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2010-08-11up

40歳からの機動戦士ガンダム【第11回】ガンダムで描かれる軍内部での対立 その1

 何の告知もなく、勝手に「充電」と称して連載を休ませてもらっていましたが、今回よりまたしばらくの間お付き合いください。

 で、その充電期間中に、日本の政治は目まぐるしく変化しました。今では懐かしい鳩山・小沢のダブル辞任、菅政権誕生による支持率のV字回復、それもつかの間の参院選大惨敗と、わずか2ヵ月の間に政権与党民主党は天国と地獄を行ったり来たり。これらに関しては様々な論評が出尽くしていますが、私が少しだけ気になるのは民主党内の「対立の構造」です。

 菅氏は代表選出馬の際、小沢前幹事長に対して「しばらく静かにしたほうが…」と言い、小沢系議員を党内人事等で露骨に排除。それによって、まとまったかに見えた「反小沢陣営」ですが、仙谷・枝野両氏の抜擢人事に対する不満の声が菅氏の側近から挙がったとか。そして、参院選後は、ご存じのように小沢グループを中心に、菅さんへの包囲網を模索する動きが活発です。衆参が「ねじれ現象」を起こしているいまこそ、せめて党内は結束して外の敵に向かうべきだと思いますが、民主党内は分裂気味です。

 まあ、一言の不満も出ず、全員がある目的に向って進んでいる(ように見える)団体・組織なんていうのは、分野を問わずあまり気持ちのよいものではありません。だから、こうした揉め事や不平不満が表面化するのは、ある意味ではその組織が健全な証拠なのかもしれませんね。
 しかし、これが軍隊という組織となると、そんなノンキなことは言ってられません。何しろ敵の命を奪うことを目的とした武装集団だけに、内部での揉め事や足の引っ張り合いは人の生死に直結するからです。
 今回は、ガンダムで描かれる軍内部での対立や争いを通して、軍隊という「武器を持った官僚組織」について考えてみたいと思います。


「冷戦」まっただ中の時代において、
「善対悪」の二元論に陥らなかったガンダム

 ガンダムがテレビで初放映された1979年といえば、まさに東西冷戦まっただ中の時代。世界は米ソ二大国によって二分されていました。
「戦略兵器制限条約(SALT-Ⅰ)」(72年)や「同第2回条約」(79年)など、米ソ間で緊張緩和に向けた動きはありましたが、79年12月にソ連がアフガニスタンに侵攻。アフガンの共産主義政権とソ連軍に抵抗する組織をアメリカが支援するなか、泥沼の戦いがその後約10年続きます。

 ソ連のアフガン侵攻の翌年にモスクワで開かれたオリンピックを西側諸国はボイコットし、その仕返しとばかりに84年のロサンゼルス・オリンピックに東側諸国が出ないなど、スポーツの世界でも冷戦構造が確立されていました。映画や小説などの世界も同じで、冷戦下の米ソ対立を描いた作品は無数にあります。なかには対立構造を先鋭化させるためなのか、現在の感覚からすると「トンデモナイ」作品もけっこうありました(注)

(注)例えば、名作『ビッグ・ウェンズデー』などで知られるジョン・ミリアス監督の『若き勇者たち』(84年)は、米コロラド州に突然降下してきたソ連兵たちが市民を虐殺し、それに対して地元の高校生たちが立ち上がるというもの。また、シルベスター・スタローン監督・主演作の『ロッキー4/炎の友情』(85年)では、米国とソ連の国旗を模したボクシング・グローブがぶつかって爆発するというオープニングでした。

 いずれも根底にあるのは、ソ連という国家を徹底的な悪に設定し、それに対するアメリカを善として描くという「善対悪」の二元論でした。

 この傾向は、日本のアニメや、いわゆるヒーロー戦隊ものと呼ばれるテレビ番組にもあり、『ウルトラマン』『仮面ライダー』『マジンガーZ』など、多くの作品が基本的には「善対悪」の二元論で設定・構成されていたように記憶しています(もちろん例外はありますが)。
 ガンダムは、そのような二元論とは一線を画した作品でした。敵も味方も同じ人間であって、それぞれに戦わざるをえない理由があり、敵味方の戦時下での苦悩や苦労が描かれます。

 冷戦という「対立の時代」に、このような作品が生まれたことにまず感心しますが、それ以上に、組織内にも敵がいることや、内部の争いが下級兵士の命を奪っていくことなど、軍隊の「負の側面」がしっかりと描かれていることに驚かされます。


自分の「出世」のために、
味方に対しても情報を隠匿する司令官

 後述する実際の軍隊のケースと同様に、ガンダムにおける地球連邦軍も、それに対するジオン軍も、内部は決して一枚岩と言える状態ではありません。まず、ジオン軍側から見てみましょう。

 地球連邦からの独立を目指して宣戦を布告したジオン公国は、デギン・ザビ公王を頂点とするザビ家による独裁国家。軍では、ザビ家の子どもたちが重要な地位にあります。長男ギレンはジオン公国軍大将、次男ドズルは宇宙攻撃軍・宇宙要塞ソロモン司令官(中将)、三男ガルマは地球方面軍司令(大佐)、そして長女キシリアは突撃機動軍司令(少将)です。
 それぞれが重要な戦線等を受け持ち、地球連邦軍と相対しているわけですが、司令官である彼らの間には微妙な確執があり、そんな「上司」を持つ部下たちは、時には敵との戦いよりも味方の失点稼ぎに精を出します。

 宇宙を舞台に始まった戦争ですが、開戦から約1ヵ月後にジオン軍は地球へ侵攻。その大きな目的のひとつは、地球でしか採掘できない鉱物資源を奪取することにありました。現実の世界でも、資源獲得の争いが戦争の原因となっていることは、イラク戦争や太平洋戦争、そしてアフリカ諸国での内戦を例に挙げるまでもありません。
 ジオン軍も第一次地球降下作戦で、豊富な鉱物資源を誇る黒海沿岸を制圧。東欧最大の工業地帯でもあったこの地域を占領することで、地球連邦の30分の1の国力しかないジオン公国の戦争継続が可能になったとも言えます。

 この鉱物資源採掘基地の運営を任せられているのは、前記キシリアの突撃機動軍に所属するマ・クベ大佐ですが、彼の以下のセリフからも、ジオン軍内における確執の一端がよく分かります。

「とにかく、私の発掘した鉱山の実態を、ドズル中将に知られるのはまずい」(第16話)
「ランバ・ラル(大尉)は、このあたりの私の鉱山を知りすぎた。キシリア様がジオンを支配するときにこの鉱山は役立つ。実態はギレン様にも知らすわけにゆかんのだ」(第20話)

 人名が多数出てくるので分かりにくいかもしれませんが、二つのセリフに出てくるドズル、ランバ・ラル、キシリア、ギレンは、前記のとおりいずれもジオン軍の軍人です。マ・クベ大佐の直属の上司はキシリア少将で、ランバ・ラル大尉の上司はドズル中将。最後に名前の出たギレンは、そのキシリアとドズルの兄。少し乱暴に言えば、ジオン軍内にギレン派、ドズル派、キシリア派があり、マ・クベ大佐は自分の上司であるキシリア以外の者には、たとえ味方であっても鉱物資源に関する情報を教えたくないと言っているのです。

 しかも、地球連邦軍との戦いにジオン軍が勝利し、地球を征服したあとで、この鉱物資源を上司であるキシリアたちと独占しようという思惑からです。この頃、体制を立て直した地球連邦軍の反抗によって、ジオン軍は劣勢に陥りつつあるのですが、そんなときにもかかわらず、同じ軍内での立場にこだわっているわけです。
 言ってみれば、明日にも会社が倒産するかもしれないという状況なのに、将来会社が持ち直したときの社内での立場を考えて、会社再建に有効な情報を隠蔽しているようなものでしょうか。

『僕たちの好きなガンダム 永遠に残したい名場面100』(宝島社)というムックでは、このマ・クベについて「キシリアにへつらう姿は、美人上司にチョイ惚れしたサラリーマン的な印象」と書いてありますが、まさにそのとおり。例えば、資源集積基地での戦闘が不利になったとき、上司キシリアとの間で次のような会話が交わされます(18話)。

キシリア「これまでのようですね。機密保持のため基地を爆破しなさい」

マ・クベ「は、しかしあそこにはまだ兵士どもがおります」

キシリア「かまいません。何よりも国家機密が優先します」

マ・クベ「は、承知しました」

 マ・クベが戸惑ったのは、ほんの一瞬だけで、部下を見殺しにします。マ・クベの卑劣な振る舞いはこれだけに留まらず、さらに味方の兵士の命を犠牲にしていきます。

『別冊宝島 僕たちの好きなガンダム 永遠に残したい名場面100』
(宝島社) ガンダムの名場面や名台詞などを解説した本はたくさんありますが、2006年12月に発行された同書は、その名が示すとおり、全43話の中から100の名場面を抽出。セリフの裏側に隠されたエピソードや、見逃しがちな描写などについて、実に細かく適格に解説しています。 ←アマゾンにリンクしてます。


軍隊内部の抗争によって奪われていく
最前線の兵士の命

 主人公アムロが乗船する地球連邦軍の最新鋭艦「ホワイト・ベース(WB)」に対して、ジオン軍のランバ・ラル大尉の部隊が攻撃を仕掛けることになります。攻撃を前に同部隊には、ジオン軍の人型兵器「ドム」が3機補給されることになったと、上司ドズルからランバ・ラルに連絡が入るのですが、ここでもマ・クベ大佐が邪魔をします。第20話で、マ・クベと部下の間で次のような会話があります。

マ・クベ「……次の手は分かっているな」

部下「しかし……あの方(ドズル中将)の依頼を握りつぶしたこと…」

マ・クベ「心配ない、ランバ・ラルはそうは考えはせん(からドズル中将の依頼を握りつぶしたことはバレない)」

 ランバ・ラル隊へ人型兵器を補給するよう命令を受けたにもかかわらず、マ・クベはその命令を握りつぶしたわけですが、それもこれも、とにかく鉱物資源地域の情報を隠すため。結局、ランバ・ラル隊は、補給を受けることなくWBに突撃。戦力不足を補うため白兵戦に打って出るのですが、この戦闘でランバ・ラルをはじめとする多数の兵士が犠牲になります。

 その後、ランバ・ラル隊の残党は復讐のため再度WBに攻撃を試みようとするのですが、ここでもマ・クベ大佐が邪魔をします。21話では、ランバ・ラル隊残党の“上官”と部下の間でのこんなやりとりがあります。

上官「(マ・クベから補給物資として送られてきたのは)使い古した(人型兵器)ザクが1機と(主力戦車)マゼラアタックの砲塔が4門だけか」

部下「明らかにマ・クベ大佐は協力的ではありませんでした」

 結局、まともな補給を受けられなかったランバ・ラル隊の残党たちも、無残に死んでいきます。

 いかにも陰湿そうな風貌、人を小バカにしたその態度、そして前記のような行動などから、マ・クベは、おそらくガンダムという作品の中で一、二を争う嫌われキャラと思われます。『機動戦士ガンダム DVD-BOXセット』の解説書でも指摘されていますが、第36話には彼の人物像がよく分かるこんな場面があります。
 戦場から脱出したと思われる味方のロケットを助けることなく、見過ごそうとするマ・クベに対して、同僚がこう苦言を呈します。

「失礼だが、マ・クベ殿は宇宙の兵士の気持ちを分かっておられん。このようなとき仲間が救出してくれると信じるから、兵士たちは死と隣り合わせの宇宙でも戦えるのです」

 マ・クベという人物を見事に言い当てた台詞です。しかし、ここで注意しなくてはならないのは、戦場においては、このような人物が一人いることで、それが単なる個人の好き嫌いや性格の良し悪しのレベルを超えてしまうということ。そして、そのことで起きる軍内部の対立によって、多くの前線の兵士たちが犠牲になるということです。

 実際の戦争でも、派閥争い、出世競争、単なる人の好き嫌いなど軍内部の対立が原因で、末端の兵士たちの多数の命が奪われています。
 次回は、旧日本陸海軍の確執や、ガンダムで描かれる地球連邦軍内の争いなどをもとに、軍隊における内部対立について、さらに考えていきたいと思います。

(氷高優)  

連載を休んでいる間に政界でビッグニュースが続いたことは本文でも触れましたが、ガンダム関連でも今年一番のニュースがありました。ご存じのように、昨年、東京・お台場に現れた等身大ガンダムが今度はJR静岡駅近くの広場に復活したのです。ガンダムのプラモデル「ガンプラ」の発売30周年を記念したもので、ガンプラ工場がある縁の地・静岡で復活となりました。いずれ現地を訪れてリポートしたいと思います。

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