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2012-08-08up

伊藤塾・明日の法律家講座レポート

2012年6月16日@伊藤塾渋谷校

「けんぽう手習い塾」でおなじみの伊藤真さんが主宰する、資格試験学校の伊藤塾では、
法律家・行政官を目指す塾生向けの公開講演会を定期的に実施しています。
弁護士、裁判官、ジャーナリスト、NGO活動家など
さまざまな分野で活躍中の人を講師に招いて行われている
「明日の法律家講座」を、随時レポートしていきます。
なおこの講演会は、一般にも無料で公開されています。

国際派経営弁護士の苦悩と生き甲斐について

講演者:
原口薫弁護士(原口総合法律事務所 所長)

講師プロフィール
1979年 中央大学法学部法律学科卒業
1994年 米国シカゴ大学ロースクール修士課程卒業
1989年 東京弁護士会登録
1995年 ニューヨーク州弁護士登録
2003年~現在 原口総合法律事務所 所長

 原口弁護士は、金融に強い法律事務所に入所したことから、弁護士としてのキャリアをスタートさせました。シカゴ大学への留学、ニューヨーク、イギリスの法律事務所においての研修を経て、発展途上国向けの円借款の実施機関である海外経済協力基金(現在の国際協力銀行)に出向。現在は、世界的な弁護士の集合体であるAEAの主要メンバーであり、アジア地区を代表するディレクターも務めておられます。
 また、日本の法律事務所として初めてモンゴルに進出するなど、早い段階から国際的な活動をされてきました。現在は、国際的なネットワークとこれまでの経験を活かして、中国やモンゴルへの事業展開を考える依頼者への法的アドバイスも行っています。そんな原口弁護士から、仕事のやり甲斐や苦労について触れながら、国際派経営弁護士の本当の姿を伝えていただきました。

■国際派弁護士の本当の姿

 国際派弁護士という分野は一見華々しい仕事のようですが、実際は様々な苦悩・問題を抱えています。そこで今日は、どのような苦悩や問題点があるのかについて、国際派弁護士と経営者という両面から、ありのままをお伝えできればと思っています。
 まず、「国際派弁護士」とは何かということですが、定まった定義はありません。海外に進出している企業と仕事をしている弁護士、外国語を用いて仕事をしている弁護士などを一応そのように呼んでいます。
 国際派弁護士として活躍するために一番大切なのは、言語です。私も英語圏に留学し苦労しながらもある程度わかるようになりました。ただ外国人とのコミュニケーションを取るには、言語だけではなく、文化や歴史などの違いを理解することも含まれてくるので、15年くらいかけてようやくわかってきたという状態です。
 最近では中国で仕事をすることが多く、中国では英語を使う人がまだ少ないですから、中国語の通訳をお願いすることになるのですが、中国で仕事をする場合は言葉よりも、文化やお金に対する考え方や社会環境の違いが大きいように思います。そのため中国で仕事をするのは大変ですね。
 具体的に中国では、社会主義ということもあって、労働者の保護を重視しています。だから簡単には従業員を解雇出来ないし、再雇用を保障しないと会社の再編もできません。法律的な問題もあるのですが、一番大変なのは、基本的にさまざまなことが政府の許認可にかかっているということです。中国に進出して、いろいろやりたいとおっしゃる事業主さんも多いのですが、そういった背景があるので簡単にはいかないし、裁判などで争いになれば日本人にはなかなか勝ち目はありません。
 一方でやり甲斐もあります。世界中の人とコミュニケーションを取ることで、自分の考え方や幅も変わってきます。先ほど中国で仕事をするのは大変だというようなことを言いましたが、もちろん中国においても、熱い友人関係になれる人はいます。そういう人と出会って仲良くなることは、とても面白いと思っています。

 私の専門は、発展途上国向けの投資という分野です。きっかけとしては、かつて中米のお役人と話をしたときに、途上国に対して日本の政府や会社にもっと融資をするように頑張ってほしいと言われたことです。市場経済では、先が見えて、お金が儲かるとわかるものにしか企業は融資しません。でも、途上国ではインフラの整備が求められている。例えば道路や鉄道の整備などは、リターンがないと民間では投資しないわけです。それを日本の政府が企業と一緒に進めることで、安定した融資が受けられるという可能性が出てきます。この分野を日本の弁護士も扱ってもらえると、自分たちの役に立つと言われたのです。イギリスやアメリカの弁護士は、すでに大活躍しているよということも聞きました。
 私は弁護士がそんなこともできるんだ、ということを初めて知って、単なる金融商品を扱うだけだったら興味があまりないのですが、途上国のジャングルの中に分け入って、発電所をつくるとか、そういうことだったら面白そうだなと思ったわけです。実際にやってみると想像とはぜんぜん違っていて、大変なこともありましたが、やりがいはありますね。

■経営者としての苦労と生き甲斐

 弁護士事務所の経営者としても、さまざまな苦労はあります。弁護士やスタッフの採用や教育、依頼者との関係の形成、維持、他の事務所との競争などを巡り、毎日思い悩むことが多いのです。一番大きいのはお金と人です。事務所を構えスタッフを雇うと、何もしなくても維持費や人件費などのお金が出て行きます。長期間、お金が入ってこない時期もありました。9ヶ月間、1円も入ってこないときには、さすがにのんびり屋の私でも慌てましたね。中小企業の社長さんはこういう追い込まれ方をするのかと思いました。人材でも苦労しています。新人の弁護士がやっと育ってきたなと思ったら、出て行ってしまったこともあります。
 もちろん事務所を設立したメリットもあります。大きな事務所よりも小回りがきくので、仕事を選べる自由度が高いということは言えると思います。私は金融を専門にしていたのですが、リーマンショック以降そっちの仕事が減ってきました。そういうときにたぶん大きな事務所だったら専門分野をすぐには変えにくいのですが、うちのような小さな所では変えられます。世の中はどんどん変わって行きます。だから今のところはうまくいっていても、次はどうしようかと考えながら動くのが大事です。

 今まで、世界のいろいろな所で仕事をしてきました。その間、人間はエゴイスティックだなと思う事にもたくさん出会いました。その一方で、世界のいろいろな人たちと、幸せや喜びを分かち合うことができた素晴らしい体験もしてきました。「国際派弁護士」は、そういう満足感が得られる仕事であることは確かです。みなさんが法曹への夢を膨らませ、我々の仲間として活躍されるように願っております。

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