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2011-12-14up

伊藤塾・明日の法律家講座レポート

2011年12月17日@伊藤塾本校

「けんぽう手習い塾」でおなじみの伊藤真さんが主宰する、資格試験学校の伊藤塾では、
法律家・行政官を目指す塾生向けの公開講演会を定期的に実施しています。
弁護士、裁判官、ジャーナリスト、NGO活動家など
さまざまな分野で活躍中の人を講師に招いて行われている
「明日の法律家講座」を、随時レポートしていきます。
なおこの講演会は、一般にも無料で公開されています。

『弁護士』という職業の魅力と可能性 ~「合格後を考えた」受験時代等にも触れながら

講演者:藤沢 彩乃氏(弁護士、「TMI総合法律事務所」所属、元伊藤塾塾生)
2008年 司法試験合格
2009年 上智大学法学部卒業
2009年 司法研修所入所
2010年 弁護士登録。TMI総合法律事務所入所

弁護士として働き始めて約1年2ヶ月になる藤沢弁護士は、働き始める前、自分が弁護士として働く姿は全く想像できなかったと言います。やりたいことを一つに絞れなかったので、多様な活動ができる弁護士の道を選んだという藤沢弁護士から、弁護士1年目を振り返って、事務所内の仕事、公益活動、そして受験生時代の思いなどについてお話いただきました。

■受験勉強が苦しいなんて言っていられない

 私が弁護士を目指そうと思ったのは、高校時代に多様な活動をしている弁護士の方たちに興味を持ったことがきっかけです。学生時代から興味のある新聞記事は切り抜いておく習慣があったのですが、その頃切り抜いていた新聞記事を見ると、子どもの人権に取り組んでいる坪井節子先生や国際問題に取り組まれている土井香苗先生の記事があります。色々な分野に取り組まれている弁護士の存在を知り、弁護士ってこういう仕事をするんだなと驚いたり感動したことを覚えています。ほかにもさまざまな分野で活躍されている先生方がいたので、弁護士になったら何でもできるのかなと思いました。私は好奇心が旺盛なので、仕事を一つに絞ることができそうもなかったので、弁護士であれば、色々な仕事をしながらやりたい事を絞っていくことも可能なのではないかなと考えました。

 あとは、私は昔から虐待をされている子どもや障害者、難民といった社会的に困っている人たちに対して何かをしたいと思っていました。そのためNGOで働くことも考えましたが、弱者を救うためには、弁護士という資格があった方が役に立つのではないかと考えたこともあって、弁護士を目指すことにしました。

 大学2年生のときに伊藤塾に入って、在学中に司法試験に合格することができたのですが、受験生時代はつらいと感じることもよくありました。友達と遊べず、一人で勉強を1年以上続けていくのはやはり大変でした。それでも途中で投げ出すことなくやり遂げることができたのは、合格後のことを考えていたからです。私は憲法25条の「生存権」に共感していました。条文には「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と書かれています。が、この最低限度の生活すら保障をされていない人たちがたくさんいます。私が弁護士になって救おうとしている人たちは、そういったギリギリの状態に置かれている人たちなんだ、と考えると、司法試験を受けることも自分で好きで選んでいるし、勉強を続けられる環境があるだけでとても恵まれているのだから、苦しいなとか言っていられない、これくらいのことが乗り越えられなければ、もっと苦しんでいる人を救うことなんかできるはずがないと思ったんです。

 そうは言っても日々点数が伸びなかったりすると悩んでしまうものですが、伊藤塾の講師の方のアドバイスにも助けられました。司法試験はたくさんのことを暗記しなければならないし、論文を添削されると「もっと分かりやすく」と注意をされます。なぜこんなに暗記しないといけないのか、もっと分かりやすくってどうすればいいのか、などと疑問に思い、悩みました。しかし、ヒントは講義内で教えてもらえました。「クライアントの立場に立てば、悩みを相談しに行って、高い弁護士費用を取られているのに、その場でいちいち調べられたら時間ばかりがかかって、さらに費用まで高くなったら不満に思うのは当然だ。プロとして最低限のことはその場で答えられるよう、暗記をしておく必要がある」「裁判で負けた当事者が、なぜ自分が負けたのか、納得できなければ真の意味で解決したとはいえない。納得できるためには、誰が読んでも負けた理由が分かるような判決書でなくてはいけないから、法律家の文章は分かりやすくなくてはいけない」。どの言葉も、本当にその通りだと思い、腑に落ちると、暗記も分かりやすい文章を心がけることも苦ではなくなりました。このことに限らず、合格後、実務に出てから求められることと司法試験合格に求められることがつながっていることが分かると、自然と今やらなければいけない勉強がわかってきたんです。 

■弁護士1年目を振り返って

 私が今所属している事務所は主に企業法務を扱っています。弁護士になる動機が「弱者救済」だったのに、なぜそんな所に入ったと不思議に思われるかもしれません。大きな理由としては、まずは経済の仕組みや会社の中がどうなっているのか、などはじめに大きな所に入って世の中の構造とかをいろいろ見ておきたい、広い視点を身につけたいという思いがありました。個人を相手に仕事をしたり、人権に取り組むにしても、世の中の全体を知っていて損はないと考えたんです。

 実際の仕事の内容ですが、企業法務の仕事としては契約書のチェック、海外進出のための相談、国際取引や紛争など幅広く扱っています。ただ私は弁護士になったばかりなので、資料をそろえたり、パソコンと向き合ってリサーチをする仕事がほとんどでした。本来人と話すのが好きなこともあり、直接お客さんと話したり、裁判所に出向いたりしたいという思いが強くなってきました。そこで何となく裁判をもっとやってみたいなどと周りに話していたら、今年の7月ころから裁判や個人のお客さんの仕事を担当させてもらうことが多くなりました。最近では、離婚とか交通事故、建築工事差し止めの案件などを扱うことが増えています。

 事務所にいると、もちろん事務所の仕事が優先ですが、言われた仕事だけやっていると、これでいいのかな、と疑問に思うことがあります。弁護士を目指した理由である「弱者を助ける仕事」をしたいという思いが心のどこかで常にあり、入所して1年近く経ったころ、やりたい仕事を全くやらないでいることがストレスになっていることに気付きました。そのため、現在では、少しずつそのような活動にも関わっています。刑事弁護人の国選登録をしたり、外国人の人権を扱う委員会に入ったりしました。また東日本大震災の被災地を支援するNGOの活動に参加させていただいて、被災された方の法律相談を行いました。その地域の方は弁護士というとかなり敷居が高い存在のようで、なかなか自分からは相談にいらっしゃらないんですね。普段は事務所にいると仕事がたくさん来て断りたいくらいの気持ちになることもありますが、被災地では自分から積極的に話しかけていかなくては誰も相談に来ない。そういう意味では普段とまったく違った状況で、すごく勉強になりました。

 また、人権活動に熱心な先生方の姿を見ていると、自分の事務所の仕事で忙しいのに、そのほかに休みの日や睡眠時間を削ってそのような活動を行なっていて、本当に驚きます。こういう方たちがいるから、世の中悪いことが起きても、悪くなる一方ではなく、改善していくこともあるんだと感じます。

■弁護士という仕事の魅力

 弁護士には、たくさんの魅力があります。まずは業務内容の幅広さや選択の自由度が高いことが挙げられます。ざっとあげても企業法務、一般民事、人権活動、刑事弁護、国際公務員・・・などなどいろいろとありますが、他にも、新たな仕事を開拓する可能性がいくらでもあるのです。

 例えば私の事務所の先輩には、スポーツ界や、エンターテイメント関係の仕事を専門的に引き受けて活躍されている先生がいます。この分野はこの先生が切り開いていきました。つまり今は弁護士の仕事としては存在していなくでも、発想力や行動力次第でいくらでも見つけることができるのです。このような特徴は他の仕事ではあまりないのではと思います。

 そして、一つの分野に関わったらずっとやらなければいけないわけではなくて、途中で違う分野に切り替える自由も魅力であると感じています。  

 また、自分次第で結論を変えることも可能です。私自身、周りから、裁判で認められるのは難しいと言われていたのですが、粘り強く書類を作り、あきらめない姿勢を見せていたら、裁判官の反応が変わったという経験があります。大変ではありますが、これも弁護士のやりがいの一つだと思います。

 いま弁護士という職業を選択することについては、司法試験合格率の低下や、就職難が叫ばれているように、マイナス面ばかりが強調されているように思えます。確かに、以前よりも弁護士を取り巻く状況が厳しくなったことは間違いないですが、それでも、私は、世の中から弁護士という職業が必要とされなくなることはないと思っています。何がやりたいか、世の中にどう働きかけたいかということと、考える力と心意気があれば、自分自身の力で必ず道を切り開いていくことができるのです。そのような人であれば、どのような状況でも必ず成功します。弁護士になってやりたいことがある人は、諦めずに、周りや先のことを怖れずに、頑張ってほしいと思います。

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