070502up
ある友人から、ちょっと面白い本を教えてもらいました。
『戦争プロパガンダ10の法則』(アンヌ・モレリ著、永田千奈訳、草思社刊)です。これがなかなか。
モレリはこの本の中で、世論を操作して自国の戦争を正当化するプロパガンダ(政治的宣伝)の手法を法則化し、次の10段階にまとめています。「なるほどなあ」と、思わず納得してしまいます。
1.われわれは戦争をしたくない。
2.しかし敵側が一方的に戦争を望んだ。
3.敵の指導者は悪魔のような人間だ。
4.われわれは領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う。
5.われわれも誤って犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる。
6.敵は卑劣な兵器や戦略を用いている。
7.我々の受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大。
8.芸術家や知識人も正義の戦いを支持している。
9.われわれの大義は神聖なものである。
10.この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である。
アメリカのイラク戦争は、この法則にぴったりと当てはまります。
「戦争なんかしたくなかった。しかし、フセインは悪魔のような独裁者で、大量破壊兵器を隠し持ち、世界を混乱に陥れようとした。我々アメリカには、もちろん領土的野心などない。独裁者排除のため、平和のための戦争を行わなければならない。メディアも知識人たちも私の考えを支持している。アメリカ国民よ、ともに立って悪魔のフセインを叩き潰そうではないか。これに反対する者は愛国者ではない、売国奴である」
これが、ブッシュ大統領の一貫した論理でした。
しかし、大量破壊兵器など、どこにもありませんでした。それでもなお、ブッシュ大統領は10.の理屈に固執し続け、戦争に反対する人々に悪罵を投げつけています。
さて、日本ではどうなのでしょう。
安倍首相が力を入れている北朝鮮問題に、この法則を当てはめてみると、不気味なほど合致することに気がつきます。
戦争を望んでいるのは北朝鮮であり、日本ではない。
金正日は悪魔のような指導者であり、拉致等の残虐行為におよんでいる。
さらに、テポドンやノドンなどのミサイルを持ち、それに搭載するための核開発まで進めている。
多くの学者たちや知識人たちが、対北朝鮮強硬政策を支持している。愛国心は国民の間で高まっており、愛国心を教育基本法に書き込んだのは「戦後レジームからの脱却」路線として大成功であった。これに反対するのは、一部の裏切り者である----。
どこの国でも、為政者は同じような発想をするものなのでしょう。ブッシュ大統領の論理と安倍首相の言い方は、驚くほどの相似形なのです。
しかし、そのブッシュ大統領に対するアメリカ国民の姿勢は、そうとうに変わり始めています。熱に浮かされたイラク戦争開戦への反省が、ようやく形をとって政治の場に示され始めたというわけです。
日本では、いつ?
60回目の憲法記念日です。
しかし、前のめりに改憲へ突き進む安倍内閣。
ついにデタラメ極まりない「憲法改正のための国民投票法案」が、自民公明の与党により、国会を通ろうとしています。
自民党は、改憲草案の審議を3年間凍結するという、自らが作った国民投票法案の条項を無視して「3年間は改憲案を提出することは凍結されるが、その間に議論することは禁止されるわけではない」という屁理屈を考え付き、ついには「早ければ2011年には改憲できる」などと言い出しています。
どんな法案を作ろうが、その抜け道を探し出して法律を骨抜きにしてしまう、というのがこれまでの自民党のやり口でした。国民投票法だけはきちんと守る、なんてことはあり得ません。
安倍首相は「集団的自衛権行使」へ舵を切って、憲法そのものすら踏みにじろうとしています。日本国憲法に定められている「議員や公務員の憲法擁護義務」など、憲法をまともに読んだこともない安倍晋三さんは、考えたこともないのでしょう。
安倍さんは、絶対に反対しない学者や知識人(?)たちを集めて審議会を作り、この「集団的自衛権」について、自分に都合のいい答申を出させるつもりなのです。
御用学者が国を歪めていく典型例です。
悲観的なことばかりが目につきます。
しかし、そう簡単に問屋は卸させませんよ。
61回目、62回目、そして70回目、100回目の憲法記念日を、今と同じ形で私たちの子どもや孫たちに祝わせてやりたい。そしてそれが、今を生きる私たちの義務だとも思っています。
(小和田志郎)
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