ホームへ
もくじへ

コーナートップへ戻る
 
みんなのレポート
テーマ3
全国各地のイベントレポート
テーマ3詳細

以前、「やんばるの森でUAがうたう。」でレポートした、沖縄本島北部・国頭郡東村高江での米軍施設(ヘリパッド)建設問題。4月14日、東京・新宿のライブスペース「Naked Loft」で、建設反対を訴えるイベントが開かれました。
レポートno32

反対運動を支援するミュージシャンたちによるライブも。 ■沖縄防衛局に訴えられた高江の住民たち

「沖縄防衛局に言わせれば、このDVDを見るという行為自体が“妨害行為”ですからね。つまり、ここにいる皆さんも妨害行為に荷担したってことですよ」。スピーカーの田中優さんの言葉に、会場中から笑いがもれる。

在日米軍再編の一環として進む、沖縄県国頭郡東村高江での米軍ヘリパッド建設計画への反対を訴えて開かれたこの日のイベント。ミュージシャンの知久寿焼さん、ラビラビ、寿【kotobuki】、そして数名の高江住民も駆けつけ、会場は立ち見の出る盛況になった。

一昨年の秋、私ははじめて高江を訪れた。そしてそこで、160人ほどが暮らす小さな集落の周囲でヘリパッド建設計画が進んでいること、そして豊かなやんばるの森と人々の静かな暮らしを破壊する計画に、住民らが建設現場で座り込みなどの抗議行動を続けていることを知ったのである。

それから1年あまり。高江ではさらに、ちょっと信じがたいようなとんでもないことが起こっていた。昨年の12月、座り込みを続けていた高江の住民らに対し、「通行妨害の禁止」などの仮処分を求める訴えを沖縄防衛局が那覇地裁に申し立てたのである。

「仮処分」とは、何らかの権利が侵害されていたり、もしくはその危険に瀕している場合に、その保全のために裁判所が暫定的に行う処置のこと。通常の裁判では問題解決に数年を要することも珍しくないため、より迅速な解決が必要なときに選択される措置だ。今回の申し立てでは、防衛局側がヘリパッド建設に着手できるよう、その建設現場への入り口にあたる公道での「通行妨害」をやめさせ、テントや車両を撤去させるよう住民らに「仮処分命令」してくれ、という訴えがなされたわけである。

ヘリパッド建設計画の発表そのものがそうだったように、今回の訴えもまた住民らにとっては「寝耳の水」のできごとだった。ある日突然、郵便受けに放り込まれていた「分厚い郵便物(裁判所からの呼出状)」を見て初めて、人々は自分たちが「訴えられている」ことを知ったのだという。

ちなみに、裁判所から送付されてきた資料(沖縄防衛局作成)にあった、「通行妨害している車両」の写真は、その多くが住民の座り込み排除のためにやってきた防衛局や工事業者のもの。住民の写真についても人違いが多く、申し立て対象とされた13名の名前の中には、座り込み現場に行ったことのない住民や、すでに沖縄を離れた人も含まれているなど、そのずさんさ、いい加減さが住民らを支援する弁護団からも指摘されている。

■基地のある村と基地のない村

今回の新宿でのイベントには、東京から高江に移り住み、抗議行動の様子などを映像で記録し続けている「マーティ」こと比嘉真人さんも駆けつけていて、呼出状を受け取った住民たちや支援者による記者会見、沖縄防衛局へ抗議に行った際の様子などを納めたDVDを上映してくれた。

一番印象的だったのは、東村の村庁舎での、住民らと村長とのやりとりだ。「皆さんには申し訳ないというか、暑い中頑張っておられることに対して感謝というか…」。しどろもどろに言葉を継ぐ村長は、「しかし、米軍基地があることでこの村には大きな収入があるわけで…」と釈明しようとする。それを遮ったのは、東村の隣・大宜味村から来たという男性だった。「私の村には基地がありません。こんなに立派な庁舎はないけれど、誇りを持って生きています。東村も、誇りをなくさないでください」。

言葉に詰まった村長が、苦し紛れなのかなんなのか、「ともかくヘリパッドは造ってもらって、使用しないという協定を結んだらどうでしょうか」と口にするに至っては、会場からも「コントじゃないんだから」という突っ込みとともに失笑が漏れた。

この村長は、昨年10月に工事中止の要請に訪れた住民・支援者らとの面談の席で「2割(高江区住民)を犠牲にしてでも8割を生かした方がいい」と発言し、非難を受けたという。一方で、2007年の就任当初は国に対し計画の見直しを訴えていたという人物でもある。その「変化」の陰に何があったのか。そう考えると、なんともやり切れない気持ちになる。

■ブログ運営もイベント開催も「妨害行為」

そして今年の3月には、さらに信じがたい展開を見せる。1月に開かれた第1回審尋(裁判所が当事者双方の意見を聞く場)で、裁判所から「禁止を求める“妨害行為”の内容を明らかにするよう」求められた防衛局側が、第2回審尋において、防衛局への要請行動や座り込みに加え、活動の様子を報告するブログの運営、イベントの開催、支援の呼びかけなどもすべて「妨害行為に当たる」と主張したのだ。

冒頭に挙げた田中優さんの発言は、このニュースを受けてのもの。たしかに、防衛局の主張に沿うなら、この日のイベントなんて「妨害行為」以外の何者でもないだろう。そんな主張が認められてしまうとしたら、政府や行政の計画への反対運動はすべて「妨害行為」になってしまう。辺野古での海上ヘリポート建設への反対運動しかり、ダムや原発建設への反対運動しかり…。

裁判所がどんな判断を下すのかはまだ分からないけれど(第3回審尋は5月11日)、個人的に何よりショックだったのは、そんな「とんでもない」としか言いようのない主張が、裁判所という公の場で堂々となされ、しかもそれが沖縄県内の一部メディアを除いてはほとんど話題にならなかったこと、だった。私自身も、第2回審尋の後かなり日が経ってから、時々チェックしていた「高江の現状」ブログでそのニュースを知ったのだ。

沖縄に住む友人に、冗談めかしてだけれど「ヤマトの人は、だーれも沖縄のことなんて気にしちゃいないからね」と言われたことがある。そんなことないよ、と否定するのは簡単だけれど、たとえば沖縄国際大学のヘリコプター墜落事件が東京で起こっていたら? ヘリパッドの建設計画が、東京のど真ん中で持ち上がっていたら? と考えると、言葉を失ってしまう。DVD上映の後でマイクを握ったマーティさんも、「東京では絶対許されないことが、沖縄ではまかり通っているんです」と訴えていた。

もし、百歩譲ってヘリパッドがどうしても必要なものなのだとしても(もちろん私にはそうは思えないのだけれど)、その負担を一部の人たちにだけ押しつけて、そしてその事実を「押しつけている」側がほとんど知らないままでいることは、やっぱりどう考えてもおかしい、としか思えない。「沖縄の基地問題」は、「沖縄にある基地についての私たちの問題」であって、決して「沖縄の人たちが抱える基地問題」じゃないはずなのだから。

この日、田中優さんはトークの締めくくりに「立ち上がってくれた高江の人たちを支える活動を外からやっていくのが、とても大切なこと」と語ってくれた。「ただ豊かな自然に囲まれて、静かに暮らしていたいだけ。もうこれ以上戦争に荷担したくない」。高江の人たちの訴えを受け止めて、「外」の私たちにできることを、引き続き考えていきたいと思う。


現状を訴える高江の住民たち。
「ただ自然の中で、静かに暮らしたいだけなんです」という。
thanks1

高江の状況に関する情報は 「やんばる東村 高江の現状ブログ」で。
今、何が起ころうとしているのか、
まずは1人でも多くの人に知ってもらいたい、と思います。

ご意見募集!
ぜひ、ご意見、ご感想をお寄せください。
このページのアタマへ