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9条的シネマ考

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映画の中に描かれる「戦争」の数々。ここに隠された真のメッセージは? 
第1回は、ブルース・ウィリス主演『ジャスティス』です。
映画を観た人も、まだの人も、お楽しみください。

藤岡啓介(ふじおか けいすけ)翻訳家。1934年生まれ
長年、雑誌・書籍・辞書の翻訳、編集者として活躍中。
著書に『翻訳は文化である』(丸善ライブラリー)、
訳書に『ボスのスケッチ短編小説篇 上下』ディケンズ著(岩波文庫)など多数。

1回『ジャスティス』

パッケージ
ジャスティス デラックス版(GNBF-5010)
発売日:2004年6月25日
税込価格:2,500円(DVD)
発・販:ジェネオン エンタテインメント

ブルース・ウィリスのドタバタはくだらなかったが
 あのブルース・ウィリスの『薔薇の素顔』が面白かった。同じ「薔薇」がついても超有名な『薔薇の名前』はちっとも。そういうと、お前は文学が分かっちゃいない、と叱られたんだけど、中世の坊さんが何人か修道院で殺されるなんて話、興味ないな。豪華な古文書が詰まった書棚におどろいたけど、あのショーン・コネリーがもっともらしく演じていても、作り物の紙芝居のようで、いまだにつまらないと頑張っている。なにもコネリーが007をやった非文学もののスターだったからという偏見があるわけではない。
 非文学のお仲間だったらハリウッドにごっそりいる。ブルース・ウィリスだってそうだ。この人、駆け出しの頃TVでドタバタ探偵事務所ものをやっていた。ケーブルTVのお陰で毎週暇つぶしにみていたけど、それがさ、『薔薇の素顔』に出てきてびっくり仰天。共演のジェーン・マーチが妖しい二重人格者をやっていて、それにも驚いたけど、ウィリスのドタバタとは違ったもっともらしい悩み顔がぴたりと役にはまっていた。あの人、シリアスものに向いているんだな。
 駄目だな、こんな話。話し出すときりがない。憲法9条の話だった。戦争放棄に決まってるさ。他の条文はとっ変えても、戦争だけはしない方がいい。だからさ、映画の話に戻るけど『ジャスティス』、観たかな?


映画のタイトルもよくかんがえなけりゃ
 IMDb(Internet Movie Database)という膨大なインターネットのサイトを物好きに覗いたら、この映画の梗概(編集部注:物語などのあらすじ)があった。そこでちょっと物好きに翻訳してみたら、こんな風に紹介されている。

 人間扱いなどまるでないドイツの捕虜収容所に、米陸軍大佐マクナマラが捕らえられている。曾祖父の代から軍人の彼は、ドイツ空軍退役大佐フィッセルの厳しい監視の目が光る、この名誉心などたちどころに吹き飛んでしまう収容所で、それでもなお名誉を重んじて仲間たちを統率している。この戦争に勝利する、決して諦めない、いつか反撃する機会があると信じて、マクナマラはひそかに計画を練っている。こうしたとき、収容所の中で殺人事件が発生、彼はこの期に乗じて、かねての計画を実行に移すことを決断。危険は覚悟の上だ。殺人事件の軍法会議でドイツ側の気をそらせておいて、その間に捕虜が脱走し、近くにある軍需工場を破壊するという巧妙な計画。若いトミー・ハートは、それとは教えられないまま、マクナマラの計画に力を貸すことになる。マクナマラは部下たちと共にその使命を果たすため、ついには、自分の生命か、故国の利益か、いずれをとるか英雄的決断に迫られるのだった……

 というのだけど、この梗概はどうもアメリカ人向けのように思えるな。梗概ライターは分かっていない。映画の原題は”Hart' War”なんだ。梗概では書かれてないけど、実際に戦場に出たことのないハート中尉が、初めて前線に出て行く。上院議員の御曹司だから危険な任務であるはずはなかったけど、それが運悪くドイツ軍につかまり、しかも情報を漏らしてしまう、そんな出だしの物語なんだ。だから題名は『ハートの戦争』なんだな。ブルース・ウィリスに焦点を絞れば「ジャスティス(正義)」かもしれないが、ぼくには「ハートの場合」が分かりやすい。臆病者のハート青年がだんだんと悲惨な情況に追い込まれて、そこで何がいったい「正義」なのか考えるんだ。


軍人の骨の髄まで叩き込まれた正義感が主役になるはずがない
 この映画、臆病者のぼくはたまらなく辛い思いで見ていた。だって、ウィリスやドイツの退役大佐の「お国のため」が作り物、教育されたもので、人間の本音ではないように思える。無理しちゃって、という感じ。「軍人の骨の髄まで叩き込まれた正義感」が人間の生命に匹敵するものだとはとうてい思えない。あれはまやかしだ。
 だからブルース・ウィリスは格好良く自殺した、生きられる思想の持ち主ではなかったんだ。ぼくは戦争は御免だ。徴兵制度になったら逃げようよ。でも、その前に反対はいわなきゃね。ブッシュ、ライス、小泉、森、中曽根、石原、かれ等は「ハートの場合」、つまり「ぼくの場合」を無視してるんだ。


 自分勝手に生きてきて、これからもあと半世紀は生きようと思っている。そう、120歳まで生きて、ここらでもういいや、といって昇天しようとの人生設計。雑誌の編集、出版社社長、翻訳、結婚、離婚、再婚、創業、倒産、なにもかも経験してきたけど、これからは足腰を労りながら参戦する覚悟、そう、戦争は嫌だ、という戦いに。

藤岡啓介 拝

これまで、フィクションとして見る人が多かった、戦場を舞台とした映画。
しかし、9条改定が言われる今となっては、
「もし、あなたが、軍人として送り込まれたら?」
そんな想像をしながら映画を見ることも、必要かもしれません。
次回の映画コラムもお楽しみに!

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