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この人に聞きたい

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藤本幸久さんに聞いた

戦争する国、アメリカの真実を見よ

公開中のドキュメンタリー映画『アメリカばんざい』は、
今、アメリカにある現実を、伝えています。
戦争を考える夏、8月は、
63年前の戦争を語ると同時に、
現在の戦争について、
私たちは目をそらさずに直視するべきでしょう。
銃を持つ若者たち、ホームレスになった帰還兵のこと、
決して人ごとではないはずです。

ふじもと・ゆきひさ
藤本幸久さんに聞いた (ふじもとゆきひさ)1954年三重県生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、土本典昭監督の助監督をつとめる。監督作品に、「闇を掘る」(2001)、「Marines Go Home-辺野古・梅香里・矢臼別」(2005)ほか。

どんな若者が兵士になるのか、
知りたかった

編集部

 映画『アメリカばんざい CRAZY AS USUAL』が今夏公開中です。まず、この映画をつくった動機を教えてください。

藤本

 「マガジン9条」のインタビューなので、端的に言わせてもらうと、「日本の若者たちを、戦場に送りたくない。戦場に行き、殺したり殺されたり、無傷であったとしても、心を深く傷つけられるといった姿を見たくない、と思ったからです。

編集部

 日本の若者が戦場に行く可能性があると?

藤本

 早ければこの2年か3年後に、憲法9条改定が提案されることになるかもしれないでしょう? その時に、実際に一緒に戦争をしようと言っているアメリカ、そのアメリカの現実を知らずに、決めてはいけないと思うのです。世界で戦争をするというのはどういうことなのか、それを本当に知った上で、9条をどうするかということについて、国民は選択するべきでしょう? 本当のところはかなり隠されたまま、「普通の国」とか「国際貢献」とか、あたりのいい言葉できっと提案がされてくるんだろうというふうに、私は思っています。しかし、これは未来の日本を決める選択ですから、決して後悔することのないよう、事実を知った上で選択しましょう、ということでつくった映画です。
 という私も、この映画を作るまではアメリカに行ったことはなく、沖縄で若い兵士たちを見るにつけ、どうして彼らは海兵隊に入ったのだろうか? という疑問を持っていました。というのも、沖縄の基地の中でたまたま遭遇した若者たちは、英語じゃなくてスペイン語で家族と会話していました。米軍なのにスペイン語? そういうところも含めてこれはちゃんと取材しなくっちゃいけないな、と。

編集部

 映画の中にブートキャンプ(初年兵教育キャンプ)が出てきますね。日本ではダイエット法としてすっかりおなじみになった「ブートキャンプ」という言葉ですが・・・。

藤本

 私が取材したのは、サウスカロライナ州パリスアイランドにあるブートキャンプですが、ここには毎週5百人から7百人の若者が入隊します。12週間の訓練を受け、ここだけで毎年約2万人が海兵隊員になるのです。

編集部

 映画の中に、いかにも入隊したばかりの、まだ髪の毛も長い若者たちが、整列させられているシーンがありますね。

藤本

 まさにあれは、若者がはじめてキャンプ地に到着した日の夜中の1時ごろです。彼らはバスやワゴン車に乗せられ必ず夜中に到着させられます。それから48時間の内に、どなり倒されながら、整列させられ、頭を坊主にされ、軍の制服を着せられて、銃を手に持つというところまでやります。それからようやっと宿舎に行くことができるのですが、そこで初めてトイレに行って鏡を見る。そこには初めて見る知らない自分の姿が映し出されているのです。
 なぜ夜中に到着させ、48時間眠らせないのか。疲労と恐怖が、一般人から兵士への改造を容易にするというのが教官たちの説明です。いわゆる問題になるようなカルト的な新興宗教とかで行っているのと同じやり方、眠らせずに、とにかく考えさせずにたたき込んでいくということですね。経験者、兵士になった人たちに聞くと、「あの最初の48時間は忘れられない」と言いますからね。


ブートキャンプに到着してすぐみな坊主頭にされる
編集部

 そんなやり方をされたら、誰でも、コントロールされてしまいますよ。しかも、みんな高校卒業したばかりで社会経験もあまりない10代の若者がほとんどですよね?

藤本

 そうです。ほとんどの若者たちは、自分自身のキャリアをつけるため、生活のステップアップが入隊の理由です。例えば、家が貧乏だけれど大学には行きたいからとか、家族を含めて医療保険がないから、自分が軍に行けば家族も医療保険に入れるとか、そういう非常に個人的な動機で入ってきます。
 それが、「ブートキャンプ」を卒業するときにはかなり変わっています。例えば、「お父さんは『野球をがんばって大リーグのスターになれ』とか言うんだけど、僕は現実的だから、軍に入ってキャリアを上げてからと思っているんだ」と無邪気に言っていた子が、卒業の頃に、「戦場で、敵もあなたと同じ人間だけどあなたは殺せるか」と、質問したところ、「海兵隊の言うことなら僕はできる」というふうに言いました。「『殺せ』と言われたら殺せる」というふうに彼は答えたのです。
 ここまで来たら、次は沖縄とかに行って、今度は実際に戦争をするための実践トレーニングを3カ月間ぐらいやります。6カ月過ごすと、早い子たちは、もうイラクやアフガニスタンに行きます。だから、あの時取材で出会った子たちの中でも、早い子たちは戦場に行っているかもしれない。1年前は高校生だった子が、もう戦場に立ってるです。

編集部

 粗暴だったり、凶暴な思考を持っていたわけでない、ごく普通の子供が、「殺せと言われたら殺せる」というようになるというのは、ショッキングですね。


予防接種を待つ入隊翌朝の新兵たち
藤本

 もともと彼らに戦場に行くというリアルなイメージなんかないですよ。ほとんど戦争の意味さえ知らない。それなのに、1年後には、戦場まで行くんですよ。実際にイラクでは65万人とか100万人とか、ものすごいたくさんの人が死んでいる。つまりは、だれかが殺してるわけですよね。
 彼らは、闘っている相手は人間ではないモノと自分に思いこませて相手をやっつける訓練をしていくわけですが、ある時ふっと、自分が殺した相手が人間だというふうに気がついてしまうと、そこからものすごく苦しむことになります。

ホームレスの3人に1人は帰還兵

編集部

 映画にも、心に深い傷を負った元兵士たちが、たくさん登場しました。

藤本

 自分が直接手を下さなくても、戦争というのは人をたくさん殺す。殺さざるを得ない。そういうことに気がついた人には、さまざまな苦しみが起こります。PTSDですね。それは癒えることが難しい。ベトナムのときからずっとそれを抱えている元兵士の人たちもたくさんいて。帰還兵なのに、病院やケアの保障がきちんとされないので、多くがアルコール中毒。もっと多いのは、ヤク中ですね。それで路上で暮らしている。ベトナム帰還兵たちは、もう戦場から帰ってきて30年ですよ。年をとってきても、家もなく社会から孤立してしまっている、そういう人たちがたくさんいます。

編集部

 国のために闘った兵士が、アメリカ国家からも社会からも見捨てられ、森の中でホームレスとして生活している姿には、唖然としました。

藤本

 大体、普通3人に1人というふうに言われているんですけれども、ホームレス支援にかかわっているNGOの人たちは、もっと多いなと。40%ぐらいが、何らかの戦争の帰還兵だなと言っているんです。ホームレスの支援をしている施設のスタッフは、ベトナム戦争のときよりイラク帰還兵のホームレスのなり方が早いということを言ってますね。ベトナムのときよりも、戦争をすることに対して価値を見出せないんじゃないですかね。ものすごい勢いでなりつつあるということには、すごく心配していました。

編集部

 映画に出てくるホームレス支援団体は、どちらで撮影したのですか? それは、アメリカの特定の地域なんでしょうか?

藤本

 あれは、ワシントン州、シアトルのある州です。西海岸の州都のオリンピアというまちです。それはどこのまちであっても同じだったかもしれないけど、たまたまオリンピアのまちは、ホームレスの人たちをサポートしようというのが、ちょっと進んでいるまちみたいです。でもホームレスの帰還兵は、アメリカじゅう、どこでもいます。アメリカへ行くとコンビニとか喫茶店とかは、全部かぎをもらわないとトイレへ行けないと思うんだけど、あれは、基本的にはホームレスを入れないためのものですから、どこにでも彼らのような人たちがいるということです。


兵舎の中でも銃の扱いを繰り返し訓練する

途方もない格差が、戦争する軍隊をつくる

編集部

 監督が映画を作られた第一の動機として、憲法改定への動きがある中、日本人の若者には、アメリカと一緒に戦争に行って欲しくない、という気持ちから、とおっしゃっていましたが、昨年あたりから、日本においても格差、貧困の問題が取り上げられており、「このまま一生貧乏なままならば、いっそ戦争でも起こってくれた方がまし」と言い出す若者もいます。
 貧困や格差と戦争との親和性については、雨宮処凛さんや堤未果さんも指摘をされていますが、監督は、戦争をする国、アメリカを取材されて、その辺についてどうお感じになりましたか?

藤本

 アメリカを取材してわかったのは、途方もない格差社会であり、途方もなく貧乏で救いのない人たちがいないと、戦争をできる軍隊はつくれないということです。それがないと、本当に戦場で戦争をする軍隊は、先進国ではできません。例えばこんなことがありました。
 UCバークレーの学生たちに、私の作った映画「Marines Go Home-辺野古・梅香里・矢臼別」(2005)を見てもらう機会を持ち、インタビューをしました。バークレーの学生共和党支部の有力メンバーと紹介されたので、「(アメリカの戦争について)どうですか?」と聞くと、「イラク戦争はちょっと問題はあるけれども」と言いつつ、「やっぱりアメリカは戦争というものが必要なんだ。いい戦争もあるんだ」と言うわけですよ。「戦争が必要だと言うんだったら、あなたは軍隊へ行くんですね」と聞くと、「いや、僕はちょっと軍隊向きの人間じゃないから」みたいに言うんですよ。

 それはどういうことかというと、すごい金持ちは別にして、アメリカの大学生の多くは親が不動産などを担保にしてローンを組んで大学へ行かせています。アメリカの大学は、学費が非常に高額で、州立大学でも、学費が年間2万ドルとか3万ドルとか平気でするんですよ。いわゆるアイビーリーグは、3万ドルとか。1年間の学費ですよ。とんでもないでしょう。300万〜400万円とかですよ。 
 そういうことですから、大学に行っている人たちは、卒業して軍隊に行ったら割が合わないんですよね。兵士の給料は、めちゃくちゃ安いですからね。月収1000ドル〜2000ドルとかなんですよ。だから、親がローンを組んで大学に行けるような人は、まず軍隊へ行きません。


鉄条網をくぐり抜ける女性新兵
編集部

 でも、大学に行くための奨学金をもらえるからと軍に入る人もいるんですよね。

藤本

 奨学金は、8割が申し込むと聞きました。しかし、いろいろ条件があるみたいで。申し込めば必ずもらえるものではないみたいですね。それと、軍隊の奨学金は4年間トータルで平均2万4000ドルだったと思います。約240万です。だから、大した金額をもらえないんですよね。それで学費が払えるのは年間60万の学費のところですから、一番安いと言われているニューヨーク市立大学なら行けるかもしれないけど、州立カリフォルニア大学だったら、1年分ぐらいの学費にしかならない。

編集部

 ただ、もともと家が貧乏だから、それしか手段がないということですよね。

藤本

 そうです。ともかくその境遇から脱出したいという思いは持っているわけです。それで軍のリクルーターは、「おまえがこの境遇あるいはこの地域から抜け出られるのは、軍に入るしかない」と言うし、本人もやっぱりそう思って、それで軍に入るんですよ。

編集部

 アメリカは、すでにそういうサイクルで社会が動いているようですが、誰がそうしたんでしょうか? 

藤本

 誰が作ったかというよりは、そういう社会でいいとされている。それを改善しようという努力はあまり行われていないんじゃないですか。


米軍兵士の死者が4000人を越えた
編集部

 それが緩和されたら、兵士になる人はいなくなるから?

藤本

 軍に行く人はもっと少なくなるでしょうね。だって、大学に行けるチャンスが、みんなにあるのであれば、軍隊へなんて行かないだろうし、国民全員に医療保険があれば、家族の医療保険をもらうために軍に入るという若者もいなくなるだろうし。
 だから、それは本当に社会の今のありようと密接に結びついています。それを端的な言葉で言えば、格差の底辺で軍隊にしか希望を見出せない人間たちがいることが、戦争のできる条件だということですね。

 だから僕は今、日本が新自由主義とか、規制緩和とか雇用の柔軟化とかいいながら、低賃金の日雇いの若者をものすごくたくさんつくり出しているのは、もちろん企業の利益のためというのもあるでしょうけれども、それを進めていくこととセットでしか、憲法改正が実質的に意味を持たないからじゃないのかと。本当の軍隊、アメリカ軍と一緒に戦争をできる軍隊にするには、やっぱりそういった軍隊に何か希望を感じてくれるような、格差社会の底辺の若者をたくさん生み出さなくては、憲法だけ改正して軍隊を作っても機能しない、というふうに思っている人たちが、いるんじゃないかと。

編集部

 その一方で、憲法さえ、9条さえ守られれば大丈夫だ、というのとはもはや違いますね。9条が残っても、戦争できてしまう法律が作られる可能性もありますし、このまま格差が拡大していけば、9条があっても戦争待望論が出てくるかもしれない。

藤本

 要するに若者が幸せにならないとだめなんです。戦争をなくしていくためには。それを追求していかないと、「戦争反対」とだけ言っていても、力にはならない。今の若者たちの苦難を何とかしていかないと、戦争をなくしていくことにならないと思います。

「アメリカばんざい CRAZY AS USUAL」は、
東京・ポレポレ東中野」、大阪・第七藝術劇場、名古屋・シネマテークで上映します。
詳しくは、公式サイトをご覧ください。
見て、考えよう!

「アメリカばんざい」を観た後で

池田香代子(翻訳家)

 これを読んでいるあなたは、そもそもこのサイトがあることすら知らない人(残念ながらこっちが圧倒的多数なんだけど)よりも、いろんなことを知っていると思う。アメリカの軍隊のこと、アフガニスタンやイラクや、もしかしたらベトナムの戦争のことも。

 でも、知らないことって、知っていることよりもいつもたくさんあるんだと、この映画を観て思った。そんなの当たり前? 確かにね。でも、言わせてほしい。この映画で「知らなかった」と思ったのは、知り得ないことに限りなく近いことだったんだ。

 新兵の訓練風景、もちろん見たことないから、思わず目を瞠った。アメリカの森にはたくさんのホームレスがいるなんて、しかもベトナム帰還兵がざらだなんて、知らなかった。ベトナム帰りだとしたら、みんな六十歳以上のおじいさんよ。帰還から四〇年、ずっと社会の外で生きてきたの。森の中の、ごみが散乱した住まい跡の映像には呆然とした。その一角の地面は黒く焼け焦げ、花が手向けられている。内輪のいざこざで殺されたの。

 イラク帰還兵も、二十代の若さでどんどんドロップアウトしている。裸足でシェルターにたどりつき、泣き崩れる若者の話があった。高校生に軍のリクルーターが語る大学進学、技術習得、そんなの嘘だという証言。心や体に傷を負っても、補償は不十分。もっとも、補償があっても人生は取り戻せないのだけど。

 社会の中につねに戦争があるということは、その社会は、少年少女を兵士として次から次へと軍隊に供給し、使い捨てることを前提として成り立っているのだということ、頭ではわかっていた。でも、そんな「わかっていた」はぺらっぺらのただのことばでしかなかったの。

 知り得ないことというのは、その社会に生きる人びとの心の襞にたたみこまれた傷、痛み、絶望、憤り……そして、なんとかまともに生きようとする思い。誰かが「ストラグル」と言っていた、そんなようなもの。初めて垣間見たブートキャンプでも、ホームレスの森のキャンプでもない、それらを語る人の心の奥底こそが、知り得ないことなの。

 それを少し、友だちとして聞かせてもらった。だけど、この少しはすごくたくさんでもある。友だちのことばだからね。友だちとしてって、おかしな言い方だけど、映画をつくった人たちが、映画に出てくる人たちの友だちなの。友だちになってから映画をつくったんじゃないかな。友だちの涙や声の震えは、情報や知識としては知り得ないでしょう?

 わたしのことを語ります。親戚の子がイラクにいるの。親戚がアメリカ人と結婚して生まれた子で、わたしとはまたいとこになるのかな。DNA共有率は一,五六二五%。それでも気になる。もう何度目かの任務で、バグダッドでヘリに乗っている。攻撃用ヘリではないと言うけれど、どうなのかしら。メールニュースにヘリ何機墜落なんてあると、どきっとする。でも、当人はお気楽な性格らしい。なにごともなく民間に戻って、記念日には在郷軍人会のパレードに参加するのかしら。そういう、図太いラッキーな人なのかしら。会ったこともない若いまたいとこのために、わたしはなにを願ったらいいのかわからない。

 新兵募集所の前で座り込みをし、後ろ手に手錠をかけられて連行されるおばあさんたちが歌っていた。

「わたしたち、怒れる優しいおばあちゃん」

 護送車の中でエレガントに笑うおばあさんたちの横顔を思い出すと、涙がにじむ。それが、バリカンで刈り上げにされる少年新兵の目尻にあふれる涙と重なる。わたしもまた、優しいかどうかはさておき、怒れるおばあちゃんとして、このインティームで重要な映画を、一人でも多くのあなたと共有したいと思います。

 

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