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デスク日誌(17)

070829up

深夜の電話

 大騒ぎの内閣改造劇場が、幕を閉じました。続いて、それ以上の大騒ぎ、爆笑国会ショーがもうじき開幕します。などと、少しふざけたくなるほどの、淋しいドタバタでした。

 この内閣改造とは、一体なんだったのでしょうか。改造当日の深夜、知人のジャーナリストと電話で話しました。この間、ずっと日本の政治状況を見続けてきたベテラン記者です。

 以下、そのジャーナリストと私の電話での、主なやりとりです。

人心は一新したか?

いやはや。なんだか妙な感じの残る改造劇だったよね。

ジャーナリスト(以下J)そう、虚しい気分だけが残った。

安倍さん、しきりに「人心一新」と言っていたけど、それは、今回できたのかな?

jそれはムリ。だって本来、一新されるべきは安倍首相本人だったんだから、自分が居残っちゃ、「人心一新」どころか「旧態依然」だよね。

安倍さんは「反省すべきは反省し」と言っていたけど。

j しかしね、午後9時からの安倍首相の記者会見の冒頭が「美しい国作り、新しい国づくり、改革を再スタートさせるため、内閣を改造、党の新執行部を作りました」だったんだよ。これまでの路線をそのまま推し進めます、と言ってるってことでしょ。まるで、反省していない。国民があれだけ、そんなことよりも、日々の暮らしにもっと目を向けた政策をやってくれ、という意志を、参院選で示したにもかかわらず、あの人の本質はなんら変わっていないことがはっきりした会見だった。

それは、例の「戦後レジームからの脱却」路線を、捨ててないってことなの?

j今回の改造についてのメディアの論調は、首相も反省して、いわゆる復古的な安倍色がかなり薄れている、というニュアンスが多いけど、ぼくはそうは思わないな。はっきりと、「美しい国作りをこれからも推進する」と言明しているわけだからね。安倍首相の本心は、まるで変わっていない。これからも、機会さえあれば、「戦後レジーム」を否定するような方向へ行くことは間違いないはずだよ。

やっぱりそうか。でも、いわゆる「お友達内閣」からは少し脱却できたような布陣だ、という評価もあるようだけど。

jそれはそうとう表面的な見方だね。まず、自民党の役員人事を見るといい。今度は「お友達役員」にシフトしたってことだと思う。

確かに、麻生太郎幹事長や石原伸晃政務調査会長なんかは、立派なお友達だ。

jすでに石原政調会長の就任については、党内から批判も出ているよ。参院選での東京選挙区の失敗の責任は石原氏にあるわけだからね。でもね、これからのキイになるのは麻生幹事長だね。

なぜ?

j安倍晋三「戦後レジーム脱却路線」を、最もよく理解してくれているのは、考え方が極めて近い麻生太郎氏だからね。その麻生氏を、党内ナンバー2の地位につけたのは、どうあっても「戦後体制打破」という路線は変えないという、安倍首相の強いメッセージだと思う。

そんなに麻生さんと安倍さんは近いの?

j麻生氏はかなり年上だけど、ほんとうの盟友といっていいんじゃないかな。なにしろ麻生さんて人は、前の小泉首相から外務大臣に指名されたとき、「オレみたいな右翼でもいいのかな?」と言ったと伝えられるくらいの人物だからね。安倍さんと同じような、かなり右寄りの考え方の持ち主であることは、間違いない。

それだったら、中川昭一前政調会長も同じお仲間だったんじゃないの。なぜ、中川さんは残さなかったわけ?

j中川氏も残すということになれば、またも「お友達」批判が避けられないと判断したんだろうね。しかも、参院選投票日の夕方、惨敗がまだ明らかになる前に、早くも「何があっても首相を続投すべき」と安倍氏に伝えたのが麻生氏。これで盟友関係は一層強固になったとされているんだ。そんなこともあって「もし自分が退陣しなければならなくなったときに後を託すのは、同じ考え方の麻生氏」と、安倍氏は決めたと言われている。

じゃあやはり、ネオコン改憲路線は変わらないわけ?

jそれこそが、安倍首相のたった一つの拠り所だから、何があったって変わりはしないよ。

「ダブルA」 という仲間

幹事長ってナンバー2って言うけど、そんなに強大な権力を持てる地位なの?

jそれは凄いよ。だって、首相が内閣や国会で忙殺されている間は、実質的な自民党のトップなわけだから。それに、とにかく自民党の金をすべて握ることになる。

そうか、金を握れば強いな。

j自民党の年間予算は、300億円以上とも言われている。しかし、これは詳細は分からない。そのうちのどのくらいの金を、自民党の幹事長が自由に動かすことができるか、それは誰にも分からない。

それは凄い話だ。その金が、権力を生む根源になっているということだね。さすが政権与党。

jしかも、選挙が近づくと、この金はもっと膨大にふくれ上がる。財界・企業からの献金が急増するからね。選挙に金が必要な候補者たちが、幹事長に頭が上がらなくなるわけが分かるだろう? その上、候補者の選定や選挙区の区割りなどの決定権も全て幹事長が持っているからね。

なるほど。そろそろ衆議院解散か、なんて話も聞くしね。

j参院が与野党逆転した今度の国会で、特に「テロ特措法」延長問題をめぐっては紛糾することが必至だし、それでにっちもさっちもいかなくなれば、当然、国会解散、総選挙ということも考えられる。早ければ、今年の12月、遅くても来年3月ごろには総選挙があるのではないかというのが、永田町でのもっぱらの観測なんだ。

そうすると、安倍・麻生ラインが力を発揮する。

jそういうこと。政界では「ダブルA」と言われているほどのおふたりだからね。

えっ、「ダブルA」 って言うの? 知らなかったなあ。じゃあやっぱり、「戦後レジームからの脱却路線」や「美しい国作り路線」は変わらないってことじゃないか。なんだかなあ。

jいやいや、それは自民党内だけでの話であってね、例えば連立相手の公明党なんかは、もうかなり腰が引けているからね。その路線がすんなりと通るとは、とても思えない。

ああそうか。公明党のことをすっかり忘れてた、あははは。

j無理もない。国民から忘れられるほど、公明党の影はそうとうに薄くなってきている。党内には、太田昭宏代表の今回の参院選での敗北の責任を問う声も、かなり燻っているから、このまま「ダブルA」にくっついていっては、衆院選はとても戦えない、との反発がいつ吹き出すかもしれない。一枚岩と言われていた宗教政党の内部も、そうとうガタガタし始めているのが現状だということだ。

そうなれば、公明党の動向が自民党内に波及することも考えられるんじゃないの?

jその通り。安倍首相は「選挙の顔」として、小泉人気の後釜に座ったわけだ。事実、発足当時は異常ともいえる支持率を得た。ところが、人気に溺れて国民不在のわけの分からない公約を連発、「国民の生活の痛みがまるで分かっていない」と猛反発を受け、それが参院選惨敗につながった。でもね、この人、そこんところがまだよく理解できてないようなんだねえ。あれだけ、国民にNO! を突きつけられてもなお、「美しい国作り、改革を続行していくのがわたくしの使命であります」なんて言い続ける。ほとほと呆れるね。

それが今後も続けば、「選挙の顔」としての役割は終わる。「顔を変えよう」という声が、自民党内から吹き出す。

jまあ、そう流れるのが順当だけどね。ところがここで「人事=内閣改造=大臣の椅子」ってのが、強力な効果を発揮するんだなあ。

ん? 

大臣の椅子

jまったく悲しくなるね(笑)。

ああ、舛添要一厚生労働大臣(一緒に、笑)。

jあれだけ首相退陣論をぶち上げていながら、コロリと大臣の椅子に飛びつく。退陣を迫った首相からの入閣要請ならば、普通、断るのが筋。どんなリクツをつけるのかと思ったら、

「あんなに批判をしていた私でいいんですか、と聞いたら、むしろそういう人が必要なんだ、と言われた」とか話していたよね。ああ、物は言いようだなあ、とつくづく感心しました(苦笑)。

jそれに、各派閥の領袖や幹部クラスを6人も閣僚や党役員に取り込んだ。身内にしてしまえば怖くはない、ってことだろうけど、なんだか見えすいてるねえ。

そうか、黙らすには大臣の椅子で釣るのがいちばん、というわけか。それにしても、そんなにその椅子は座り心地がいいのかなあ。

jなんたって、外国へ行ったときの相手国の扱いが違う。一議員と大臣では、もう天地の差よ。まあ、国内でも同じだけどね、とにかくこのVIP待遇ってのには、みんな憧れる。それにSPも付くし、「オレも偉くなったなあ」と実感するらしい。

だからみんな、とにかく大臣になりたくて仕方ないんだ。

j切ないけど笑えたのは、参院枠で入閣確実と言われていた自民党参院前国対委員長の矢野哲郎氏。モーニングまで用意して事務所で記者団相手に余裕で待ち構えていたのに、結局、なしのつぶて。とてつもない恥をかかされたわけで、もう顔が引きつっていた。そうとう怒ってたね。官邸に抗議に乗り込む、なんて噂もあるほどだ。でも、みっともない。あれが、大臣病患者の典型ってことだろうね。

大臣病患者、ね。

j面白い人もいたよ。初入閣組の遠藤武彦農水相。「最後まで残ったポストが私に振り分けられた。参ったなと。ここだけは来ないほうがよかったと思っていたので」と、思わず口走った。

あはははは。正直モンだなあ、笑える。でもそれじゃ、受けなければいいのにね。

jだから、そうまでしても大臣になりたいわけよ。

吹き出すスキャンダル

それにしても、面白味のない改造だったね。そうとうに綿密な「身体検査」もやったらしいから、あまりスキャンダルも出ないだろうし。でもさ、「身体検査」って、笑えるよね。

jまったくね。小学生じゃないんだから。でもね、そう身奇麗な人ばかりじゃない。いろいろとスキャンダルの芽は、すでに出てる。

えっ、そうなの?

j 例えば、文科相に留任した伊吹文明氏。この人、今年の1月に、家賃が要らないはずの議員会館に政治団体を登録しておきながら、年間4千万円もの事務所費を計上していたことが発覚、大問題になったんだ。

そういえば、そんなこともあったような---。あまり話題にはならなかったように思うけど。

jまあ、松岡利勝元農水相の事件の陰に隠れて、うまく逃げおおせたということだけど、今度は彼がメディアの標的にされるから、そう簡単には逃げ切れないんじゃないかな。

どうしてそんな危ない人をわざわざ留任させたの? 臭い物には蓋をする絶好のチャンスだったのに。

j彼が派閥の親分だからさ。とにかく、取り込んでしまえばどうにかなる、ということを前回学んだからね。

ほかにもあるの?

jもちろん、ある(笑)。今回初入閣した7人のうちのひとり、岸田文雄沖縄北方・科学技術担当相。この人、なんと今回の改造当日に、「事務所費処理に若干の手違いがあった」として、政治資金収支報告書の訂正を行った。駆け込みセーフのつもりらしいが、調べればこの先も何が出てくることやら。また、額賀福志郎財務大臣も、かつてかなりの疑惑を指摘されたことがある。例のKSD(中小企業経営者福祉事業団)からのヤミ献金疑惑だ。そんなこともあって、経済財政大臣を辞任せざるを得なくなった過去があるし、防衛庁長官時代には、数々の不祥事の責任をとって辞任。まあ、決して真っ白な人じゃない。二階俊博総務会長も、事務所を支援者からタダで借りてるくせに、それを政治資金収支報告書に記載していなかったという問題が出てきた。これも初入閣組の上川陽子少子化・男女共同参画担当相にも、早くも消費者金融関連の献金問題などが取沙汰されている。な、早いだろ?

まだ組閣が終わって数時間しか経っていないのに、そんなことまで掴んでいるの? いやはや。

jまあ、我々も因果な商売ではある。でも、きちんと調べて伝えなければ、という使命感もあるわけ。

そうだね。とにかくいろんなことを調べて、私にいちばん早く教えてくれ(笑)。「マガジン9条」の読者も期待してるから。

j職業上の秘密ってのもあるから、ね。まあ、なるべくお教えしますよ、「マガジン9条」読者のみなさんのために。

 というわけで、深夜の電話はおしまい。実はもう少しヤバイ話もあったのですが、彼の言うように「職業上の秘密」であり、まだ裏の取れていない情報ということで、ここには書けません。

 いずれ、それは彼が所属しているメディアで、スクープとして爆発するかもしれません。

(小和田 志郎 & 匿名ジャーナリスト)

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