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はんだ しげる 1955年栃木生まれ。
東京新聞編集局社会部勤務。1992年より現在にいたるまで防衛庁取材を担当。業界においても異例なほどの長期にわたり、自衛隊を見続けてきた。
米国、ロシア、韓国、カンボジア、イラクなど海外における自衛隊の活動も、現地にて豊富に取材。
著書に『自衛隊VS北朝鮮』(新潮新書)、『闘えない軍隊』(講談社+α新書)がある。 |
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編集部 |
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「米軍再編」における、基地の移転が議論になっています(※取材後の5月1日現地時間に日米両政府は在日米軍再編に最終合意)が、なぜいま「米軍再編」なのでしょうか? そしてこれによって、今後の自衛隊にはどのような影響が出てきますか? |
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半田 |
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いま日本で米軍再編というと、単に「基地の移転・再編計画」としか受け止められていませんが、それは違います。
アメリカは2001年の同時多発テロを受けて、「本土防衛=テロとの戦い」という図を描きました。これを限られた軍事費の中で実現していくには、いまほど海外に米軍を置かなくても、RMA(軍事革命)の機動力を活かせば可能だと考えたのです。
いま海外にいる米軍は、ヨーロッパに10万人、アジアに10万人です。アメリカは、まずドイツにいる陸軍を引き上げることから始まり、韓国では軍事境界線とソウルとの間に点在していた部隊を集約して1万2500人を削減しました。
最後に日本はどうしようかという話になったとき、日本防衛を担当している陸軍の第1軍団、ワシントン州フォートルイスにいる司令部を、キャンプ座間に持っていこうとしました。それに対して日本側が、「いや、せっかくだから日本国内における他の基地の移転もやりましょう」という形で始まったのが、日本版の米軍再編です。
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編集部 |
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いま日本国内の基地移転で騒がれていることは、「米軍再編」問題の本筋ではないと。 |
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半田 |
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アメリカにとっては本土防衛をいかに経済的にやるかというのが目的ですから、はっきり言えば普天間だろうが厚木だろうが、実はたいした問題ではありません。アメリカからすれば、もともとキャンプ座間には第8軍が90年代まであったし、冷戦後になくしたものをもう1回持ってくるという程度の話で済まそうとしたのに、なぜか日本国内にある主要基地の再編成にまで、大風呂敷を広げた日本政府の言葉に乗ってここまで来てしまったと。
その結果、日本版の米軍再編では「抑止力の維持」と「負担の軽減」という二本柱が立ちました。でも、なかなか話が進まない。日本側に安全保障の哲学がないし、そもそも「抑止力の維持」と「負担の軽減」なんて、相容れないないものですからね。
そこで去年の2月に仕切り直して、まず「日米同盟関係が世界の平和に死活的に重要」というコンセプトを固めたわけです。これは、基地のある地方自治体の皆さんも、ほとんどの国会議員の先生も分かっていないけれど、米軍再編で書かれているのは、「日米が連携して世界の平和をつくる」ということです。つまり、単に基地の移転だけじゃなくて、「自衛隊も一緒になって米軍と行動していく」ということが規定されたわけです。 |
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編集部 |
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アメリカの世界戦略に自衛隊がお供していく形ですね。 |
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半田 |
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日本における米軍再編とは、自衛隊を米軍の手足として世界中で使う、ということですね。なおかつ日本にある自衛隊の能力も、米軍を守るために使う。それはミサイル防衛の構想にもよく現れています。
アメリカの手足となるというのは、どういうことか。韓国をご覧なさい。アメリカが戦ったベトナム戦争のとき、韓国軍は2千人ぐらい死んでいます。それ以降、韓国はアメリカと同調できなくなりました。PKOだけに参加するという歯止めがあって、それ以外で軍隊を派遣したのは今回のイラクが久しぶりでした。でも、あのときのトラウマがあるから、絶対に戦闘正面に立つことはありません。
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編集部 |
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なるほど。そういう風に自衛隊を手足として使うことを考えているアメリカが、憲法9条の改正を願うのは不思議ありませんね。 |
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半田 |
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それは元をただせば、2000年のアーミテージ・レポートにあります。ブッシュ政権誕生直前に党派を超えた知日派の人たちが、日本の安全保障について、「集団的自衛権の行使を認めないのは、日米関係の正常化をさまたげている」と批判し、その理想モデルを米国と英国のような関係に求めた。つまり憲法上の制約がなく、お互いに武力行使をして守り合える関係です。
その後、米軍によるアフガニスタン攻撃後、自衛隊によるインド洋での洋上補給があって、イラク派遣があったけれど、日本は国連や国際機関の要請で自衛隊を差し出したのではありませんでしたね。後方支援とはいえ、すでに米軍の手足となることに同意したといえますが、そのことをはっきり書かれてしまったのが、今回の米軍再編。手足となって活動するという意味は、将来的には憲法を改正して武力行使ができ、アメリカを守るためにがんばってほしいということです。 |
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編集部 |
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去年、自民党からは「自衛隊」を「自衛軍」にするという憲法草案も出てきましたが、半田さんはどうお考えですか。 |
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半田 |
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「自衛軍」と書かれてあるけれど、「軍になって、いったい何をしたいのか? させたいのか?」と思います。つまり、憲法を改正しなくてはいけないというのであれば、いまの自衛隊の活動では不十分なのか、と。アメリカは不十分だと言っているけれど、実際はどうなのかという検証はされていないと思うんです。
実は、今回サマワで自衛隊が行なっている活動は、バグダットにいる各国軍幹部の見学対象になっています。サマワの宿営地に訪れたNATOをはじめとする軍隊の幹部というのは、さすがに日本の自衛隊の特殊性、つまり憲法上の規定により武力は行使できない「軍隊である」ということをよく知った上で、「こういうことができるんだ」と感心しているんです。
冷戦後、どの国の軍隊も軍としてのありようを模索中で、それぞれの国で軍事費が縮小される傾向にある中、自衛隊を見て、「なるほど民間企業がやるような復旧活動を危険地域でやるには軍隊が必要だ、その理屈はいい」と見直しているところがあるのです。いままで自衛隊は普通の軍隊と比べて劣っていると思われていたのに、実はヨーロッパなどから見れば学ぼうという対象にもなっている。
日本ではほとんどそういう事実が知られていませんし、政治家もイラクに行こうとしませんよね。防衛庁長官が2人行ったのは、基本計画を延長する口実として行っただけですから。総理だって、イラクに行けばいい。そうすると、自衛隊の活動に対する、各国とイラクでの評価がよく分かりますから。
そういう実態が分からないで、「とりあえず普通の国なら軍隊があるのが当然じゃないの」という程度の認識で議論がスタートしているから、あの憲法草案を見てもどうしたいのか、なんだか分からない。自衛隊の皆さん自身もそう感じています。
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編集部 |
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現場の自衛隊員はこういった改憲の議論についてはどう思っているのでしょうか? |
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半田 |
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「憲法で自衛隊が合憲の存在だとしっかり位置づけてくれるのはありがたいけれども、その“自衛軍”に何をさせようというのか。いまでも相当なことはできているじゃないか」ということは言っていますね。
今や自衛隊の武器使用基準はほとんど軍隊並みだし、できないのはこちらから積極的に攻撃を仕掛けることぐらい。でも実際には、「何か怪しいものがあったら先に攻撃して潰してしまえ」というのは、アメリカ軍以外どの国の軍隊もやりません。だから実態は自衛隊と変わらないんです。言い換えれば、アメリカ軍だけが別の基準を持っているとしか思えない。アメリカのやり方は決して世界標準ではなく、むしろ特殊であり異常だということがイラク戦争でも浮き彫りになったと思います。
だからわざわざ「自衛軍」にしなくても、いまのままでできることがほとんどなのに、「米軍と一緒になって戦うことを日本の政治家は望んでいるのか」という疑心暗鬼が自衛隊の中にはありますね。最初に死ぬことになるのは、自分たちですから。今回アメリカと一緒に戦ったイギリスみたいに、戦闘正面に立たされたら戦死者を覚悟しなければならなくなる。そうなると、まず自衛官になる人がいなくなりますよ。やりくりがつかなくなったら、徴兵制をやろうかという話になるでしょう。 |
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編集部 |
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国際社会における自衛隊の評価というのは、どうなのでしょうか? |
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半田 |
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こういうことがありました。去年の秋、捕虜になった自国の兵隊を救出するために、刑務所に戦車で突入したイギリスは、この一件でイラク人から信頼をなくしました。イギリス軍は、いま自衛隊に「バスラに来ないか」と誘っています。つまり、信頼できる日本の自衛隊を盾にして、自分たちへの逆風を和らげようというのです。
自衛隊はこれまで、難易度の高い国で人道復興支援をやってきているし、時間を守るとか相手を尊重するとか、自衛隊の規律正しさが現地では、非常に好意を持たれています。
実際に去年のスマトラ沖地震でも、そうでした。インドネシアという国は軍が大きな権限を持っています。あのとき、各国から災害派遣の軍隊がかけつけましたが、沖縄に駐屯していたアメリカの第3海兵遠征軍が行ったときは、でかい顔をしていたので「終わったらすぐ帰ってくれ」という話になった(笑)。でも自衛隊が派遣されて、統幕議長がバンダアチェの空港に着いたときには、インドネシアの国防大臣が迎えに来て、「自衛隊はずっといてください」と言ったんです。
あと、パキスタンの大地震のときには、日本も陸上自衛隊がヘリコプターを出して物資輸送をしました。各国も軍隊を派遣していましたが、ムシャラフ大統領がキャンプに挨拶に来たのは、日本の自衛隊だけでした。
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編集部 |
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冷戦後、各国の軍事費が縮小傾向にある中、災害救助や人道復興支援に徹する姿が評価されているのですね。 |
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半田 |
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もちろん、軍事費が伸びている国もあります。たとえば中国は、経済成長に相応しい軍事力を身につけたいということですよね。でも、はっきり言って、日本の敵ではないと思います。中国は核を持っているし、陸軍も200万人いるけれども、それ以前に陸軍を乗せて運んでくるだけの船の飛行機もないですから。
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編集部 |
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いまは、中国脅威論が煽れていますよね。 |
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半田 |
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中国は脅威じゃないでしょう。軍事脅威というのは、意思と能力が伴わないと駄目ですが、二つとも欠けていますから。いま日・米・中の3カ国は、互いに最大の貿易相手国同士になっています。アメリカだって中国を警戒しつつも、経済関係の密接さは失いたくないし、現に米中は軍事交流を始めています。日中もそれを以前からやることになっていたけど、小泉さんが邪魔になって遅れをとっている。
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編集部 |
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今後、自衛隊はどのような方向に進んでいけばいいとお考えですか? |
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半田 |
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僕はいまのありようでいいだろうと思います。つまり、彼らにやってもらうことは国防であり、抑止力としていまと同じように機能してくれればいい。アメリカみたいに本土防衛を大義名分にして、外に出て戦争をしにいく必要もない。同時に、国内外の災害に派遣して、いまの活動を続けていく。さらにやるとすれば、国連及び国際機関の要請に基づく海外活動……までじゃないですか。
実は、ヨーロッパをはじめとする「世界標準の軍隊」というのは自衛隊に近づいていっています。そのことが分からないと、間違った道に導かれてしまいます。
日本は「もっとも野蛮で世界から尊敬されていない軍隊」をモデルにしてしまうと、大変な過ちを犯してしまうでしょう。9条はアメリカの日本に対する無謀な働きかけを許さない、最大の防波堤ではないでしょうか。
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連休中に日米政府で合意された、在日米軍再編成。
地域住民の意志を無視した内容だけでなく、
伴う日本の負担金が3兆円という数字もアメリカ側から飛び出してきました。
私たち納税者は、この現状をおとなしく受け入れるしかないのでしょうか?
自衛隊を米軍の手足として世界の前線で使われる軍隊にしていいのでしょうか?
しっかりと考えていきたいと思います。
半田さん、ありがとうございました! |
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