 この「追加的措置」とは一体何だろう? ということですが、その時点では外部に発表されていませんでした。しかし、2007年5月の「2+2」において、その追加的措置とは実はGSOMIA(軍事情報包括保護協定)のことである、と明記されたのです。

国会での議論なく締結されたGSOMIA
編集部

 秘密保全法制はGSOMIAに由来するのですね。

伊藤

 アメリカは、このGSOMIAを同盟国と結んでおり、日本との間でも結びましょうと言ってきたのです。GSOMIAでは、アメリカの軍事秘密を日本から漏らさないという規定があり、自衛隊の関連企業の従業員である一般市民に対しても秘密保全を要求しています。日米の軍事的一体化が進み、さまざまな活動を共同して行うということになれば、当然のことながら、米軍の軍事秘密を日本の自衛隊が保有することになります。その軍事秘密が自衛隊の関連企業などを通じて外部に漏れてしまうと、アメリカにとって国防上大きな問題になってしまうのです。そこで、2007年8月に日米間でGSOMIAが締結されたのです。

編集部

 安倍内閣の時ですね。

伊藤

 このGSOMIA、すなわち軍事情報包括保護協定は、あくまでも「協定」なので、通常の条約とは違い、国会の承認を得ることなく締結されてしまいました。しかし、この協定は国民の生活や人権に極めて重大な影響を及ぼすものですから、本来は十分国会で審議をした上で締結すべきでしょう。しかしそのような手続を一切経ることなく、国民が全く知らないうちに締結されてしまいました。

編集部

 そうですね。もう締結して5年も経つわけですね。

伊藤

 アメリカと約束しているわけですから、あとは粛々と協定を守るために法律を作っていかなければならないと政府や官僚は言うわけです。そして、日米地位協定や沖縄の基地問題のように「アメリカと約束しちゃったんだから、我慢してね」という論法をこれからも出してくるに違いありません。でも、この協定自体、今、話したように民主的なコントロールが全く及んでいないということは明確ですし、もちろん、憲法に照らし合わせてみても、大きな問題です。

 そして、GSOMIA締結後の2008年4月に、政府に「秘密保全法制の在り方に関する検討チーム」が自公政権の下で設置され、そこに有識者会議が設置されます。その有識者会議で本格的な検討を進めようとしたときに政権交代が起きました。
 これで頓挫したのかと思いきや、2010年12月に民主党政権の下、名前こそ変わりましたが、全く同じメンバーで「政府における情報保全に関する検討委員会」が発足しました。この検討委員会に最初に話した「有識者会議」が設置され、その事務局は、防衛・外務・警察という3つの省庁の官僚で構成されています。そして、実際にはこの事務局で法案の内容を作り、それにお墨つきを与えるために「有識者会議」が開かれているのです。メンバーには、高名な憲法学者の方も入ってはいるのですが、報告書は「憲法学者が本当に検討した中身なのか」という残念な内容になっています。

編集部

 憲法学者の方は意見できなかったのでしょうか?

伊藤

 本当に一体どういうシステムになっているのでしょうか、と思ってしまいます。この法案の制定のプロセス自体が秘密裏に進められており、どこまで法案ができているかすら、よくわかっていません。ですが、既に法案はできあがっているでしょう。
 繰り返しますが、民主党政権からまた別の政権になったとしても、官僚は政権交代に関係なく、一貫して法制化に向け動いているわけですし、ましてやアメリカからの強い要請がずっと継続してなされ、GSOMIAまで締結しているわけですから、必ずや秘密保全法案は国会に提出されることでしょう。

編集部

 そうなんですか。しかし今の法案のままで成立したとしたら、憲法62条(*)の関係で、国政調査権に大きな制約を課すことになりますよね。

*憲法62条:両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。

伊藤

 その通りです。国会議員による国政調査も及ばなくなってしまうでしょう。国会議員に対して、もし一定の制約や責任を課したりすると、今度は免責特権との関係で、どうなるのかという話が出てくるわけです。各議院において、議員は自由に発言し、表決することができるというのが憲法の趣旨であるのに、法律で制約を課してしまう。この点も問題です。

 それからもう一つ憲法上の問題があります。外国と違って、日本の場合には、裁判の公開が憲法上の要請になっています。外国の憲法では、日本のように公開を厳しく要求していないものですから、諸外国では軍事秘密に関しての裁判においては、インカメラ方式といって、密室で関係者だけで検討することが可能なのです。しかし日本では憲法82条(*)で、非公開で審理できる理由は限定されています。特に「憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。」とありますから、秘密保全法制に関する裁判は、憲法上、絶対公開が必要になります。

*憲法82条:裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、 政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。

 そうすると、いざ法律を制定しても秘密保全法違反の事件は公開法廷で審議しなければいけなくなってしまいますから、秘密を保持したまま裁判をすることは不可能になります。つまり、秘密を保持したまま裁判をすること自体、憲法82条違反となってしまうのです。

編集部

 そもそもが日本国憲法とは相容れない性質のものなんですね。

民主的な国家の方が、情報統制による危険性が高い
伊藤

 秘密保全法制は、軍事、外交、公共の安全、秩序維持と網が非常に広く、国家の側からすれば、何でも秘密保全法違反として捕まえることができてしまうわけです。官僚の、いわば国家の側の恣意的な判断によって逮捕され、起訴されるというようなことが、横行することになりかねません。
 国家にとって気にくわない人を狙い撃ちして、国家に不都合なことは「これはダメだ」と言って隠してしまう。国家の側が情報をコントロールするということは、国家が不都合な情報を秘密として握りつぶすというだけではなく、国家の側に有利な情報は積極的にリークできるのです。このことも、孫崎さんがよく指摘されています。しかも、総理大臣や国務大臣などは規制の対象者になっていませんから、権力者の恣意的な情報操作を制御できない可能性があります。
 このように秘密保全法が制定されると、国家権力側にいる人間が、自らの国政運営に関する情報を完全にコントロールできるようになり、マスメディアが国から貰った情報を大々的に報道することによって、国民は気づかないうちに、完全に情報統制されることになるでしょう。
 これは、アメリカで既に行われています。ブッシュ政権でもオバマ政権でも、違法に国家機密を漏洩している者がいても、その者を起訴する、しない、ということを恣意的に政府が判断しているのです。
 同じことが日本でも行われる危険性はあります。特に、日本の大手メディアというのは、国家から流される情報を批判して検証するということはほとんどやりません。したがって、国にとって都合のいい情報だけが流されて、それがマスメディアによって拡大・拡散して国民に伝わり、国民はその限られたゆがんだ情報の下で一定の民意を形成し、権力に対して民主的な正当性を与えてしまうのです。

 ですから、独裁国家よりも、民主国家における情報統制のほうがよほど危険です。独裁国家だと、独裁者に対して、たとえ心の中であったとしても「あいつはひどい」と国民は批判できます。ところが、民主国家において情報統制がなされると、主権者たる国民は知らず知らずのうちに権力者に支配・コントロールされて、情報統制をされているという意識を持たないまま、選挙などを通じてその権力に民主的正当性を与えてしまうのです。つまり、民主主義の名の下で、人権侵害や平和を破壊するという国家運営に対して、主権者国民が正当性を与えてしまいかねないのです。「秘密保全法制」はその原因になる制度だと思います。

アメリカの要請に官僚たちが悪のりして作られた、今の「秘密保全法制」
編集部

 軍事機密だけでなく、公的秩序にまで網を広げているということも、アメリカの要請なのでしょうか?

伊藤

 いえ、そうではありません。警察官僚が監視社会を進めたいために、悪のりというか、便乗してきたのだと思います。

編集部

 まさに悪のりですね。アメリカの要請であり国家防衛のためだと言って…。

伊藤

 権力者側が自分の思う政策を実現しやすい環境を整備したいのです。政策担当者である政治家や官僚は、本当に自分の信念に基づいて、自分の思うような国づくりをしたいわけです。私はそういう人たちの言動のすべてが私利私欲に基づいているわけではないとは思っています。ただ、自分が実現したいと思うような国家像に対して障害になるようなものは徹底的に排除しようとし、また自分の思う国家像を実現するために、国民は自分たちの言うことにただ従ってさえいればいいと、国民がもの言わぬ従順な存在になるように望んでいるのです。

 しかし、それでは日本を国民主権国家ということはできません。まるで国会議員主権・官僚主権の発想であり、国民をバカにした考えだと思います。やはり権力の側に立って、国を動かす力を行使するという経験をしてしまうと、勘違いをしてしまうのかもしれません。秘密保全法制はそういう政策担当者にとって、自らの信じる政策を実現しやすい環境整備をするための強力な道具になるのは確かです。

 そして、あえてもう一つ言えば、多国籍企業の武器製造や輸出などの促進という、日本の経済界、特に軍需産業の要求もあろうかと思います。やはり秘密保全がきちんとできないと、アメリカと協力して武器を製造することはできません。アメリカの企業などと協力しあいながら武器の製造や輸出をしていきたいと考えている日本の軍事関連企業にとっては、アメリカを安心させるためにも秘密保全法制を整備する必要性があるのでしょう。

 以上のように、秘密保全法制を必要とする要求は、大きく次の4つです。
1)軍事一体化の促進というアメリカからの要求。
2)多国籍企業による武器輸出・製造の促進という軍需産業からの要求。
3)警察による監視社会の促進という警察官僚からの要求。
4)政策担当者が政策を実現しやすい環境を整備したいという官僚・政治家からの要求。

 いずれもそれぞれの思惑があるわけですが、これらが相まって今のような秘密保全法制が作られているのでしょう。

編集部

 伊藤先生は秘密保全法制定阻止のロビイングにも行かれているとお聞きしましたが。

伊藤

 はい、弁護士仲間で手分けをしながら、国会議員の皆さんたちに、秘密保全法制の問題点を伝えていっています。実際に話ししてみると、ほとんどの人が知らず、情報を持っていません。「えっ、そんな法律なんですか」という反応が多いです。「問題だとは聞いていましたが、そこまでとは知りませんでした」と言う方も結構います。もちろん、民主党の中にも「これはおかしい。問題だ」と言う方々も何人もいらっしゃいますので、そういう良識を持った国会議員を中心にしながら、きちんとロビー活動をしていきたいと思っています。
 というのも、私は先ほど言ったように、この秘密保全法制は、日米安保をどうするかという根本的な問題を解決しない限り、法制化の動きを回避できないと思っています。ですから、国会に秘密保全法案が提出された時に、「公共の安全、秩序の維持」といった余計なものが入らないようにしたり、第三者機関を入れて主権者たる市民がチェック・監視できる仕組みを組み込むような形にしたり、処罰の範囲を限定したりする必要があるでしょう。
 繰り返しになりますが、私はこのままで法制化されると、とんでもないことになるという強い危機感があるので、この危機感を多くの市民の皆さんと共有できるように日々活動しているのです。

編集部

 官僚の「悪のり」部分は何としても、除外させないと市民生活が脅かされてしまいますね。


(聞き手 南部義典 写真・構成 塚田壽子)

←その1を読む

「秘密保全法」制定の目的と背景やこれまでの経緯、そしてそれが官僚主導で進められてきたことが、よくわかりました。それにしても、米国の軍事的な要請に「警察官僚が悪のり」というのは、とても許せることではありません。密室の中で秘密裏に進められている法案制定過程を、なんとしても明るみに出すこと、市民の監視の前での議論に持ち込むことが望まれます。B級記者どん・わんたろうが「ちょっと吼えてみました」も、ぜひ合わせてお読みください。

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