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この人に聞きたい

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ピーター・バラカンさんに聞いた

Give peace a chance!
平和を試してみよう

「政治」や「平和」をめぐっても、積極的に発言を続けるバラカンさん。
30年暮らした日本の社会について、そして憲法9条については、
どう見ているのでしょうか?
年末年始に聞きたい・見たい、おすすめの音楽や映画もご紹介いただきました。

ピーター・バラカン
1951年ロンドン生まれ。ロンドン大学日本語学科を卒業後、1974年に来日。音楽出版社、マネジメント事務所などを経て、現在はフリーのブロードキャスターとして活動。TV、ラジオ番組などを通じて、世界の音楽を日本へ紹介し続けている。レギュラー番組に「CBSドキュメント」(TBSテレビ)、「ビギン・ジャパノロジー」(NHK総合テレビ)、「ウィークエンド・サンシャイン」(NHK-FM)など、著書に『魂(ソウル)のゆくえ』(アルテスパブリッシング)、『ロックの英詞を読む』(集英社インターナショナル)、『ぼくが愛するロック名盤240』(講談社+α文庫)などがある。

国際社会で発言権のない日本

編集部

 バラカンさんは、平和集会などにもしばしば参加され、発言されていますが、最近の日本の「平和」をめぐる政治的状況について、どう感じておられますか? 何か、気になったニュースなどは?

バラカン

 この間更迭された空軍——事実上「軍」だと思うけれど——の幕僚長の発言は、とても興味深かったですね。

編集部

 興味深い?

バラカン

 もちろん、支持はしませんよ。彼は、若い日本人が肯定的な自己イメージを持つためには、日本のやったことがいいことだったと教えるべきだと言ったけど、僕はそれは全然違うと思う。肯定的な自己イメージを持つのなら、まず20世紀の歴史を直視すべき。別に一方的に西洋の見方で伝える必要はないから、なぜ日本がああいう軍国主義に変わっていったのか、客観的に、感情的にならないで教えればいい。それによって、同じ失敗を繰り返さないためにどうしたらいいかということが分かってくるんだと思います。

 ただ、ああいう「爆弾発言」は、大いに言ってもらったほうがいいと思うんです。建て前でずっとやっていくより、本音を吐いてもらって。そこで議論が行われることはとても大切なことです。多分、田母神氏と同じことを心の中で思ってる人は結構いるんだけど、今は「臭いものに蓋」をしてる。それじゃ意味がないからね。

編集部

 たしかに、「マガジン9条」の読者からも、父親に「(田母神発言は)みんなが思ってることを口にしただけだ」と言われて唖然とした、という体験談が届いていました。

バラカン

 あと、最近の日本の政治家の主張で「まったく論理になってない」と思うのが、「テロに対する戦いなんだから、インド洋での給油活動を再開する必要がある」という話。日本はいつからテロの脅威にさらされてるわけ? と。

 日本で起こっているのは、オウムのサリン事件にしても秋葉原の無差別殺傷事件にしても、日本人による「テロ」、もしくは犯罪行為だけ。もしテロの脅威があるとすれば、それは日本が盲目的にアメリカの外交に荷担しすぎているからとしか考えられない。アメリカだって、どうしてテロが起きたのかといえば完全に外交のせいだし、これは世界中の誰もが分かっていることだと思う。

編集部

 「対テロ戦争」は国際社会全体の課題だから、日本もそこに参加しなくてはならない、それが国際貢献なんだ、といった論理もあります。

バラカン

 それが理に適ってることならいいけど、そうじゃないのに「みんながやってるから我々もやらなきゃ」というのはおかしいでしょう。むしろ、「理に適ってないよ」ということを、声を大きくして国連ででもどこででもどんどん発言すればいい。世界で第二位の経済力を持ってる国なんだから、それなりの発言権があるはずです。

編集部

 とはいえ、実際には今の日本にはあまり国際社会での発言権があるとは思えない…。

バラカン

 それは、経済は一流でも政治的には三流だと言われ続けてきたからでしょう。結局は、そういう三流の政治家に投票する国民が悪いんですけどね。一応、形の上では民主主義国家なんだから。

日本の「民主主義」とは

編集部

 「形の上では」というのは、日本の民主主義は「本当の民主主義」ではないということでしょうか?

バラカン

 日本は最近になって、自分たちが困ったときに限って相手に「自己責任」を押しつけるようになったけど、学校の現場では全然自己責任じゃないでしょう。厳しい校則があるのも、学校が責任を負わされているからですよね。そうじゃなくて、子どものときから本当に「自己責任」で育てればいい。民主主義って、そういうことだと思いますよ。

 それからあと、法廷での裁判プロセスや刑務所の中の様子がなかなか公開されないのも、民主主義的じゃないなと思う点ですね。以前、「刑務所の中」という映画を見たけれど、そこに描かれていた所内の受刑者の扱いもひどかった。小学生の上履きみたいなのを履かされていたり、どうして大人をこんな小学生みたいに扱うのかと、怒りがこみ上げました。

 それに、事件があって誰かが逮捕されると、その人のことを「〜容疑者」と呼びますよね。僕が日本に来たころは呼び捨てだったんだけど、でもそもそも、民主主義国では「疑わしきは罰せず」なんだから、どうしてさん付けじゃいけないの?と思う。TVのニュースなどで、逮捕された瞬間からその人のことを「男性」とか「女性」じゃなくて「男」「女」というようになるのも、すごい人権侵害だと思いますね。

 すごく微妙なところなんですけど、そういう微妙なところが人の本心を一番くっきりと表している気がするんです。

編集部

 死刑制度についても、バラカンさんは以前から「反対」を明言していらっしゃいますね。

バラカン

 人それぞれの考え方があると思いますけど、僕の考え方は「人の命をとる権利は人間にはない」ということ。死刑制度を支持する人のほとんどは、被害者の遺族への同情があるんだと思うけれど、そうした感情論で人の命をとるというのはとても危険なことです。それは決してあってはならないと思う。

 それから、僕は死刑を支持する人には「じゃあ、あなたは執行人になれますか」と聞きたい。なれる、自分から進んでなるという人がいれば、それ以上の反論は多分できないと思います。でも、支持するけれど自分はなれない、やりたくないというなら、悪いけれどそれはもう偽善です。そんな支持論に説得力はないと言いたい。戦争は支持するけれども自分は兵士にはならないというのと同じだと思う。

編集部

 民主主義国家においては、死刑制度を維持している国は減ってきていますね。

バラカン

 「そう。「死刑があるほうが抑止力になる」ともいうけれど、廃止した国などの統計を見てもそうは言えないみたいですし。

 だいたい、凶悪犯罪に限らずどんな犯罪でも、人は心に何か問題があるから罪を犯すわけです。それを監獄にぶち込んだり、処刑したりという対症療法だけで対応しても、根本的な解決にはならない。政府とか警察とか、権力を持っている側は何の問題に対しても、そうした対症療法をしようとしがちだけれど、それは単なる自己満足に過ぎないと思うんです。

平和に「チャンス」を与えよう

編集部

 憲法9条については、どう思われていますか?

バラカン

 映画「日本国憲法」の中で、チャルマーズ・ジョンソンが「日本の9条は世界に対する約束だ」と言ってましたけど、それにとても共鳴しました。もし9条をなくして軍隊を持てば、特に東アジアの国々の日本に対する信頼はがた落ちになってしまう。

 地震や洪水が起こったときの救援ができるような組織はもちろん必要だろうけれど、そうじゃなくて軍隊を持ってる意味はもう、ないんじゃないかと思う。今の時代に、中国が襲ってくる、ロシアが襲ってくるなんてことはあり得ないでしょう。政治家はおそらくみんな「丸腰でいたら無責任だ」と言うでしょうけど、そうかなあ。僕は完全な、もうバカみたいな平和主義者だから、「丸腰でいる」勇気を持てたら、こんなに素晴らしいことはないと思うんだけれど。

編集部

 完全な、「バカみたいな」平和主義者…。そうしたバラカンさんの姿勢は、どこで培われたものなのでしょうか。

バラカン

 世代とも関係あるのかもしれないね。つまり、1960年代が青春時代ですから、ヒッピー文化やカウンターカルチャーの影響を受けて、ちょっと理想主義的なところがあるんだけど。

 ジョン・レノンに「Give peace a chance」という歌があるんだけど、昨年、ドキュメンタリー映画の「ピースベッド アメリカVSジョン・レノン」を見たときに、初めてそのメッセージの素晴らしさに感動したんです。昔聞いていたときにはあまり深くそのメッセージについて考えなかったんだけど、「とりあえず、一度でいいから平和を試してみたらどう?」ということなんですよね。All we are saying is give peace a chance、僕らが言ってるのはそれだけだ、と。

編集部

 理想主義だとか何だとかいう前に、私たちはまだ一度も本当に「平和」を試していないんですよね。

バラカン

 そう。青臭いと言われるかもしれないけど、僕はそれでもいいと思ってる。平和のどこが悪い? とね。

この冬のおすすめ、元気の出る映画

編集部

 さて、では最後に「マガ9」読者に向けて、「これを聞いてほしい、おすすめ」という1曲をご紹介いただきたいのですが…

バラカン

 うーん。たくさんあるんですけど…オバマの選挙キャンペーンのときに、「Yes, we can(私たちにはできる)!」というキャッチワードがありましたよね。それに関連して、「Yes we can, can」※という曲があります。ニューオーリンズのミュージシャンでプロデューサーの、アラン・トゥーサンという人が作った曲なんですけど。

※2005年にアメリカ東部を襲ったハリケーン「カトリーナ」の被災者支援チャリ
ティアルバム「Our New Orleans」の1曲目に収録。

編集部

 どういう曲なんですか?

バラカン

 テーマは肯定主義というか、人類愛的なもの。「争いごとを忘れようよ、仲良くしようよ」とか「我々の将来をつくってくれる子どもたちを大事にしよう」とか「女性たちを大事にしないとだめだ、みんな母親がいるんだから」みたいな、当たり前といえば当たり前の歌詞なんだけど、それをすごくかっこよく歌ってるんだよね。「Yes we can, can/Yes we can, can」を何回も繰り返すリフレインの部分が、すごくリズミックで。

 あと、この曲が使われている「ヤング@ハート」という映画があって、これがすごく面白いんです。

編集部

 それはどんな?

バラカン

 アメリカのマサチューセッツ州の小さな町に住む、高齢者のコーラスグループを描いたドキュメンタリーなんです。平均年齢は80代、一番年上のメンバーは93歳の女性。でも、音楽監督が50代の男性で、彼がロックとかソウルとかを持ってきて、どんどん歌わせるわけです。その中に「Yes we can, can」もある。この曲のリズムはちょっと複雑なところがあって高齢者には覚えにくくて、何度練習してもうまくいかないんだけど(笑)。
 そのほかにも、色々なタイプのロックの歌を歌ってたりする。トーキングヘッズの「Road to Nowhere」とかデヴィッド・ボウイの「Golden Years」とか。ラモーンズの「I wanna be sedated」なんて、「鎮静剤を打ってくれ」という意味だからね。これを高齢者が歌う、という(笑)。
 でも、そのお年寄りたちはみんな前向きで、一生懸命だし、ユーモアがある。自分たちがこういう歌を歌うとまた違う感じに聞こえるというのを分かってやってる、そこがまた素晴らしいんです。
 笑うところもあるし、じーんとして涙が出そうなところもあるし、でもすごく楽しくて、本当に素晴らしい映画。定年退職して、やることがなくて困ってるという高齢者にぜひ見て欲しい。別にロックをやれとは言わないけど(笑)。

編集部

 ちょうど今、日本全国で公開中なんですね。お正月休みもあるし、ぜひ見に行きたいと思います。

インタビューの中で、たくさんの音楽や映画の話題が出ました。
本文で紹介したもの以外にも、是非おすすめなのがこの2本。
一つは、映画『チョムスキーとメディア』。
そしてもう一つは、バラカンさんがナビゲーターを務める
みんなロックで大人になった
(NHKBS-1 1月5日 午後9時10分から10時 7夜連続)
貴重な映像で現代へと続く、当時の時代や社会背景をあぶりだします。
ご覧ください。

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