マガジン9

憲法と社会問題を考えるオピニオンウェブマガジン。

「マガジン9」トップページへ「ちょっと吼えてみました」:バックナンバーへ

2010-09-01up

B級記者どん・わんたろうが「ちょっと吼えてみました」

【第15回】

マスコミは菅首相の応援団?

 「菅さん(首相)の表情に生気がないんですよ」

 知り合いの政治部記者からこう聞いたのは、つい1カ月ほど前だった。参院選で敗北を喫してからのことらしい。福田、安倍の元首相が辞める直前と何やら共通点を感じるとかで、「ひょっとすると、ひょっとするかも…」とも話していた。

 読売新聞の8月22日付朝刊でも、政治部次長が「国の指導者が覇気を欠いていては、国民も元気が出ない」「円高、成長鈍化と、日本をとりまく状況は厳しさを増している。いつまでも覇気がないようだと、首相としての資質が疑われる」と菅首相を叱責している。首相の「生気のなさ」は、政治部記者の共通認識なのか。

 と思っていたら、菅さんとやら、「3年間は解散しない」と、またおかしなことを言い出した。次は衆参同日選挙だそうである。じゃあ、何かい。例えばこれから3年間、得意の消費増税をはじめ国民生活の根幹にかかわるような事態が問われても、国民なんかには審判を仰がない、ということですかい? なんでもかんでも、自分と国会議員が勝手に決めますか?

 この人、本質的に独裁者志向なのだろう。3年間、自分が首相の地位にいられるかどうかも分からないのに、なんとも国民をバカにした話だ。元気がないように振る舞っているのは、権力にしがみつくために同情を買う作戦なのかもしれない。

 で、そのアホな発言の端緒となった民主党の代表選挙である。まあ、誰がなってもそんなに変わり映えはしないとは思うけれど、選挙なんだから、ルールに則って、粛々と、正々堂々とやればいい。誰が出たっていい。小沢一郎さんが自らの疑惑に説明責任を果たしていないのは確かだけれど、良い機会だから、きちんと政策論争をして、今後の方向を国民に示してほしい。「多少の混乱も、新しい『国のかたち』を実現する契機になるのなら、やむを得まい」という東京新聞社説(8月27日付)に共感していた。

 と思っていたら、わけの分からない密室協議の連続である。この原稿も慌てて書き直しだよ。「挙党態勢の構築のための調整」って、要は選挙=民主主義の否定でしょ。民主党って、いったい何なんだろう。自民党と何も変わらないじゃん…。

 そもそも、私が小沢さんの出馬に反発する気になれないのは、菅さんが期待はずれだったからだ。やるべきことをやる前から消費増税に意欲を燃やす一方で、沖縄の基地問題にはハナから見向きもしない。挙げ句の果ての、国民を無視した「解散しない発言」。市民派出身を標榜するくせに、肝心の「庶民」を見ていない。これじゃあ自民党政権と何も違わないじゃん。

 なのに、一部新聞の論調はなんだろう。小沢さんが立候補の意向を示した時も、持ち出すのは「政治とカネ」ばかり。朝日新聞に至っては、社説(8月27日付)のタイトルが「あいた口がふさがらない」だと。さすがに、感情的に過ぎたと反省したのか、翌日に「政策を競うのでなければ」と題した社説を載せているが、消費増税が「理にかなった主張」で「もはや封印する理由はない」と、菅さんにエールを送る内容である。

 「調整」が不調に終わった9月1日付の朝日社説は「菅氏は、仲介者から人事面での配慮を求められたが、『国民から見えないところで決めるのはおかしい』と考え、応じなかったと説明した。菅氏の対応は当然である」と書いていた。だけど、「脱小沢」をうたっていた首相が、選挙の直前に当の小沢さんと密室で会えば、何らかの取引があったと疑われても仕方あるまい。誤解を招く行動をとった時点で、首相失格だと思う。この新聞、やっぱり菅さんに甘い。

 先日聞いた、石坂悦男・法政大教授(マスコミュニケーション)の講演を思いおこす。菅政権成立後のマスコミの対応について、消費増税の「宣伝機関」と化していること、普天間基地移設では沖縄よりも日米関係を重視していることを挙げ、参院選敗北後に「辞任不要」をうたった世論調査の記事を大きく掲載することなどを通じて「菅首相の続投を支持している」と分析していた。

 その結果、「アメリカ、財界、官僚、大手マスメディアの密接な連携が顕著になっている」との指摘は、極めて深刻である。石坂さんは「メディアは菅政権の監視・批判ではなく、むしろ政権に今後の進み方を提示し、一般(の国民)も誘導している」と警鐘を鳴らしていた。

 朝日新聞をはじめ多くのマスコミは、消費増税にもろ手をあげて賛成し、普天間基地の辺野古移設を後押ししてきた。「政策」が一致する菅さんが首相でいてくれた方が都合が良いのだ。消費増税に慎重で、辺野古移設も見直そうとしている小沢さんに、首相になってもらっては困るのだ。おまけに、小沢さん、番記者にさえ時候のあいさつ程度の会話すら滅多に交わさないらしいから、ネタも取れなくなっちゃうしね。

 市民を向いていないのは、菅さんだけではない。「あいた口がふさがらない」とは、マスコミに向けられた言葉である。代表選挙が実施されるとはいえ、今後も混迷が続くであろう民主党政権に対し、どんなスタンスで報道がなされるのか。私たちが内容を吟味し、メディアを選別していくしかないんだろうなぁ。

←前へ次へ→

大手新聞の視点が、どうも偏向しているように感じる今日このごろです。
「国民の9割は小沢首相に反対」って、ほんとかな〜と。
大手マスメディアに、公平で中立な報道って、もう望めないのでしょうか?

ご意見・ご感想をお寄せください。

googleサイト内検索
カスタム検索
どん・わんたろうさんプロフィール

どん・わんたろう約20年間、現場一筋で幅広いジャンルを地道に取材し、「B級記者」を自認する。
派手なスクープや社内の出世には縁がないが、どんな原稿にも、きっちり気持ちを込めるのを身上にしている。関心のあるテーマは、憲法を中心に、基地問題や地方自治、冤罪など。
「犬になること」にあこがれ、ペンネームは仲良しだった犬の名にちなむ。「しごと」募集中。

B級記者どん・わんたろうが
「ちょっと吼えてみました」
最新10title

バックナンバー一覧へ→