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2011-08-03up

伊藤塾・明日の法律家講座レポート

2011年7月23日@伊藤塾本校

「けんぽう手習い塾」でおなじみの伊藤真さんが主宰する、資格試験学校の伊藤塾では、
法律家・行政官を目指す塾生向けの公開講演会を定期的に実施しています。
弁護士、裁判官、ジャーナリスト、NGO活動家など
さまざまな分野で活躍中の人を講師に招いて行われている
「明日の法律家講座」を、随時レポートしていきます。
なおこの講演会は、一般にも無料で公開されています。

外国人の人権
~日本国憲法の『非民主的』性格

講演者:殷勇基弁護士

日本では外国人の人権についてどのように考えられ、その権利は憲法上どのように扱われてきたのでしょうか。東京弁護士会の外国人の権利に関する委員や憲法問題対策センターにも所属されている、殷勇基弁護士に明治からの歴史にも触れながらお話しいただきました。その一部を紹介します。

■マクリーン事件と外国人の人権

 法律上では、入国管理法(入管法)と外国人登録法(外登法)という2つの法律が外国人関係の主要な法律になっています。外登法は来年2012年には廃止予定で、今後は入管法に統合されることになっています。
 そして現在、日本で外国人をめぐる状況を規定している、法律上で一番大きな判決として、マクリーン事件が挙げられます。これは、憲法が保障する人権が在留外国人についてどこまで守られるのかという問題を語る上で、重要な判例です。
 アメリカ国籍のマクリーンさんは、在留許可を得て英会話講師として働いていましたが、ベトナム反戦運動のデモに出たら目を付けられてしまって、次のビザの更新がされなかったというケースです。マクリーンさんは処分の取り消しを求めて提訴しました。1978年に出た判決ですが、これが現在の外国人の人権をめぐる指導的な判例になっています。
 判決では、とりあえずは外国人にも人権保障が及ぶということになっています。ただ日本人と外国人が同じというわけにはいかないとも言っています。判決では、「権利の性質上日本国民のみをその対象としているものを除き」となっています。国民主権があるので、しょうがないじゃないかということです。そして「入管体制のワク内で」=「ビザのワク内」でだけ人権保障がされる、ということも言っています。マクリーンさんの場合は働くためのビザです。入管法のビザは基本的には仕事のためのビザ、経済活動のためのビザです。そうすると、経済活動以外のことはできないのか? 政治活動をしてはいけないのか? という疑問も出てくるわけです。
 「外国人がデモをする権利は保障されているけれども、ビザの延長の際にはデモに出たことを否定的な方向で考慮してもいい」と言っているわけです。結局、21条は保障されていないではないか、ということになります。
 「外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、外国人在留制度(=入管法)のわく内で与えられているにすぎない」となると、法律の方が上で憲法が下になってしまうのではないかという疑問が残るわけです。

■「国民」とは何か?

 それでは、国民というのはそもそも何を意味しているのかを憲法で見てみましょう。明治憲法の権利の条項では「日本臣民は」という主語になっています。日本国憲法の権利の条項では「国民は」という主語のほか、「何人も」という主語や、「財産権は」というかたちで権利が主語になったりしています。このように主語がバラバラになっているので、日本国憲法を作るときには、日本側は「国民は」という主語に統一するように連合国側と交渉したのですが、今のようになりました。調べてみると主語がこのようにバラバラになっているのは、アメリカの憲法や、フランスの人権宣言でも同様のようです。
 日本国憲法の草案の原文は英語で書かれており、「国民」にあたる言葉はthe Peopleとなっていました。これは「日本国籍者」という定義より広い概念なのではないのかと思われます。人民とか、何人(なんぴと)という意味に近いのではないでしょうか。
 そもそもアメリカが最初に作った憲法のマッカーサー草案では、13条で「すべての自然人は法の前に平等であり、出身国により差別されない」、16条で「外国人は法の平等な保護を受ける」というものが含まれていましたが、日本の内閣法制局が交渉して、外すことに成功しました。これが残っていたら現在の外国人裁判の行方もだいぶ変わっただろうと思います。

■「外国人」とは何か?

 外国人の定義規定は憲法にはありません。いろいろな法律にバラバラに定義がされています。例えば戸籍法の運用では、戸籍は日本国民しか記載しないことになっています。入管法、外登法、などに定義があります。
 入管法の2条には「外国人は日本国籍を有しないものとする」と定義されています。それによると例えば日本と外国の二重国籍の人は外国人ではないということになります。また、無国籍の人は外国人だということになります。
 外国人は今日本にどれくらいいるかというと、おおむね200万人くらい、人口の2%くらいいます。欧米では外国生まれの人は10%くらいのところも多いので、それと比べれば少ないです。日本では10年住むと永住権が取れることになっています。帰化(日本国籍を取ること)は最低5年で、帰化すれば国民ということになるわけです。永住の方が長いことになります。永住権を持っている人は日本では約100万人います。
 永住者には一般永住者と特別永住者がいまして、60万人の一般永住者のうち、最近増えているのは中国人です。そして特別永住者というのは旧植民地(朝鮮、台湾)人のことで、現在約40万人います。ちなみに非正規滞在者の人たち、不法滞在者とも呼ばれますが、今は約10万人と言われています。
 最近は変わってきていますが、日本では戦後ずっと「外国人問題」というと、実際は日本生まれの朝鮮人の問題でした。日本生まれの人を扱う法律を「外国人問題」と言うのだろうかという疑問はありますが、1950年代にできた入管法と外登法というのは、実質的には在日朝鮮人を管理するためにつくられたわけです。そのため「管理性が強くて権利性が弱い」とも言われています。
 そういうところに先に述べたマクリーン判決のようなことが乗っかってくるわけです。永住者の場合は、マクリーンさんの場合と違って、働くことにはまったく制限がありません。しかし「入管法の枠内で」という縛りがあるという意味では共通してくる部分もあります。

 憲法の「国民」とか「国民主権」に関する大事な判例では、2005年の東京都管理職選考事件というものが有名です。このケースは特別永住者の韓国籍の保健師さんがすでに公務員にはなっていたけれど、管理職になるための資格試験を受けることができなかったので、それはおかしいと考えて裁判を起こしました。この人はお父さんは日本人、お母さんは韓国人でしたから、今生まれていれば、この人は日本国民なのですが、1985年に法律が変わる前だったので、韓国籍です。で裁判では負けてしまった。決め手としては「国民主権だから管理職という権力的な仕事にはつくことはできないので、試験を受けることができなくてもやむを得ない」ということでした。
 反論としてはいろいろあって、例えば保健師のしごとは権力的ではないとも言えそうです。また、このように「国民」でなければ2級市民のような扱いをされるのに、憲法の大前提になる「国民」かどうかを憲法ではなく、法律で決められてしまうというのはそもそもどうなのかという根本的な疑問があります。

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外国人にとってみると、
日本国憲法は「非民主的」な性格を持っています。
日本社会の一員でありともに暮らす外国人の人権についても
改めて考えたいと思います。

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