ナショナリズムの高まりの中、表現するのにプレッシャーを 感じることがあると石坂さん。戦時中の事実は隠され、 戦争が美化される現状に、違和感と危機感が募ります。
いしざか けい 1956年愛知県生まれ。 故手塚治虫氏に師事し、漫画家デビュー。漫画、エッセイの他、 著書に『学校に行かなければ死なずにすんだ子ども』(幻冬舎)など。 山中恒氏とのコンビでの児童文学作品も多い。『週刊金曜日』編集委員。 『マガジン9条』発起人の一人。
9条を変えて日本を戦争ができる普通の国にしようという動きと、ナショナリズムの高まりは確実に根っこでつながっています。 ナショナリズムが怖いのはどんどんエスカレートしてしまうこと。たとえば、日の丸をめぐる動き。国旗法案が持ち出された時、野中広務さんなど、自民党の政治家は国民の「内心の自由」を認め、国旗を人々に強要することはないと断言したはずでした。 ところが、たとえば学校の現場ではいま、日の丸を掲げていないところはゼロに近い。とくに石原都政下の東京都では日の丸が掲げられているか、君が代をきちんと起立して歌っているか、教育委員会がチェックして回るという事態になっています。 昭島市のある学校での話です。卒業式で壇上の背景にある黒幕があまりにも殺風景なので、教師たちがハトの形に切り抜いた白い紙を飾ろうとしたら、中止させられたそうです。その理由は「ハトを飾る行為が平和を連想させるから」。ウソみたいだけど、本当の話です。日の丸・君が代に反対する「平和勢力」のあぶり出しが、信じがたい形で行われるようになってしまったのです。その背後にはナショナリズムの高まりがあります。
過去の歴史を美化しようという動きが世代を問わず、強くなっているのもそのひとつでしょう。以前、作家の辺見庸さんの原作を、雑誌のマンガにする仕事を手がけたことがありました。私は、従軍慰安婦が日本兵に木にくくりつけられて、殴り殺されるシーンを描きました。ところが単行本化をする段になって、そのシーンの日本兵を、一般人に描き換えて欲しいという、編集部からの要請がきたのです。出版社が「日本軍は慰安婦問題に関与していない」と主張する人々から抗議されかねないと、恐れてしまったのです。その時ですね、とうとう表現の世界にまでナショナリズムが吹き荒れるようになったんだなと実感したのは。