070620up
この人は、猛烈な逆風にさらされている「年金問題」を、なんとも自分の都合のいいように利用することに決めたようだ。そうして逆風をかわそうというミエミエの策士ぶりを発揮したわけだ。
つまり「こんな事態をふたたび招かないように、国民すべてに健康カードのようなICカードを持ってもらう。それに年金や健康保険、介護保険その他の情報をすべて読み込ませて一元化する」という構想をぶち上げたのだ。国民全員に一律の番号を付与し、それを一元化してあらゆる場面で使用する、という構想である。
例によってアメリカの「社会保障番号」制度の猿真似。軍事だけでは物足りず、こんなことまで追随しようというわけだ。
しかし、アメリカではこの番号を悪用した詐欺事件が年間数十万件も発生し、大きな社会問題になっている。電磁記録を悪用する手口は日本でも多発し、クレジットカード詐欺などで、年間数百億円の被害が出ていることは、みなさんもよくご存知のはず。
それを今度は、国家主導で巨大なカード制を、国民全体に押し付けようというのである。年金記録ひとつさえ十分に管理できない国が、そんな膨大な記録をどうやって管理するというのか。
情報漏れや情報過誤、情報操作、情報の悪用による犯罪など、もう手に負えない事態になることは、今回の年金騒動で実証済みなのだ。それでもとにかく、目の前の事態を誤魔化せるのならばそれでいい。そして、あわよくばその騒ぎにつけ込んで、自分の思い通りの政策をドサクサ紛れに実現させてしまおう、と企んでいるらしい。
大反対の声の中、国民総背番号制を目指して施行した「住民基本台帳法(住基ネット)」はほとんど有効に機能せず、壮大な失敗に終わりそうだ。なにしろ、このカードを申請して実際に交付された人数は、全国民のたったの1%ほどしかいないという。
このカードを利用して簡単にパスポートの発行・取得ができる、などという触れ込みで始まった作業は、なんと1通のパスポート発行にかかった費用が、2000万円にも達した、という凄まじいほどのバカげた結果に終わってしまったのだ。もちろん、この壮大な無駄遣いについて誰かが責任を取った、などという話は聞こえて来ない。いつもと同じ、官僚と政治家の利権だけが太っただけの結果であった。
あなたは、「住基カード」なるものを、実際に眼にしたことはありますか。私は見たことなどありません。
要するにほとんどの人は、そんなものには目もくれなかったのだ。 国民は、背番号を付けられて、国からすべての場面で監視され管理されることに、激しい拒否反応を示したわけだ。
それでも安倍首相は、国民を自分の思うままに管理したくて仕方がないらしい。
誰が何をしているのか、その人にはどのような病歴があり、どれほどの財産を持ち、これまでどんな職業についてきたのか、そのすべてを知りたがっているのだ。
やがてそれは、図書館のカードやレンタルビデオ店のカードなどにも連動して、その人の性質、考え方や思想傾向までチェックする、なんてこともこっそりと行われる可能性だって否定できない。
そんなバカな妄想を、とあなたは笑うかもしれない。
しかし、最近明らかになった自衛隊による市民活動の監視などは、そのいい例ではないだろうか。この件は自衛隊が行ったものだけれど、公安警察がそれと同じような活動をしているということは、さまざまな事例で明らかになっている。これらの活動が、あなたのICカードに反映されないという保障など、どこにもない。
ある日、あなたのカードに「反政府主義者」などという情報が書き加えられているかもしれない。そしてそれは、必ずエスカレートする。
もしあなたが、右翼的な考え方を持っている人だとしても、勉強のために読んだ「文献」が「監視対象書物」だったとしたら----。
これから始まる「裁判員制度」で、あなたが裁判員を拒否した理由が権力のお気に召さなかったら----。
これは、決して妄想や杞憂などではない。
安倍氏は何が起ころうと、自分では一切の責任を取ろうとせず、他人にそれを押し付けるタイプである。百歩譲って、安倍首相自身はこの「年金問題」に、直接関わっていなかったとしても、現在の凄まじいばかりの混乱を収拾できずに放置した責任は、現在の首相である安倍晋三氏に、絶対にあるはずではないか。
「あのときの厚生大臣は、菅直人さんだったではありませんか!」
と叫ぶ安倍首相の醜さに、思わず顔を背けたのは、どうも私だけではなかったようだ。同じ党内からさえ、みっともないことは言うな、との声が上がる始末だった。
さらに安倍首相は、なんと言ったか。彼は、国会で追及されたときに、 「そのようなことを言い立てて、国民の不安を煽るようなことは慎んでもらいたい」と、開き直ったのだ。
国民の不安を煽ったのは、安倍氏自身だったと私は思う。
次々に明るみに出てくる不祥事を、なんとか覆い隠して逃げ切ろうとしたのは、柳沢厚労相と安倍首相。
そして、国会でヌケヌケと「菅さんも厚生大臣だったじゃないですか。でも、菅さん一人が悪いと言ってるんじゃありません。みんなに責任があるんです」と、またも責任の所在を「全体責任」ということでウヤムヤにしようとした片山虎之助参議院自民党幹事長。
子どものケンカだって、ここまでみっともないのは珍しい。同じ口で、子どもの教育問題など、語って欲しくはない。
とにかく、ドサクサ紛れに何をやるのか分からないのが安倍内閣、というより安倍晋三首相である。
この「国民カード」については、まだあまり論評は出ていないようだし、報道もされていない。
「中身もはっきり考えずに、その場しのぎで適当にぶち上げるのが安倍流なのだから、論評のしようもない」というのが、私が聞いたあるジャーナリストの言い分である。
たしかに、「1年以内に5000万件の行方不明の年金はすべて調査し終え、国民の皆さんに心配をおかけするようなことはしない」と、そんな事が不可能であるにもかかわらず、中身も吟味せずにその場しのぎで大声の宣言。現場からは「何を根拠に1年以内などと言えるのか!」と、猛反発をくらっているのも、この安倍晋三首相である。中身がない、というメディアの言い分にも、それなりの根拠はあるわけだ。
しかし、これは相当に大きな問題だ。放っておくわけにはいかない。 このコラムでも、何か分かり次第、書き続けるつもりである。
いつか、どこかの窓口で、 「あなたの国民番号は?」 「1878203396です」 なんて答えさせられる日が来ないことを。
(余談です。社会保険庁が開設した相談電話の番号のゴロあわせが、またしても国民の憤激を買っています。
いわく、0120-657830 = 老後悩みゼロ、だそうです。この期に及んでまだそんなゴロあわせで我々を愚弄するのか! これには怒らないほうがどうにかしていますよね、まったく。
そこで、このコラムに書いた数字を、うまくゴロ合わせしてみてください。まあ、コラム筆者の怒りの数字です)
(津込 仁)
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