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2010-06-16up

B級記者どん・わんたろうが「ちょっと吼えてみました」

【第6回】

「2人区」考〜参院選を前に

 「てんやわんやの状況になっています」

 静岡県の選挙情勢に詳しい労組関係者から、こんなメールを受け取った。民主党が小沢前幹事長の主導で、参院選の静岡選挙区(改選2)に2人を擁立すると決めたことをめぐって、である。

 2人擁立に反発した連合静岡の会長が、小沢氏の幹事長辞任を条件に出し、それに対して、連合本部の会長が小沢氏に詫びを入れる、という経緯がクローズアップされた。民主党静岡県連は2人のうち「現職」で一本化する方針で、連合静岡も「新人」を応援する国会議員や県議がいたら「次の選挙で推薦しない」と圧力をかける事態にまでなっているらしい。

 静岡県の民主党関係者が2人擁立に否定的なのには、わけがある。6年前(2004年)の参院選で、民主から2人が立候補した。自民党も2人を立て、全国でも屈指の熾烈な選挙戦が展開された。結果は、自民1、民主1の当選。「くたびれもうけで、組織はガタガタ。結局、何のプラスにもならなかった」。そんな思いを引きずっているのだ。

 支持基盤が十分に整っているとは言い難い民主党の地方組織にしてみれば、2人を立てて共倒れになることだけは避けたい。それに、知事、県議をはじめ、市町村の首長や議員の選挙にも取り組まなければならないから、国政選挙でしこりを残したくないのが本音だ。懲りたのは静岡の自民党も一緒で、その次の07年の参院選では12年ぶりに候補を1人に絞る。当然のごとく、民主も1人。一転、「無風区」になった。

 静岡だけではない。全国に12ある2人区のうち、前回、自民と民主がともに1人しか公認・推薦候補を立てなかった選挙区が10あった。しかも、結果は、12選挙区すべてで自民1、民主1の当選。前々回は2人区が15あったが、やはり自民、民主が2人独占した選挙区はなかった。二大政党制が定着すればするほど、この傾向は進むとみられていた。

 一方で、2人区が二大政党の「安全区」と化せば、例えば民主候補に投票しても、自民候補も一緒に当選してしまう。「投票には、意中の候補を当選させるとともに、嫌な候補を落選させる目的もあるから、これでは有権者の選択が意味を持たなくなり、選挙区によって不公平になる」。こう指摘し、「2人区不要論」を唱える政治学者もいる。「投票結果が予測できるので、政治離れを加速する要因になる」との見方は的を射ている。

 だから、小沢氏の手法への賛否はともかくとして、民主党の2人区への2人擁立は、問題提起として大きな意味を持っている。マスコミは「小沢vs.反小沢」のコップの中で騒ぐばかりで、掘り下げようともしていないが。

 今回、12の2人区のうち、民主党は10選挙区で公認候補を2人立てる(読売新聞・6月11日付朝刊)。残る2選挙区も、片方は民主の公認と推薦が1人ずつ、もう片方は民主と社民が選挙協力で1人ずつなので、民主はすべての2人区で2人を擁立する、と言っていい。ちなみに、自民党は全2人区で公認1人、という体たらく。

 もし今回、2人区で民主の議席独占が相次ぐなら、次回以降の各党の取り組みが変わり、2人区に新たな政治的意義が生まれるかもしれない。逆に、今回も自民と民主が議席を分け合うようだと、「2人区不要論」と真剣に向き合わなければならないだろう。2人区の代案としては、参院の選挙区を全国単位の比例区だけにすることや、複数の都道府県にまたがる10人前後のブロック選挙区制を採り入れることなどが挙げられるそうだ。

 2人区をどうしたら良いか。投票の意味や効果、参院の独自性、投票価値の平等といった幅広い観点から、私たち有権者が今回の参院選で考えるべき重要なテーマである。

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7月11日投開票が確実ともされる参院選。
政局をめぐる報道ばかりが目立ちますが、
その他にも考えるべきこと、
見据えておくべきことはいろいろありそう。
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どん・わんたろうさんプロフィール

どん・わんたろう約20年間、現場一筋で幅広いジャンルを地道に取材し、「B級記者」を自認する。
派手なスクープや社内の出世には縁がないが、どんな原稿にも、きっちり気持ちを込めるのを身上にしている。関心のあるテーマは、憲法を中心に、基地問題や地方自治、冤罪など。
「犬になること」にあこがれ、ペンネームは仲良しだった犬の名にちなむ。「しごと」募集中。

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