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この人に聞きたい

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松本哉さんに聞いた(その2)

消費するだけの街から文化は生まれない

杉並区議選での型破りな選挙活動を通じて、
「街の秩序を破壊したかった」と語る松本さん。
ご自身が考える「自治」とは? 住みやすい街の姿とは?
憲法9条について、そして2008年の「野望」についても伺いました。

まつもと・はじめ
1974年東京生まれ。1994年に法政大学入学後、「法政の貧乏くささを守る会」を結成し、学費値上げやキャンパス再開発への反対運動として、キャンパスの一角にコタツを出しての「鍋集会」などのパフォーマンスを展開。2005年、東京・高円寺にリサイクルショップ「素人の乱」をオープン。「おれの自転車を返せデモ」「PSE法反対デモ」「家賃をタダにしろデモ」などの運動を展開してきた。2007年には杉並区議選に出馬した。

必要なのは、締め付けではなく自治

編集部

 ご自身のホームページなどでは、「自分たちの街は自分たちで作る」として、「自治」の重要性についても主張されていますね。路上喫煙や放置自転車についての、行政による厳しい締め付けにも異議を唱えられている。

松本

 もちろん、みんながゴミをどんどん捨てたら街は汚くなるし、自転車を人の家の前に勝手に置いてたら邪魔に決まってますよね。ただ、そういう「よくない」ことを、行政の力を使って強制的に排除する、それによって街を秩序立たせていくことには何の意味もないと思うんです。
 そうじゃなくて、もっと根本的なところを自分たちでつくっていかないといけないんじゃないかと。たとえば、人と人とのつながりがちゃんと密だったら、「この店の前に自転車置いたら悪いな」「ゴミ捨てたら悪いな」とか思うじゃないですか。それが、人間関係が希薄になって、街がただ「金使って消費する場所」みたいになってるから、何も考えずにゴミを捨てたりとかするわけで。だって、友達の家に行ってその辺にゴミとか捨てないでしょう?

編集部

 たしかに(笑)。

松本

 本来だったら、警察だっていなくていい、くらいの世の中のほうが理想じゃないですか。もちろんそれは無理だと思うけど、そういう方向性を考えずに、何でも「とりあえず問題がなくなればいいや」というだけで考えちゃうと、どんどん自治がなくなって、全部他人任せの世の中になっていくんじゃないかと思います。

編集部

 一方で「自治」という言葉でいうと、自分たちで街を見回るんだという「自警団」みたいな動きも出てきていますよね。それについてはどう思われますか。

松本

 ああいうのは大っ嫌いですね(笑)。
 大学を卒業して、アルバイトとかを始めたときのことなんですけど、やっぱり、家と職場の往復だけじゃなくて、街に出て遊ぶじゃないですか。そうすると、それまでは主に大学の中で活動してたのがこんどは街が「自分の居場所」という感覚になってきたんですよね。
 そのときに、街の中をいざ見回してみたら、何かすごい秩序立っていて。放置自転車の撤去とかに「なんか腹立つなあ」と思ったのと同時に、そういう自警団みたいなのがすごい気持悪いなと思ったんです。交番と連携したりして、完全に警察の手先みたいな感じでしょう。その辺に寝てるオッサンを蹴飛ばしたりとか、公園で若い高校生とかがたむろしてるだけで解散させたりとか、余計なお世話なことばっかりしてるし。

編集部

 でも、彼らはそれを「自治」だと思っているのかもしれない。

松本

 思ってるでしょう。「いいことをやってる」と思ってますよね。
 その意味では、町内会の防犯パトロールとかも結構微妙なところなんですよね。ちゃんと自分たちの街で問題がないように、いろいろ見て回ったりということ自体は、いいことだと思うんですよ。ただ、それが警察に通報するだけとか、余計なおせっかいみたいな形になっちゃうと…下手したら警察と一緒にやったりする場合もあるし、そういうふうになってくると意味がないかなと。
 実は僕も、町内会には入ってるから防犯パトロールには駆り出されるんですよ(笑)。でも、自分達で解決できる事は極力警察には通報しないとか、警察から支給されたものは絶対に着ないとか、そんな感じでやってます。

編集部

 自警団もそうですけど、監視される側と監視する側みたいに分断されることが一番怖い気もしますね。本当は同じ町内の人たちなのに告げ口し合うみたいな。

松本

 そうですね。俺なんか、普通に見たら明らかに監視される側じゃないですか(笑)。それがあえて防犯パトロールに参加すると…。

編集部

 そこに意味があるんですよ(笑)。

「規律正しい生活」よりも「野放し」を

編集部

 さて、憲法9条のこともお聞きしておきたいのですが、最近の「国を守るために軍隊が必要だ」という議論については、どう思われますか?

松本

 軍隊は基本的に、明らかに市民に対しては敵ですからね。財界を中心とする、国益というか利権を守るための軍団ですから、僕らにとっては迷惑以外の何者でもないじゃないですか。絶対守ってくれないですもんね。だから、本当に「いらない」と思う。
 今、北朝鮮とか中国が危ないとか言って脅威を煽る人がいっぱいいますけど、それってこっちがやたら好戦的なことばっかりやってるから狙われたりするわけじゃないですか。僕はもっと、日本が世界の先進国ではなく三流国くらいの、「間抜け」な国になったほうがいいと思ってるんですよ。

編集部

 あはは、間抜けな国。シンポジウムなどでも、それが一番の「攻められない」ための策だとおっしゃってましたよね。あんまり働かなくてどうしようもない国民ばかりになれば「あんなところ征服してもしょうがない」みたいになると(笑)。

松本

 いや、働いて商売とかはしてもいいんですけど(笑)、やたら人の国のことばかり意識したりとかいうことをしなければ、少なくともこんなすごい軍備は絶対いらないと思うんですよね。周りから「何するかわからない」と思われるから危ないわけで。

編集部

 そういえば先日、宮崎県の東国原知事が、「若者が訓練や規則正しいルールにのっとった生活を送る時期があった方がいい」として、「徴兵制があってしかるべき」と発言したというニュースが流れましたね。それに限らず、「今の若者はたるんでいるから、軍隊で鍛え直すべきだ」といった意見を耳にすることがしばしばありますが、それについてはどう思われますか。

東国原知事の発言:
2007年11月28日、東国原知事は宮崎県内で行われた県民との座談会で「徴兵制はあってしかるべき」と発言した(のちに「徴兵制は容認していない」とし、「道徳観の崩壊を心配しての発言だったが、例えとしては飛躍しすぎで不適切だった」)と謝罪した)。

松本

 そう言いたくなる気持ちはわかりますけど、だからって軍隊っていうのは全然意味が違うかなと思います。
 自分たちの判断でやりたいことができないような世の中じゃ、若い世代が「たるむ」のは当たり前。みんなが自分でやりたいことをできるようになったら、もっといろんなことを活発にやり始めたりするから問題はないんじゃないかと思うんですが。
 今は、学校行けとか仕事しろとか、圧迫されてばっかりじゃないですか。だからみんな鬱病とかになったりするわけで、それを軍隊で「たたき直して」も、逆にろくな人間にならない気がしますけどね。

編集部

 若者を「鍛え直す」のなら、軍隊などで「規律正しい生活を送らせる」より逆に…

松本

 まったく正反対のほうがいいですよね。野放しにしたほうがいいですよ、もっと。

編集部

 そうしたら、自分で考えて判断しなきゃいけなくなるわけですからね。
 ちなみに、松本さんご自身はどんなふうな育ち方をされたんですか?

松本

 僕は、かなり野放しにされましたね(笑)。両親がもう、適当なんですよ。親父は物書きで好き勝手にやってて、母親は「山で自給自足生活する」とか言って日本中転々としてますから。そんなんだからもう、子どもに「まともな人間になれ」なんて言うわけないじゃないですか、ふたりとも。だから、かなり勝手にやらせてもらった。
 子どものときは、なんてとんでもない親なんだと思いましたけど、今から思えばすごいいい教育だったかなと思いますね(笑)。何でもやらせてくれたから。
 その代わり、ものをぶっ壊してきたりとか、悪いことするじゃないですか。そうすると、全部自分で責任をとらされるんです。「おまえが自分で謝りに行ってこい」みたいな(笑)。

編集部

 松本さんのたくましさのルーツはそこですね。

2008年はもっともっと世にはびこっていこう

編集部

 さて、松本さんの2008年の「野望」をお聞きしたいのですが、その前に昨年末は、ドイツへ行かれて、松本さんたちのデモなどの一連の活動を記録したドキュメンタリー映画「素人の乱」の上映会をやってきたそうですね。これはどういう経緯で実現したんですか?

松本

 よくわからないんですよ(笑)。たまたまあるドイツ人が日本に遊びに来てたときに、その映画をつくった人と偶然知り合いになって、映画見せたら「これ面白いからうちのところでやろうよ」ってノリノリになって。それで、向こうでセッティングしてもらって行ったのですが、ベルリン、ケルン、ハンブルクなど6箇所をまわってきました。デモにも参加してきました。

編集部

 ドイツのデモって、どうでした? 上映会は?

松本

 7000人が参加の「反警察デモ」に参加しましたが、日本とまったく違っていて、かなりびびりました。デモの参加者と警察とは、もう正面戦というか、殴り合いもする力の勝負。逮捕者もどんどん出る。そんなデモだけど、普通の市民が参加しているし、週末だけでなく毎日どこかでデモやっている。そういったデモ情報は、フリーペーパーやチラシなどで、十分に共有されているんですね。
 で映画の上映は、主にスクワットでやってそこに泊まらせてもらったりもしたのですが、その場所もまた面白くて。フリーペーパーの活用法や場所づくりは、おおいに参考になりました。

スクワット:
経済的理由などにより住居を持たない人が、空き家や使われていない建物を占拠すること、またはその占拠された建物のこと。ドイツやフランスなどでは、国内外のアーティストたちが住居兼アトリエとして住むことも多く、文化発信の場所にもなっている。

 とにかく街中歩いても、スーツ着ている人間よりも、皮ジャン着てる人の方がはるかに多くて。日本だと「まっとうな職につかなくちゃ」というのでみんな悩んでいるわけだけど、あっちだとそういう気なんて、最初からサラサラないやつが、普通に大勢いるから、こっちは(素人の乱とか言いながら)「週に5日まじめに働いてる」なんて、恥ずかしくて言えないような雰囲気でした(笑)

編集部

 へーっ、その話も相当面白そうですが・・・では、それが2007年の締めくくりで、2008年に向けては何か予定はされてるんですか?

松本

 春から夏にかけて本が3冊出る予定なんです。貧乏人のサバイバル術みたいなの――野宿の仕方、ヒッチハイクの仕方から、店のつくり方とか、デモをやったらこうなるとか、選挙は悪用したほうがいいとか(笑)を書いてる実用書っぽいやつ。あとは、自伝的な本と、「素人の乱」の本と。なので、それに合わせてイベントを打っていこうかなと思ってるんですけど。

編集部

 3冊も一気に、というのはすごいですね。それだけ、今の世の中で、松本さんのような存在や生きかた、主張が求められているということなのかもしれませんね。

松本

 どうなんでしょう。でも、労働運動とかもそうですけど、刃向かって自分たちの社会を自分たちでつくっていく、みたいな「勢力」が、早くできてほしいとは思いますよね。何人かぽつぽつとそういう人がいる、というんじゃなくて、一つのジャンルとしてもうちょっと世の中で確立していけば、すごく面白い社会になると思うし、市民の力も強くなるんじゃないかと。
 まずは、のさばるのが大事ですからね。もっともっと、世にはびこらないと(笑)。

編集部

 のさばって、はびこって、連帯して。そのためにも、「素人の乱」のような、拠点になる「場所」って大事ですよね。

松本

 そう、僕も店を開く前、いろいろイベントをやったりしてたときに、新宿のビルの屋上のプレハブを借りてアジトみたいにしてたんですけど、やっぱり店じゃないと集まりづらいんですよね。街で知り合った相手とまた会うためには次のイベントを仕掛けないといけなかったりして、すごく疲れるんですよ。
 店があると、誰かがずっといますからいつでも来れるし、みんな来やすいからどんどん人が来て、本当に知り合いが増えますね。
 実は、ドイツ行ってきて、「場所」の重要性を再認識したんで、さっそくまた高円寺商店街にある空き室を借りてきました。そこでは、イベントや映画上映会などをするフリースペースにしたいなと。ゲストハウスも作りたいんだけれど。とにかく、金がなくたって、遊べたり集まれたりする場所がもっともっとできないと、ダメだと思って。そして横のつながりも作っていかないと。

編集部

 なるほど。そういう人と人のつながりの拠点があってこそ、新しい文化やムーブメントも生まれてくるわけで。いいですね。「マガジン9条」も、お店だしたいですね。

松本

 どんどんやった方がいいですよ。こうやってけしかけるのが、俺の役目なんだけど。で、「マガジン9条」って何でしたっけ?

編集部

 !? 私たちも、もっともっと来年は、のさばるようがんばります。

年々厳しくなりつつある、「国家」や「権力」からの締め付け。
それに対抗するには、一人ひとりが声をあげて、ちゃんと「のさばって」いくしかない。
なんだかワクワクと、楽しい気分になってくるインタビューでした。
松本さん、ありがとうございました!

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