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フリーランスライター 畠山理仁の「永田町記者会見日記」~首相官邸への道~【第5回】

畠山理仁●はたけやま みちよし/1973年愛知県生まれ。早稲田大学在学中の1993年より週刊誌を中心に取材活動開始。1998年、フリーランスライターとして独立。興味テーマは政治家と選挙。米国大統領選、ロシア大統領選、台湾総統選など世界の選挙も取材。大手メディアが取り上げない独立系候補の活動を紹介した『日本インディーズ候補列伝』(大川豊著・扶桑社刊)では取材・構成を担当した。 昨年9月18日、記者クラブ加盟社以外にも開放された外務大臣記者会見で、フリーの記者として日本で初めて質問。今年1月22日には、東京地検からの事情聴取直後に開かれた小沢一郎・民主党幹事長の記者会見を、iPhoneを使ってゲリラ的にインターネットで生中継し注目される。twitterでは、 @hatakezo で日々発信中。

2010年3月9日@外務省講堂

「政権交代しなくてもこういうことはできたはず。冷戦が終わり、アメリカの政策も変わった90年代前半が一つのチャンスだった。しかしそれが変わらないまま、国会答弁で事実でないことを歴代総理や外務大臣が述べてきたのは非常に残念なことだと思います」
(岡田克也外務大臣)

 3月9日、岡田外務大臣は日米間の「密約」問題に関する有識者委員会からの報告書提出を受けて記者会見を開いた。上記の発言は「密約が明らかになったことと政権交代との関係」について答えた大臣の言葉。
 今回の調査によって、従来は存在が否定されてきた「密約」が日米政府間で交わされていたことが明らかにされた。これは歴史の転換点。その会見がオープンな形で開かれたことは画期的だ。
 しかも約1時間半に及んだ会見の全ては、「外務省動画チャンネル」で誰もが視聴可能。外務省ホームページでも、「極秘」の印や手書きメモが生々しい報告対象文書35点とその他関連文書296点が公開された。これまでマスコミを通じてしか知ることができなかった情報を、国民が直接知ることができる時代になったのだ。
 なお、今回の会見では参加者に事前に資料(報告書)が配られ、「エンバーゴ」(報道解禁時刻の指定)が設定された。具体的には「大臣が記者会見で発表するまでは報道不可」というお約束。そのため一旦会場に入ると、基本的にトイレ以外での会場内の出入りは禁止(エンバーゴを破ると会見への出入り禁止などのペナルティが科せられることも)。
 せっかくなので私もトイレに行ってみた。誰か見張りがついてくるのかと思ったら、誰もついてこなかった。意外とユルい。
 もっとも、今は通信環境の進化により、会場内に閉じこめられていても外部に情報を流すことは簡単だ。実際、会見が始まると同時に記者達は一斉に写真や原稿を送っていたし、インターネットを通じた動画生中継も行われていた。
 かつては「記者クラブの悪習」と言われたエンバーゴ。時代とともにあまり意味をなさなくなってきているのかもしれない。

2010年3月4日@内閣府会議室

「私自身は、最初は会見を全部オープンにできないかと指示を出しまして、いろいろ調整を事務方にしてもらった結果、こういう形になりました。実質を優先して進めさせていただく、ということが今日にいたった経緯でございます」
(枝野幸男行政刷新担当大臣)

 3月4日木曜日。枝野行政刷新相は、内閣府内の会議室でフリー記者らも参加できる第一回目の「オープン会見」を開いた。
 枝野大臣は毎週火・金の閣議後に定例記者会見に応じているが、そちらは記者クラブ主催であるためフリー記者は参加できない。一方、毎週木曜日に開かれることになった大臣主催の会見は「オープン」であるためフリーの記者も参加できる。もちろん、火・金の会見に出席している記者クラブの記者も参加できる。つまり、クラブの記者は週3回、枝野大臣の会見に出られる計算だ。この日用意された会見場の座席は100席ほどだったが、フリーの記者だけでなく、多くの記者クラブ所属記者も参加していた。
 そこで私は記者クラブに対する皮肉を込めて質問した。

「記者クラブは毎週2回、フリー記者らの参加を認めない会見を開き、大臣の時間を“独占”しているとも思える。そちら(記者クラブ主催)の会見をオープンにして欲しいという要望を、大臣からされたことはございますでしょうか?」

 それに対する枝野大臣の答えが上記のもの。記者クラブが従来の会見をオープン化することに抵抗した様子が容易に推察できる。だって、もしクラブ側が反対していなかったら、わざわざ曜日をずらして開くことはないもんね。
 記者クラブの記者様たちは記者室も無料で使える。その上、記者会見のルールも自由に決めて、部外者であるフリー記者は参加させない。フリーの記者より、よっぽど「フリー(無料、自由)」な存在だ。
 ちなみに私はこの会見のインターネット中継を事前申請していたが、当日、入り口で事務方の職員に却下されてしまった。そこで私はその点についても質問した。

「まったく、自由のつもりです。私の立場としては全く。むしろどんどんやっていただきたい」(枝野大臣)

 この答えを受け、事務方がすぐさま「(事務方職員の間での)連絡ミスでした。申し訳ございません」と謝罪。公の場で確認しておいてよかった。
 ちなみに4月に予定される第二回事業仕分けについても「インターネット中継、ウェルカムです」と枝野大臣は言っています。そういうオープンな姿勢は国民にとってもウェルカムです。

2010年3月4日@内閣府会議室

「あまり考えたことはなかったんですが、(記者クラブは)直感的には仕分けに馴染む性格のものではないのかなと」
(枝野幸男行政刷新担当大臣)

 枝野大臣の会見での発言をもう一つ紹介。この日は第一回目のオープン会見ということもあり、記者クラブに所属していない記者から会見の運営方法や定義についての質問が数多く飛んだ。
 そこでは記者クラブ主催の会見では絶対に出ない質問も出た。
「なぜ記者クラブは仕分けの対象にならないのか?」
 この質問をしたのは、長年、記者会見のオープン化に取り組んできたインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の神保哲生さん。
 枝野大臣は上記の答えに続けてこう述べた。

「記者クラブの在り方について、さまざまな議論があることは私も存じております。ただ、記者クラブに入られていないみなさんにも報道の自由があると同時に、記者クラブのみなさんも報道の自由を持って報道される立場におられる。私どものほうから、記者クラブがどうあるべきだとか、どう変えるべきだということよりも、記者クラブの中におられるみなさんと、それ以外の報道関係のみなさんと、世論を巻き込んで物事が決まっていくということではないかなと」

 一般の人にとっては『業界の内輪話』ともとられる記者クラブ問題。でも、「知る権利」や「多様な言論」という意味では、一般の人たちにも関係がある。記者クラブがどれだけ行政から恩恵を受けているかについて、記者クラブ側が自ら報じることはないもんね。

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ずっと「密約」はなかったと言い続けてきた歴代の首相や大臣たち。
外務省は、今回の報告については全面的にオープンに材料を提供してきました。
これをもとにどう議論し判断していくかは、
専門家だけでなく私たちに託されたことでしょう。

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