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2012-04-18up

「マガ9学校 第16回」

2012年3月24日(土)14:30〜17:00
@カタログハウス本社地下2階セミナーホール

原発とグリーンとお金のはなしをしよう

講師 いとうせいこうさん(クリエイター)×吉原毅さん(城南信用金庫理事長)

原発の存廃を巡る議論は、たいてい安全性と経済性が対立したまま話がかみ合いません。そこから先に進むには、私たち一人ひとりが「お金の価値」を問い直す必要があるのではないでしょうか。3.11からほどなくして脱原発を宣言した城南信用金庫理事長の吉原毅さんは、その後も講演活動等を通じて発言を続けています。一方で、いとうせいこうさんは、新しい豊かさを考える緩やかなネットワーク『グリーンアクティブ』発起人の一人。お金と豊かさの関係はどうあるべきか。じっくり語っていただきました。ここでは、その一部を報告します。

いとうせいこう● 1961年東京生まれ。早稲田大学法学部卒業後、講談社に勤務。雑誌『ホットドッグ・プレス』編集部に在籍、2年あまりで退社し、現在は作家・クリエイターとして、活字・映像・舞台・音楽・ニューメディアなどジャンルを越えた幅広い表現活動を行っている。 先日立ち上げ発表をした「グリーンアクティブ」(代表:中沢新一)発起人の一人。

吉原 毅●よしわら つよし 1955年東京生まれ。77年慶応大学経済学部卒業。同年城南信用金庫へ。92年理事・企画部長、96年常務理事、2006年副理事長を経て、昨年11月より現職。自らの年収を支店長(1200万円)以下に抑え、理事長・会長任期を最長4年、停年を60歳とする異色の改革を断行。信金業界きっての論客である。

経済自由化で企業が発言しにくくなった

いとう 城南信金(本店・品川区)が早い段階で脱原発のメッセージを出したことに勇気付けられました。経済界のなかから、こういう声が挙がることは画期的です。ただ、僕は台東区に住んでいるので、なかなか城南には縁がない。朝日信用金庫でもいいと聞いたことがあるのですが、どういうことでしょう?

吉原 信用金庫は全国に271あり、各地域を守る金融機関です。私どもの前身は町役場の一角に作られた町の金融部門。町長が町の人たちのために作った金融機関です。東京は都市化が進んで“地域”という感じが薄れていますが、三多摩地区の多摩信金、中野区の西武信金、台東区の朝日信金など、都内にも20以上の信金があります。

いとう でも、朝日信金が「原発やめます」とはいわないですよね?

吉原 金融業界の集まりに行くと、「いいことやってるね」と声を掛けてくれる方は多いですよ。メガバンクの経営者だったOBの方々にも「今回の事件はとんでもない」と思っている人はけっこういます。ただ、立場上、意見を言いにくい状況があります。どこの金融機関も、保険会社や銀行、メーカーなどが株を持ち合っています。おそらく東京電力も含まれるでしょう。経済自由化に伴って株主資本主義が表に出て、企業は発言しにくくなっています。

いとう 主(あるじ)なきシステムというのか、見かけ上の利益追求のために、長いスパンで見た社会の利益を考えられなくなっていますね。

吉原 そうですね。アダム・スミスは『諸国民の富』のなかで、「株主の利潤を追求する株式会社は、国家社会にとって望ましくない」とはっきり書いています。企業が健全であるか、また良識ある経営に努めているかが問われなくなると。むしろ、経営者が理念、ビジョン、主体性を考えていける合資会社のほうが好ましいとしています。この問題は、株式会社のスタート時点から常に言われてきたことなんです。

常に良識をもってお金をコントロールする

吉原 お金って、エゴイズムの象徴なんですよ。新自由主義が出て来て以来、何が正義かを考えず、マーケットが正義になった。物神化された“市場”を神とする宗教のような社会になってしまい、みんなが経済的な豊かさを最優先するようになりました。今回の事故は、その結果だと思います。

いとう それを金融機関の吉原さんが言っていることが面白いですよ。

吉原 我々はプロですから、常にお金の危険性を意識して仕事しています。3代目理事長の小原鐡五郎は「お金は麻薬」だと教えてくれました。お金は人を暴走させることがある。だから金融機関は幅広い価値観や良心を持って、絶えずお金をコントロールしていかなければならないと。しかし、金融自由化になってからは儲かる銀行が素晴らしいとなり、企業の価値観や哲学を全否定する世の中になりました。

いとう 誤りである社会主義も共産主義も終わって、資本主義がベストという言論の流れになった。ただ、世の中のすべてがそうなると、外部がなくなるというか、“鏡がない世界”になる気がします。

吉原 本来、自由主義は保守主義とか反合理主義とかに批判されながら、ようやくバランスを保っていた危ない思想だったんですよね。戦後、日本は過去のイデオロギーを全て切って、欲望の自由主義だけになってしまった。結果、家庭はバラバラ、会社は成果主義でいじめがはびこる。政治も原発を止められない。みんながお金を一番大事と思っている以上、原発は止まらないと思います。

中央集権型と分散型社会のせめぎあい

いとう 最近の世論調査では7割が原発に反対しているから、権力も手を出しにくいでしょうけれど、我々が飽きたら必ずもう一回来ますよね。今、中央集権と分散型社会のせめぎあいにあると思います。ドイツはいち早く新しい分散型にシフトしました。日本でも、分散型のエネルギーや金融のモデルが必要になるのではないでしょうか?

吉原 道路やダムといった公共性のある事業は中央がやるべきですが、エネルギー問題は分散化できます。太陽光や小水力、小火力、コジェネなどは分散化して、公共性と競争性を組み合わせながら最適なものを選べる仕組みがいいと思います。私どもは、エネルギーの自立化につながる設備を導入した方には金利0%の「節電プレミアムローン」と、金利を1%に引き上げた「節電プレミアム預金」を提供しています。民間版の補助金のような支援ですね。この事業だけで見れば赤字ですが、件数を限定してスタートしました。

いとう え、あれは赤字なんですか。商品として売れて、城南信金が潤えばいいと思っていましたが。

吉原 儲けのためというよりは、「みんなで再生可能エネルギーに関心を持てば世の中が変わるんじゃないか」と訴え、賛同いただきたい思いで始めました。今、企業経営者や企業で働く人々は世の中から不当に貶められている気がします。市民団体の方々に「所詮、企業は金儲けだろう」と言われるのは、非常にプライドの許さないことです。本来、会社は仕事を通じて社会貢献するためにあります。それを、ほかの企業にも思い出して欲しい。

いとう 会社員がプライドもって仕事できなくなることは、社会にとって大変な損失です。働きがいがない状態が続くと、社会的に無気力になります。でも、経済界から吉原さんの新しい理念への賛同がどんどん出てくるとか、経済とは違う豊かさに向かおうとするのは絶望的でしょうか。

吉原 そんなことないですよ。この3月、中小企業の経営者による「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」が発足しました。小田原のかまぼこメーカー『鈴廣』を中心に、各地の中小企業経営者が400人以上参加しています。脱原発のために、各地方で再生可能エネルギーのアイデアを出していこうと宣言しました。アダム・スミスが「株式会社より合資会社のような中小企業」といった通りになっています。

いとう 日本の社会は、立身出世のモデルケースに鼓舞されて、持ち上がってきました。でも、80年代くらいにはゴールのテープを切っちゃった。出世の欲望がなくなって、お金という価値観だけが空回りするようになりました。イギリスやドイツのように質実剛健というか、栄光ある衰退というか、経済成長とは違う価値観を切り替えないといけない。経済界は原発再稼動しないと国内産業がダメになるといっているけど、もともと原発がフル稼働しても日本は不況だった。それは、日本が歴史的にその段階に到達したからで、原発を動かしてもまったく変わらないと思います。

言葉を取り戻して、中間組織を作り直す

吉原 2012年は国連が定めた協同組合年なんですよ。08年のリーマンショックを機に「グローバル主義は世の中のためになっていないのでは」と議論が起こり、協同組合に期待を込めて頑張ってもらおうと決議しました。協同組合は、世界で10億の人が働いている大きなセクターです。みんな理念に基づいて、お金ではなく人を大切にする企業経営が、経済社会の健全な発展につながるんだとやっています。

いとう 小さな規模のソサエティがネットワークすることで、大規模なソサエティをいつも揺り動かすモデルケースになると思う。共同組合のモデルは社会の中間組織になりますよね。

吉原 ヘーゲルが言っているように、中間組織がないと近代国家はもちません。近代個人主義は、自立した個人を前提とした社会ですが、子どもやお年寄り、ハンディキャップある人はすごく住みにくい。人間はすべてが完璧じゃないから、コミュニティが存在しないと社会が成り立たない。

いとう 近頃は家族も分裂しているけど、ムラ社会の相互扶助も言ってみれば中間組織だったわけですね。失われていく中間組織を常に共同組合のかたちで作り直すってことがないといけない。でも、吉原さんはすでに信金だからいいけれど、僕らはどうやっていけばいいのでしょう?

吉原 言論を取り戻して、物神主義的宗教を払拭することではないでしょうか。家庭でも、「いうこときかないと小遣いやんない」とかお金のつながりが強調されていますよね。会社も成果主義で、よく仕事をした人に金をやる。エサによる支配です。でも、それじゃ「自分で稼ぐから出て行くわ」となる。お金でつなぐことを言葉から消していかなければなりません。お金云々ではなく、「あなたは私の子どもだ」「仲間だ」という言葉を取り戻すことです。かつての日本的経営はそうでした。世の中のために仲間として一緒にやろうとする気持ちがあってはじめて仕事が生まれ、デフレが解消されると思います。

お金をメッセージ手段として使おう

いとう お金以外の価値を、たくさん見出していくのが大事ですね。原始共産制に戻るわけではなく、「お金は切り札として使うとものすごくいい」ということです。城南信金が脱原発といったとき、ここにお金を集めなきゃだめだと思いました。ほかの企業にも「うちも脱原発って言ってみようかな」と思わせられることって大事じゃないですか。

吉原 お金をメッセージ手段として使おうってことですね。お金は良識をもって使うことで、生きてきます。お金をお金としてではなく、思いのこもった、心をつなぐメディアに変換して使うことが、人間がお金を使いこなすということです。

いとう お金をマネーとしての価値だけで使うと、守銭奴になる。お金は使うためにあるのに、なんだか持っているだけで幸せみたいに。でも実はマネーがファッション性、友情、ダイナミズム、社会性など別の価値を取り戻すと、お金を使うことで社会参加できるようになりますよ。で、もう一回、初めに言ったことを繰り返しますが、僕は朝日信金でいいんですか?

吉原 大丈夫です(笑)。信金はみんな地元を活性化するためにやっていますので。

いとう 信金にお金を預けるのって、大きな消費者運動になり得ると思うんですよ。メガバンクは電力会社に対して、再稼動が融資の条件だなんていっている。なんでそんなところにお金を預けていなきゃならないのと。

吉原 再稼働を条件に融資をするというのは、銀行がそこまでいっていいのかな、と思いますね。もし私が個人なら、「そういう考えはどうも賛成できない。お宅の頭取にいっておいてね」と銀行の窓口でいいますね。言葉の力は相当効くと思います。

いとう 大手からごっそり預金が引き上げられて、どうも信金が盛り上がってると報道されて全国に広がっていくと、お金の善の面を呼び起こすことになります。ところで、信金はネットバンキングもできるんですか?

吉原 できます(笑)。

いとう こまかくてすみません。残高照会は?

吉原 今は便利なんですよ。コンビニや駅のATMもつながっていますから、引き落としや残高照会はどこでもできます。

いとう なーんだ。じゃあ、信金にしましょうよ。そのことで社会の価値観に関われるんですから。吉原さんは言わないけれど、僕からのメッセージの変化として「信金に変えましょう」と言っておきます(笑)。

●アンケートに書いてくださった感想の一部を掲載いたします。(敬称略)

非常に興味深い内容でした。重くなりがちなテーマなのに、とても楽しい。いとうさんのトーク、豊かな教養のなせる技だと思いました。新たな運動の胎動を感じます。(不破剛裕)

たくさん、分かりやすく話してもらえてよかったです。ネット情報でしか知らなかった吉原さんが、それ以上にとても熱い想いを持った方なのだなということが分かり良かったです。私も信金に替えたいです。(匿名希望)

とても熱いパッションを持って「お金の活かし方」について語って下さった吉原さんに圧倒されました。今回は参加できて本当によかったと思います。(八木良広)

大変に熱く、胸に迫るお話でした。吉原さんはさまざまな思想を引きつつお話しくださり、思いも伝わりました。かねてから、こんな日本にしてきた、こんな世界にしてきた「おっさん」たちへの怒りを持っていました。こういった大人がいることを知り、本当に力づけられました。(鈴木菜穂子)

ゆっくりじっくりお話が聞けてよかったです。お金に振り回されがちですが、逆にそれを「切り札」にする、コミュニケーション法としてとらえるというお話は刺激的でした。(川本博美)

吉原氏の企業人(金融人)としてのプライドを感じ取りました。「お金はメッセージの手段、価値」。エゴイズムでないお金の利用の仕方を考え、広めていかなくては。いとうせいこうさんの「(震災で)あんなにひどい目に遭った人たちもいるのに、なぜ今自分は笑っていられるんだろう」という言葉にもまったく同感でした。(匿名希望)

とても力強いお言葉に、自分のお金の使い方、生活の仕方を考えるよい機会になりました。とてもしっくり来ました。(森岡満)

原発問題は行き着くところ「お金」になるので、吉原さんのお話はとても貴重でした。すばらしい時間でした。(匿名希望)

自分が去年3月から今まで思い感じて来たことをわかりやすい言葉で語っていただけたので、「そうそう!」と何度も何度も頷きました。いとうせいこうさんのお話もとても共感できました。(匿名希望)

いとうさんがおっしゃった「メガバンクから信金に口座を移す」という「グリーンなプラン」、さっそく実行したいと思いました。こういう手があったのか。なんかうれしくて明るい気分になりました。自分のささやかな反原発行動です。(匿名希望)

時間が短く感じられたほど密度の濃い内容で、面白かったです。いとうさんが聞き役に徹してうまくお話を聞き出していらっしゃいました。こんな経営者ばかりだと日本経済はもっともっとよくなるのにと思いました。(松平敦子)

今日ここに参加することが、「何かをする」きっかけになりました。(匿名希望)

反原発の意思表示として何ができるのか、いつも考えていました。なーんだ、銀行替えて、窓口で原発にお金が流れるのが嫌だよ! と話すだけでもかなりのダメージを与えられるんだーと、目からうろこです! やります。城南信金に替えます。(匿名希望)

「お金は何らかのメッセージを込めて使うべき」という言葉、一生忘れないようにします。(匿名希望)

自分のお金という小さなパイでも、自分の意思で動かすことが大きな波の一滴になること、ダイレクトな政治行動意外にも、自分の意思を伝えるためにできることは多い(今日の内容を友人に伝える、手紙を書く)ということがわかって元気が出ました。(倉上良子)

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