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2013-06-19up

この人に聞きたい

枝元なほみさんに聞いた(その1)

どんなときも、人は食べて生きていく

作りやすくて親しみやすく、もちろんおいしい。そんなレシピが人気の料理研究家・枝元なほみさん。テレビや雑誌で活躍するほか、生産者支援や被災地支援、脱原発などの活動にも積極的に取り組んでいます。お話ししているとこちらまで元気になってくる、そのパワーの源泉はどこにあるのか? 農業支援団体「チームむかご」の活動について、「食」への思いについて、たっぷりお話を伺いました。

枝元なほみ(えだもと・なほみ)
料理研究家。明治大学卒業後、劇場の研究生になり役者をしながらレストランで働く。劇団解散後、料理研究家に。料理本の執筆の他、料理番組への出演多数。また農業支援団体チームむかごを立ち上げ、現在は社団法人「チームむかご」の代表理事。東日本大震災の後は被災地支援の活動(にこまるプロジェクト)も同法人で行っている。twitter:@eda_neko

「このままじゃ、日本の農業がなくなっちゃう」と思った
編集部

 枝元さんは、料理研究家として活躍される一方、農業支援団体「チームむかご」を立ち上げるなど、日本全国の農業・漁業生産者との交流やその支援にも積極的に取り組まれていますね。そうした活動を始められたきっかけを教えていただけますか?

枝元

 「チームむかご」を立ち上げたのは5年くらい前ですが、その前から料理の仕事を通じて、生産者やJAの方とお会いしてお話を聞く機会がたくさんあったんですね。畑を見せてもらったり、有機栽培をする農家の方と一緒に「畑の見える料理教室」をやったり…。でも、その中でいろんなことを見聞きするうちに、「このままじゃ、ほんとに日本の農業がなくなっちゃう」と思うようになったんです。

編集部

 どういうことでしょう?

枝元

 実際に畑に行ってわかることがすごくいっぱいありました。たとえば、大根の出荷作業って見たことありますか?
 大根がいっぱい詰まった一つ10キロ以上あるコンテナを、まずどんどん軽トラに積んでいくんですね。私はこの時点で持ち上げられなかったけど(笑)、それを作業場に運んで下ろして、そこできれいに土を落として洗って、拭く。で、それを新品の段ボールに10本単位とかキロ単位とかで詰め直して、また軽トラに積み直して、出荷場に持っていって、また下ろす。もし私がやるんだったら、大根1本2000円くらいじゃないとイヤだと思った(笑)。
 でも、実際には大根1本100円、150円とかで売られてることもあるでしょう。しかも、150円で売ったとしても、流通や小売りで持って行かれるから、農家の取り分ってそのうちの30%くらいなんですって。土をつくって、種撒いて、芽が出たら植え替えて、間引いて、雑草を取って、場合によっては農薬撒いて、雨が降ったといっては心配して、降らないといっては心配して…それでやっと出荷して、利益は50円以下ですよ。しかも、段ボールとかの資材費ももちろん全部農家もち。正直、とてもやってられないと思った。

編集部

 まず経済的に成り立ちにくいんですね。

枝元

 あと、日本の野菜って見た目による選別が中心になっちゃう。サイズもすごく細かく等級付けされるし…一度、あるブランド葱を作ってる葱農家さんを訪ねたことがあるんですけど、ちょっとでも太かったり曲がったりしてたら全部廃棄。それどころか、緑の部分と白の部分はこのくらいの長さって決まってて、長さを揃えるために、青々しておいしそうな先っちょの部分も全部切り捨てちゃう。ブランドを保つためだっていうんだけど、食べ物ですからね。私、その捨てる部分を全部もらってきて、もう意地みたいになって料理して、周りの人に食べてもらいました。でも、農家の人たち自身の多くも、そういう「見た目重視」がイヤになってるところ、あるのじゃないかしら。
 あと、これはまた別の葱農家で聞いた話だけど、スーパーマーケットに葱を卸すことになって、そのためのミーティングで「鮮度のいい、おいしい葱を入れますから」と言ったら、先方の担当者に「鮮度は別にいいんです」と言われた、と。「鮮度は水をかければ分からないから。それより欠品しないことのほうが大事です」。もう、あんまり腹が立って椅子を蹴って帰ってきた、と言ってました。

編集部

 食べ物というよりは、工業製品みたいですね。

枝元

 そうなの。もっと言えば、私はなるべく有機栽培が広がったらいいなと思っているんです。それは食べ物の安全のためだけじゃなくて、生産者自身の体への影響もあるんじゃないかと思うし、農薬が見た目をよくするためだけに使われることも多いので。よく「有機栽培は儲からない」というけど、いろいろ調べていくと、農薬って今けっこう高くて、有機ならそのお金がかからないから、十分やっていけるという農家さんもいらっしゃる。もちろん、その分手間はかかりますけど。
 でも「この新しい農薬を使うと作りやすいですよ」と農家さんにどんどん勧めたりする方向もあるし、そういうことをやらないと、安くたくさん作ってどんどん売る、という形が成り立たないようでもあるし…。今、専業農家の人の数よりJA職員の数のほうが多いくらいなんだそうです。
 なんだか、今の日本の農業が、食べ物を作る農家の人たちのプライドを守りきれないシステムになっちゃってる。原発と同じで、システムが古びて機能停止を起こしてるのに、そこにしがみついてる部分、変われない部分があると思う。

編集部

 そう考えると、農家の人手不足、慢性的な人手不足は必然といえるかもしれません。

枝元

 でもね、農家の人たちっていろいろ話を聞いてると、かっこいいんですよ。働き者で、元気良くててきぱきしてて。「食べるものを作る」ことに誇りを持って、研修生を受け入れて若い人たちを育てようとしてる人もたくさんいて。やりがいのあるいい仕事だな、と思った。
 だったら――仕事として素敵なんだとしたら、あとはどうやって経済的に成り立たせるかということ。実際、経済的にうまくいってる農家は子どもも「跡を継ぎたい」って言うところが多いと思う。

生産者と消費者、生活者をつなげる
「チームむかご」
編集部

 そこから農業支援を掲げる「チームむかご」の立ち上げにつながるんですね。

枝元

 「農業支援をしたい」とは思ったものの、知識はないし、問題が大きすぎてどこから手をつけていいのかわからないし…そのときに注目したのが「むかご」。山芋の地上部分、葉っぱの付け根にできる球芽なんですけど、収穫もせずに捨てている農家さんが多かったんですよ。おいしくて私は好きだし、畑に行ったらあちこちにいっぱい落ちてるのに、なんで売らないんですか? って聞いたら、「売れないから」っていうんですよ。農家の人にしたら、長芋とか山芋っていうのは、自然薯みたいに粘りがあるのが一番いい、粘りのないむかごなんて売れっこない、という感覚なんですね。
 でも、料理を仕事にしている視点から見るとまた違うところが見えてくる。むかごはそのまま塩茹でにするだけでおいしいし、調理は簡単で栄養価もすごく高い。特に小さい子どものいるお母さんなんかにしたらすごく便利な素材です。それに、農家の人にとっても、土の中の芋を掘り出すのは大変だけど、むかごなら地上部にできるものだから、リタイアしたおじいちゃんおばあちゃんでも簡単に集められる。それで今まで捨ててたものがお金になるならいいじゃないかと。

編集部

 それで、そのむかごを買い取って、直接消費者に売るということを始められた。

枝元

 そうです。各地の山芋作ってる農家さんに直接電話して、「むかご作りませんか、売りませんか」と声をかけて回って…。最初はどうやって売るのかもわからなかったけど、自分でファーマーズマーケット(※)に出店して売ったりするうちに、どうやったら買ってもらえるのかなども少しずつわかるようになってきました。100g200円のむかごを1袋買ってもらうのに30分かけて説明したりするから、終わって夜帰ってくるともう、ボロボロに疲れてたりするけどね(笑)。

※ファーマーズマーケット…地域の農業生産者らが集まって、生産物を直接消費者に販売する形態のマーケット。東京では青山・国連大学前で毎週末開催されている青山ファーマーズマーケットなどが有名。

編集部

 今はほかの作物も扱ってらっしゃいますね。生産者を訪ねるツアーを企画されたりも。

枝元

 ただ、私たちは、食べ物の作り手ではなくて、生産者と消費者、生活者をつなげていく、真ん中にいる存在。そこの部分はぶれないようにしようと思っています。私たちにできるのは、これがおいしいよ、こうやって料理するんだよ、と伝えたり、作物ってこう育つんだ、と説明したりすること。それによって、いま生産者と消費者の間にある「ねじれ」のようなものを直していければ、と思っているんです。

「人は食べて生きていく」ということを、
いつも肝に銘じている
編集部

 さらに、一昨年の東日本大震災の後、被災者の方たちが作ったクッキーを被災地以外の人たちに向けて販売するという「にこまるプロジェクト」も開始されました。

枝元

 震災があった後、私ほんとに「どうしていいかわからない」状態でした。怖いし、テレビを見るだけで何も手につかなくて。そんなときに、家でアシスタントの子たちと一緒に、おむすびとか作って食べたら、とても気持ちが落ち着いたんです。みんなで食べること、食べ物を作ることって、すごく落ち着くんだな、と改めて思って。
 それで、被災地にも何か手作りの食べ物を届けたい、と思っていたときに、あるNGOが被災地に物資を届けるというのをツイッターで見て。「やった!」と思って(笑)、周りの人たちと一緒に、クッキーとか日持ちのするおかずとかを作って持って行ってもらうことにしたんです。ツイッターとかでも呼びかけたら、来てくれた人がいっぱいいた。やっぱりみんな不安で1人じゃいられなかったんだと思う。私自身も、支援だとかいうよりは、みんなと一緒に手を動かしていたい、「何もできない」無力感から救われたい、という一心だったような気がします。

編集部

 それが「にこまるクッキー」のはじまり。最初は「クッキーを作って被災地へ送る」活動だったんですね。

枝元

 そう。でも、1ヵ月くらい経って状況がやや落ち着いて、被災地の食糧事情も少し安定してきたのを機に、やり方を変えることにしたんです。私たちがそうやって「手を使う」ことで落ち着いたのなら、被災地ではもっとそうじゃないか、と思ったんですね。避難所にいたら何もすることがないし、だったら被災者の人たちに手を使って、自分たちで食べ物を作ってもらおう、それを私たちが買い支えよう、と。それが徐々に広がって、今の「にこまるプロジェクト」の形になっていきました。

編集部

 「食べ物」の持つ力を実感するエピソードですね。枝元さんが東日本大震災の後に出された著書に『今日もフツーにごはんを食べる』というタイトルの本がありますけど、そうして「ごはんを食べる」「作る」ことが、本当にすごく力を与えてくれるんだと思います。

枝元

 私は料理を仕事にしていますけれど、レシピの小さじ1、大さじ1にばかりこだわるより、「食べる」ということの根源を常に考える料理人でいたい、と思っています。「人は食べて生きていく」ということを、いつも肝に銘じていないとダメだ、と。
 食べるっていうことと生きるっていうことは、ものすごくつながっていて。食べることは、命を養うことなんですよね。だけど、その「食」が今、どんどんビジネスというか、お金儲けの道具になっていってしまってる。昔ももちろんそういうことはあったけれど、もっと規模が小さかったでしょ。今はお金のための、お金儲けのための食べ物とのかかわり、みたいな部分がどんどん大きくなっていっている気がします。
 その中で、私の仕事は「キッチンの敷居をすごく低くすること」だと思ってるんです。気がついたらキッチンに入って自分で料理してた、みたいな人を増やしたい(笑)。畑に行ってみるのと同じで、頭の中だけで考えてると分からないけど、台所っていう「現場」に来て、冷蔵庫を開けて、自分で料理したり食べたりすることで、生きる力をつけていくことができると思うんです。

その2へつづきます

(構成/仲藤里美 写真/塚田壽子)

料理を作って食べること、食べてもらうこと。
それがどんなに人を力づけるか、
3・11の後に実感した方は多かったのではないでしょうか。
その「食」につながる「農」を、どう支えていくのかは、
私たち一人ひとりが「生きること」にかかわる、重要な課題です。
次回、3・11から2年を経た今の思いについて伺います。

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