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2011-08-24up

〈マガジン9×グリーンピース〉コラボ企画:シリーズ「3.11以降を生きる」
山本太郎さん(俳優)×佐藤潤一さん(グリーンピース・ジャパン事務局長)
「自分らしく生きるために。自分の意思を示していこう」

山本太郎さんと佐藤潤一さん。共に1970年代生まれの二人は、海外経験も豊富です。佐藤さんは、アメリカ留学中に体当たりのフィールドワークを体験した後、国際NGOグリーンピースへ。山本さんはテレビ番組「ウルルン滞在記」のイメージが強いですが、プライベートでも時間ができると、海外の国々を訪れることも多いそう。そんなお二人に、日本で原発問題について発言することの困難さや、非暴力で異議申し立てをすることの受け止められ方、また政府や企業に与しない市民が支えるNGO団体の存在の重要性などについて、語っていただきました。

山本太郎(やまもとたろう)俳優。1974年生まれ。『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』の「ダンス甲子園」出場がきっかけとなり芸能界入り。その後テレビドラマや映画に俳優として数多く出演。舞台やバラエティ、トーク番組の司会を務めるなどマルチな才能を発揮して活躍中。2011年4月9日、ツイッター上で「脱原発宣言」をして話題に。その後、所属事務所を辞めフリーに。原発の危険性や日本の未来について、自らの言葉で発信を続けている。twitter はこちら→@yamamototaro0

佐藤 潤一(さとう じゅんいち) グリーンピース・ジャパン事務局長 1977年生まれ。アメリカのコロラド州フォート・ルイス大学在学中に、NGO「リザルツ」の活動に参加し、貧困問題に取り組む。また、メキシコ・チワワ州で1年間先住民族のタラウマラ人と生活をともにし、貧困問題と環境問題の関係を研究。帰国後の2001年、NGO「グリーンピース・ジャパン」のスタッフに。2010年より現職。twitter はこちら→@gpjSato

「本当のことを言う」人たちは嫌われる——山本

編集部  山本さんは「3.11」後、デモに参加されたり、「福島の子どもたちを守ろう」というキャンペーンに協力されたりと、「脱原発」を明言して活動されています。特に日本では、芸能人がそうした社会的な運動にコミットするケースは非常に少ないし、いろいろ大変なこともあるのでは、と思いますが。

山本  自分からブラックリストに載せてくれ、と手を挙げたようなものですからね(笑)。海外でも、チベットやダルフールの問題についてはいろいろと声を上げていた人たちが、こと原発の問題に関してはまったく口を閉ざしてるし。周りでも「頑張ってるなあ」と言ってくれる人はたくさんいますけど、一緒にデモに行ってくれるわけじゃないですしね。

 でも一方で、今は世の中がこういう状況だから、「何かがおかしい」と気づいている人、理解してくれて応援してくれる人もたくさんいるわけでしょう。その意味では今の僕は、ある意味ですごくラッキーな立場にいるという気がするんです。
 それに比べて、例えばグリーンピースは、以前から声をあげて色々な活動をされてきたわけでしょう。3.11以後は飯舘村の放射線量調査や海洋調査などの活躍が注目されて「どういう団体なのか」をある程度わかってもらえるようになったかもしれないけど、それまではすごく偏見もあったんじゃないかと。「本当のことを言う」人たちって嫌われるものですけど、グリーンピースもずっとその「本当のこと」を言い続けてきた存在なんじゃないかと思うんです。

佐藤  ありがとうございます。私たちだけではなく、原発に関しては以前から危険性を指摘してきた人がたくさんいました。そして以前は誰も彼らの言うことに耳を傾けなかった。それが3.11以降急に変わって「あなたたちのほうが正しかった」ということになったわけです。
 だから、事故が起きた後になって初めて社会が動いたという、本当に皮肉な状況が起きています。同時に、事故を未然に「予防する」ということがいかに重要かも改めて明らかになったと思います。その意味で、太郎さんのように一般の人々に影響力のある人が、一緒になって声をあげてくれるのはすごく嬉しいです。

編集部  山本さんが「脱原発」の声を上げたきっかけは何だったのでしょうか? ツイッターでの発信が最初だったように聞いていますが。

山本  自分の中にすごい怒りのようなものがこみ上げてきたんです。僕は8年ほど前からグリーンピースのサポーターですから、原発のリスクの高さや危うさについて警鐘を鳴らし続けていたことも知っていた。それなのに、やっぱり原発はアンタッチャブルだという意識があって——これは芸能界だからというんじゃなくて、どの世界でもきっと同じだと思うんです——自分自身が声をあげるのは無理だ、と何となく思いこんでいた。だから原発の絶対安全神話はおかしいな、と思っていたのに結局何もしてこなかった。そこに福島原発の事故が起こって…。すごく自分自身に失望したというか、ずっと危険を指摘し続けてくれていた人たちにとって申し訳ない気持ちになったんです。

編集部  山本さんがサポーターになられたのには、何かきっかけがあったのですか?

山本  きっかけは母親なんですよ。僕の母親は、昔からフィリピンの子どもたちの里親運動とか、いろいろなボランティア活動をやっている人で。小さいころから「自分で働いてお金を稼ぐようになったら、少しでもいいからそういう活動のサポートをしなさい」と言われて育ったんです。
 それで、大人になってから「環境問題に取り組んでいる団体は、人道支援の団体に比べて寄付が集まりにくい。この間、グリーンピースという国際NGOが主催する会に行って話を聞いてきたけどすごくよかった、骨のある人たちだ」ということをやはり母親から聞いて。じゃあ、ちょっと調べてみようかな、と思ってホームページを見に行ったんです。

 日本ではグリーンピースというと捕鯨反対のイメージだけが強いでしょう。メディアでも捕鯨問題関連の時しか名前が出てこないので、一般の人たちはどうしてもそれをそのまま受け取りますよね。でも、実際にHP上にある資料を見るだけでも、環境から食、人権、平和まで多岐にわたった活動をされている。これは本気だな、すごいなあと思いましたね。

成熟した市民社会では、非暴力による市民の抗議行動が意思表示として理解されている——佐藤

編集部  海外では日本とはまったく違うイメージですね。団体への信頼も厚いし、スタッフは英雄のような存在だとか。

山本  そうでしょうね。佐藤さん、最初はどうやってグリーンピースと出会ったんですか。

佐藤  アメリカの大学に留学していたときに、いずれはNGOで働きたいという思いがあって、ボランティア活動をいろいろしていたんです。グリーンピースもNGOの一つとして、存在はもちろん知っていました。
 それで、その大学時代に、教授に連れられてネバダ州のネイティブアメリカンの土地につくられた核実験場でのデモに参加したことがあったんです。みんなで砂漠でキャンプをしながら抗議の意思をパフォーマンスとして表明するんですけれども、これを見てとても新鮮だった。「核実験反対」の意味を込めて実験場に一歩入っていくのですが、警察の側にもそのような意思表示は重要だという意識があるから、対応がとても寛容なんですよ。そういう意思表示をした人が入るシェルターみたいなものがあるのですが、そこにはバスケットコートがあって、みんなそこで遊んでたり(笑)。

山本  日本ではちょっと考えられない(笑)。

佐藤  そのキャンプで、グリーンピースでボランティアをしていたという人が「非暴力直接行動のワークショップ」をやっていたんです。自分たちの意思を非暴力の形で表明する、そのためのきちんと系統立てたトレーニング。日本では聞いたことがなかったので、「そういうやり方があるんだ」と驚いて。思いつきで感情的に動くのではなく、緻密に作戦を立てて、安全性や、抗議する相手とのコミュニケーションを重視して行動する、それによって社会の注目を集める、という手法がすごいなと思って、いろいろ話を聞かせてもらいました。それが始まりですね。

山本  そういう抗議活動は、世界ではきちんと「意思表示」として一定の理解を得ているんですよね。

佐藤  そうなんです。これは、市民社会がちゃんと成り立っているからこそできることでしょう。昔は日本にもそういう面があったはずだと思うんですけど、今の日本社会は本当にがんじがらめで、少しでも道から外れたらもうダメみたいになっちゃっている。多様性を受け入れないというか、そのような傾向にとても違和感があって、グリーンピースで変えていきたいな、という思いはありましたね。

「市民がスポンサー」の団体の重要性を実感——山本

山本  以前、サポーター代表として「虹の戦士号」(グリーンピースの船の一つ)に乗ったことがあります。あの中の空気は独特でしたね。もちろん調査中ではないから、クルーもみんな普通にリラックスしている状況なんだけど、それでも一つの目標に向かってそれぞれの任務をこなして、いろんなことをクリアしていくんだ、というチームワークのようなものが見える気がしました。

佐藤  グリーンピースは企業スポンサーを持たない、市民からの寄付だけで運営されているNGOですが、「虹の戦士号」に乗っていただいたりすると、あれだけの船を市民のお金で維持しているということ、言い換えればNGOという役割がいかに重要だと思われているかということが、肌で感じていただけるのではないかと思います。
 市民がお金を出して運営するというのは難しいです。特に日本ではとても難しい。でも、今回の震災と原発事故の後に即座にグリーンピースが行動を起こせたというのは、やはり市民に支えられているからこそ。政府や企業の顔を見ながらでなければ動けないわけではありません。その重要性を改めて実感しました。

山本  大企業や政府にバックアップされている団体がどういうことになってしまうかというのは、今回テレビを見ていてもよくわかりましたよね。市民がスポンサーになってインディペンデントで活動する団体がある、その大事さが本当に身にしみました。

「お金の使い方で社会を変えられる」ことに気づこう——佐藤

佐藤  でもグリーンピースも今のところ、日本の支部だけで独立してはやっていけない状況です。本当は日本の市民によって支えられている団体、市民にバックアップされながら大企業や政府に対峙してものを言える団体があるべきですよね。

編集部  そういった団体に寄付をするという習慣や文化が、日本には根付いていませんからね。

佐藤  結局私たちは、お金は「消費するもの」に対して使うものだと思いこまされてきたのではないかと思います。そうではなくて、お金は消費のためだけにあるのではないということ、お金の使い方によって社会を変えられるんだということに気づくのは、とても重要なことだと思います。

編集部  ドイツでは5人に1人がNGOのサポーターだと聞いたことがあります。NGOをサポートする、寄付することが市民生活の基盤になっているんですね。

山本  そういえばこの間、佐賀での脱原発デモに参加してきたとき、赤ちゃんを抱いた僕と同い年くらいの人が近寄ってきて、ティッシュの包みを渡そうとするんですよ。見たら中身はお金なんです。「これカンパです」って。さすがに受け取れなくて「いやいや、それは皆さんの活動に!!」って辞退しましたけど(笑)、気持ちはすごく嬉しかったですね。

佐藤  そういう意味では、太郎さんのような発言をする人を市民が支える。寄付だけじゃなくて、「応援しています」というメッセージを出すだけでもとても意味がありますよね。

山本  よく「陰ながら応援しています」と言われますが「陰ながら」じゃなくていいやん、出ておいでや、と思います(笑)。

佐藤  今までの日本は、「出る杭は打たれる」社会だったと思います。これからは、それぞれが自分の意見を堂々と主張する、それが当たり前の社会にしていきたいですよね。いろんな人がいるから多様性が生まれてきて、そこで初めて社会のバランスも保たれると思います。

「頼れる」市民団体をみんなで支えたい——山本

編集部  山本さんは先日までお仕事でインドネシアに行かれてたんですよね?

山本  イリアンジャヤのジャングルに入ってました。もちろん携帯もネットもつながらない場所です。

佐藤  イリアンジャヤですか。グリーンピースもあの地域の熱帯雨林で違法伐採をなくすための活動を続けているんですよ。光が当たると見える透明な塗料を木に塗って、それが切り出されてどこの港に持っていかれるのか、追跡したこともあります。いろいろな調査を行ってきましたが、最終的に製品化された木材が日本に入ってきていたこともありました。

山本  そうなんですか! 本当に世界の隅々まで目を光らせているのですね(笑)。

編集部  では最後に。サポーターでもある山本さんから今後のグリーンピースの活動に期待することはありますか?

山本  うーん、期待ですか…。今まで、さんざんな目に遭いながらもここまで来ているんだから、グリーンピースがここから先、変わったりくじけたりすることはきっとないと思うんです。だから変わらず活動を続けていってほしい、というだけですね。
 で、今、脱原発の声が高まっていますが、この先変えていかないといけないことは山ほどあるし、そのためにはやっぱりグリーンピースみたいに経験豊かな団体とつながって声を上げていく必要があると思うんです。そのためにも、グリーンピースに対して偏見とか誤解を持っている人は、まず佐藤さんたちが何をしてきたのか、どんな結果を出してきたのかを見てみてほしい。そして寄付も含めた形で支えていってほしいなと思います。
 これだけいろんな情報を提供してくれる、頼れる市民団体ってほかになかなかないですよ。だから、その「骨のある」団体を、もっとみんなで応援できるといいな、と思うんです。

佐藤  ありがとうございます。そう言っていただけるととても嬉しいです。太郎さんも、頑張ってください——ではなくて、ぜひ一緒に頑張りましょう!

グリンピースへの支援のお願い。

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