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40歳からの機動戦士ガンダム:バックナンバーへ

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40歳からの機動戦士ガンダム【第2回】「ガンダムは戦争の物語だ!」

 いやあ、それにしても驚きました、のりピー騒動の急展開……じゃなくて、前回より始まったこの連載への反応です。ご意見と共にガンプラプレゼントにも多数の応募をいただきました。「応募ゼロ」なんてこともあるかと思っていたので、うれしい誤算でしたね。もちろん、「ガンプラ」等のキーワード検索でマガジン9条に辿り着いた人もいるでしょうが、そういう方には「今後もマガ9をよろしくお願いします」と言っておきます。


物語に入る前に、まずは押さえておきたい
「スペース・コロニー」と「サイド」という概念

 さて、今回は、ガンダムの舞台設定や時代状況について、大まかに触れてみます。基本設定を正しく理解していただきたいため、以下、やや説明的な文章になりますが、お赦しを。

 ガンダムは全43話から成りますが、その前半部分の各話には、次のようなナレーションが冒頭に挿入されます。
「人類が、増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、すでに半世紀が過ぎていた。地球の周りの巨大な人工都市は人類の第二の故郷となり、人々はそこで子を生み、育て、そして死んでいった。宇宙世紀0079(ダブルオー・セブンティナイン)。地球から最も遠い宇宙都市『サイド3』はジオン公国を名乗り、地球連邦政府に独立戦争を挑んできた。この1ヶ月あまりの戦いで、ジオン公国と連邦軍は総人口の半分を死にいたらしめた。人々は自らの行為に恐怖した。戦争は膠着状態に入り、8ヶ月あまりが過ぎていた」

 何のことだかさっぱり分からない方が多数だと思いますが、「地球や宇宙を舞台にした戦争の物語」だということを認識していただければけっこうです。

 ガンダムの時代設定が、現在よりどれぐらい先の未来の話なのかはテレビ本編では触れられていませんが、仮に現在より100年ぐらい先としましょうか。その時代の地球上には国家はなく、地球連邦政府がこの星をおさめています。環境の悪化と人口の爆発的増加という難問を解決するために連邦政府は地球から宇宙への移民政策を開始。この時にそれまでの西暦をやめて、新たに「宇宙世紀」としました。

 宇宙で人々が暮らすのは円筒型の「スペース・コロニー」と呼ばれる空間です。私が参考資料として信頼し、いつでも見られるようにカバンの中と家のトイレにそれぞれ一冊ずつ用意している『総解説ガンダム事典』という本があります。原稿を書くにあたって、私はこの本を大いに参考にしていますが、同書ではスペース・コロニーについて「直径6・4km、全長30km以上の円筒を半球状の蓋で閉じた、巨大な圧力容器」と書いています。下のイラストは、大雑把にスペース・コロニーを書いたものですが、あくまでもイメージとして捉えてみてください。

 コロニー内には平地だけでなく山や川もあり、そこには人々が暮らす家があり、街には商店、学校、娯楽施設など何でもあります。コロニーの種類によって変わりますが、一つのコロニーに2000万〜5000万人が住めるということですから、大きなコロニーには東京・名古屋・大阪の3大都市圏の合計に匹敵する人口が住んでいると考えてもよいでしょう。

イラストは「開放型」と呼ばれるコロニーのイメージです。円筒の内壁を6等分して、「窓」と「居住区」を交互に配置。羽根のように見える部分の表面は数千枚の鏡で、この鏡の角度を変えることで、コロニー内に入ってくる光の量を調整し、昼夜や季節の変化を作りだすのだとか(『ガンダム事典』でのコロニーに関する解説を参照)。

 と、ここまで読んで、「ほらね、やっぱり子ども向けアニメだよな。スペース・コロニーなんて突飛なアイデアを出してさ」と思った方、いることでしょう。はい、私も最初はそう思いました。でも、このスペース・コロニーは、アメリカの物理学者が1960年代に提唱した構想なんですね。ここでは詳細には触れませんが、スペース・コロニーという設定が、子ども向けアニメならではの「何でもありの発想」から生まれたものではない、ということだけは知っておいてください。

 スペース・コロニーのイメージがだいたい固まったと思いますが、このコロニーが40〜80基集まって形成する固まりを「サイド」と言います。前述のコロニーの人口を当てはめますと、ひとつのサイドには10〜20億人の人口がいることになります。宇宙にはサイド1からサイド7まであり、それぞれのサイドは地球連邦政府の配下にあるのだけれど、一応自治権が与えられている——これがガンダムにおける舞台設定の基本構造です。

 地球には連邦政府があって、宇宙空間には移民たちが暮らすスペース・コロニーがあり、そのコロニーが集まって一つのサイドを構成する。乱暴な例えかもしれませんが、日本の本州とその周りにある島々との位置関係で考えると分かりやすいかもしれません。本州が地球であると仮定すると、例えば伊豆七島はひとつのサイドです。伊豆七島というサイドを構成するのは、大島、神津島、新島などのスペース・コロニー。伊豆七島(サイド)は日本政府(地球連邦政府)の配下にあるのだけれど、漁業や農業、貿易、さらには治安・警察権などに関しての自治権を、ある程度与えられている、そんな感じでしょうか。


「残った側」と「追い出された側」との間に
生まれる葛藤が戦争へとつながっていく。

 前記『ガンダム事典』によれば、この宇宙移民政策が開始されてから約半世紀後の段階で、宇宙に90億人、地球に20億人が住むようになりました。そして、0051年にはコロニーの新規建設が凍結され、移民政策も半ば中止されます。

 ここで、ふと思うのは、地球に残った人たちと宇宙に出された人たちとの間に、どんな感情や意識の差が芽生えるのかということです。本人の希望とは関係なしに宇宙へ移民として出された人も当然いるでしょう。その結果、地球に住む人と宇宙に住む人との関係がギクシャクし始めます。環境破壊と人口爆発、このふたつの問題を解決するためとはいえ、「あなたたちは地球から出ていきなさい」と言われれば誰だって気分はよくありません。ガンダム第3話では、宇宙船内での次のような男女の会話を描いたシーンがあります。

男「宇宙に出るのは初めてなんです」

女「エリートでいらしたのね」

 移民政策の目的自体は正しいものであったとしても、この段階では地球に残った人たちの多くはある種の特権階級であり、宇宙に住む人たちよりも「格上」とされていることが、この会話から分かります。

 さらに、地球連邦政府と各サイドとの関係が、実質的には宗主国と植民地のようなものであったことも、両者の関係悪化の大きな原因でした。
「各サイドは連邦政府を構成する自治体とされていたが、実質的な自治権はなく、事実上の植民地だった。連邦政府は様々な許認可権を盾に、各サイドとの不平等な交易を行っていた」(『ガンダム事典』より)

 その結果、前記ナレーションにあるように、移民政策開始から79年後の宇宙世紀0079年に、「ジオン公国」を名乗るサイド3が独立を求めて地球連邦政府に宣戦を布告。この「地球連邦軍vsジオン公国」という争いが、ガンダムの物語の軸になります。

 ガンダム以前の多くのいわゆる「ロボットアニメ」では、攻撃を仕掛けてくる側は絶対悪であり、絶対的な正義である主人公がその敵を退治するという構図でした(あくまでも私の記憶の範囲です)。ところが、ガンダムでは、敵側にも戦争を仕掛けてくる「それなりの理由」があることが大前提となっています。戦争という行為自体は、どんな理由であっても肯定できるものではありません。しかし、戦争を開始した側だけに100パーセント非があるのかといえば、必ずしもそうでない場合もある。それは過去の歴史を見ても明らかでしょう。

「味方か敵か」「正義か悪か」——そんな二元論に立っていないことも、それまでの「ロボットアニメ」とガンダムとの大きな違いと言えます。

 実は、テレビ本編では、コロニーやサイドの定義、それから戦争の原因となる地球連邦と各サイドの関係などについての解説は、けっこう大雑把です。前記ナレーションにあるように、戦争が始まってから8ヶ月も経った段階から第1話が始まります。戦争もすでに後半に入っています。今回、私が書いたことの一部も、解説本などを読んで初めて分かることもあります。

 ガンダムには、テレビ本編の放送終了後に、そのリアルさを補強するために考えられた論理や設定などもあり、一部では「後付け」ではないかという指摘もあるようです。でも、この連載が対象とするのは、「いい大人」になった今もガンダムを見ていないという人。せっかくこれからガンダムを見るのであれば、「後付け」の設定も含めて、時代状況や舞台設定についてある程度知ってから見たほうが、よりいっそう楽しめることは間違いありません。なので、私は、今回何度か本文中で取り上げた『ガンダム事典』をはじめとする解説本などを併せて読むことを断然お薦めします。

 さて、今週末私は、今夏最大のイベント「GUNDAM BIG EXPO」へと行ってきます。次週はその様子なども報告できればと思っております。

(氷高優)

総解説 ガンダム事典
編著者/皆川 ゆか
監修/サンライズ
発行/講談社
※ガンダムの舞台設定や登場する兵器などについて、適度に分かりやすく書かれてあり、初心者が基礎知識を学ぶにはうってつけの本です。
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先週の「ガンプラ」と「30周年記念パンフレット」の読者プレゼントには、たくさんのご応募をいただきました。ありがとうございました。当選者の発表は、発送をもってかえさせていただきます。

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