『SEALDs 民主主義ってこれだ!』(大月書店)
出版記念トークイベント・特別レポート
〜その1〜
11月28日、『SEALDs 民主主義ってこれだ!』(大月書店)出版記念として、西荻窪の書店兼コミュニティスペース「信愛書店en=gawa」にて、トークイベントが行われた。出演は『SEALDs 民主主義ってこれだ!』を制作したSEALDs出版班と選書プロジェクトのメンバー、ゲストにSEALDs KANSAIの野間陸さん。司会は選書班のかりんさんが務めた。書籍の出版選書プロジェクトから、大阪ダブル選、音楽のことまで、さまざまな話題があがったトークイベントのレポートを2回に分けてお届けする。
かりん(是恒香琳)日本女子大大学院2年、SEALDs選書プロジェクト・デモ班・コールセンター
のまりく(野間陸)同志社大学2年、SEALDs KANSAI
ちあき(植田千晶)日本大学2年、SEALDs出版班
杏珠(須川杏珠)獨協大学1年、SEALDs出版班・選書プロジェクト
さち(今村幸子)日本大学3年、SEALDs出版班・選書プロジェクト・コールセンター
内山(内山望)武蔵野美術大学2年、SEALDs出版班・デザイン班・選書プロジェクト・コールセンター
さくら(安倍さくら)明治学院大学3年、SEALDs出版班・DOMMUNE班
〜冒頭、話題は一週間前に投開票のあった大阪ダブル選挙のことから始まった。
●大阪ダブル選のジレンマ
かりん 最初に、せっかく関西から野間くんが来てくれたので、22日にあった大阪ダブル選のことを聞きたいです。SEALDs KANSAIがどんなふうに選挙にかかわって、結果はどうだったのか。
のまりく 9月の安保国会の大詰めは関西からもメンバーが毎週のように国会に通っていたんですが、強行採決によって一応決着が着いて、10月から大学も始まって、日常に戻っていく。その前後から、来月は大阪ダブル選だよねということはみんな意識してました。
ただ今回の選挙はすごく複雑で、SEALDs KANSAIとしてそれに関わるかどうかも悩んでいたんです。というのは、最終的に維新対自民の対決構図になることは見えていた。今まで安保法をめぐってあれだけ「安倍はやめろ」とか言ってきたのに、結果として大阪では自民党の候補を推すことになる。それで失敗した場合、来年夏の参院選での影響力にも関わるし、すごく危険じゃないかって意見は関西の中でも強くあったんです。
そのあたりのジレンマは、大阪以外の地域の人には伝わりにくいかもしれませんけど。基本的に、選挙というのはベターの選択しかできないと思ってます。「誰を勝たせたいか」より「誰を勝たせてはいけないか」。その選択になる。大阪で考えると、大阪維新のグループと大阪自民党のグループでいったら、大阪維新のほうが思想的には明らかに安倍さんに近いんですね。
けど、大阪に住んでる人たちは、なぜかわからないけど橋下さんが好きな人が多いんですよ。喋りがうまいとか、「何かやってくれそう」感があるんだと思うんですけど。そのへんのおばちゃんが「いま政治家やったら、橋下クンか奥田愛基クンがやったらええと思うわ~」とか言うんです(笑)。
一同 ええー??(爆笑)
のまりく でも、その裏で8年間の大阪維新の政治が何をやったかといえば、とんでもない傷を残している。そのやり方や考え方というのは、大阪の自民党以上に安倍政権の政治に近かった。だから(都構想の住民投票では)「オール大阪」という形ができて、ダブル選でも民主党・共産党も乗るかたちで自民党の候補を推すことになったんです。
かりん 確かに、私のまわりでも「SEALDsが大阪で自民党を応援したのはおかしい」って言う先生もいました。そういう難しい選挙だったんですけど、最終的にSEALDs KANSAIは全面的に取り組むことになったんですよね。そこで、私たちもおおっ!って思うようなかっこいいウェブサイトやフライヤー、動画とかが出てきました。今までのSEALDsのカラーとも少し違って。あれはどういうイメージを打ち出そうと思って作ったんですか?
●「REAL」プロジェクトでめざしたもの
のまりく さっき言ったように、関西の中でもダブル選に取り組むことは決断しきれていなかったんですけど、告示日を過ぎるとデモも街宣もできなくなるとわかって、それはまずい、とにかく街宣をやろうと。そうしたら、そのまま流れでやることに(笑)。そうやって急に決まったんですが、このまま安保国会の惰性みたいなノリで行っても、世論の空気はどんどん醒めていっている感じがした。だから、雰囲気を一新したいと思ったんです。京都造形芸術大学の撮影スタジオでこの写真を撮って。フライヤーとかホームページもリニューアルして。
ちあき かっこいいよね、これ。
かりん シンプルで力強いし、明るい印象がある。
さくら どこの服屋かっていう(笑)。
ちあき そうそう。色の使い方もいいし。
のまりく 告示日以降は路上でビラ配りや街宣が一切できなくなるから、ネット上での闘いになるのはわかっていた。そして、自民党を明確に推すことはしたくなかったので、SEALDs KANSAIはどこかの候補を推すわけではなく、あくまで「反維新」というスタンスで。
なので、「REAL」というプロジェクトを立ち上げて、8年間の維新の政治で仕事や生活に大きな影響を受けた人たちを、実際訪ねていって話してもらうことにした。橋下さんは8年間で自分がすごい改革をしたかのように言うけど、実際はどうだったのか、リアルに見てもらおうという。取材した内容は文字起こしもして、計7本の短い動画にまとめて、YouTubeで順次リリースしていきました。
かりん 実際の反応はどうでしたか? この会場にいる人も、私のまわりもみんな見てたと思うんですけど……
のまりく それが、悲しいくらいに見られてなかった(苦笑)。すごく頑張ってやったんですけど。安保の問題に比べると地味だし構図も複雑だけど、それにしても広がらない。どうしても「大阪だけの問題」って意識があったんだと思います。僕も京都に住んでいるから当事者ではないけど、実際取材して話を聞くと、本当に滅茶苦茶な政治が行われている。それは隣の町だから放置していいっていう問題じゃないと思うんです。だけどやっぱり、なかなか伝わりませんでした。
杏珠 投票日の前日の街宣とか、すごく人が集まったのにね。
のまりく 結果はほぼダブルスコアくらいの負け。投票率も市長選で50%、府知事選で47%程度だったし。
かりん 私は大阪の結果を見て、来年7月の参院選も相当難しいなってショックと同時に、その反省点を共有して、ではこれからどうするかを本気で考えないとって思った。
のまりく 僕たちがやった「REAL」はわりと感情に訴えるというか、エモーショナルな感じで行ったけれど、もっと論理的に橋下さんとガチで議論するみたいな方向も必要だったのかもしれない。ただ、SEALDsとして選挙に直接関わったのはこれが最初だったので、その経験は貴重だったのかなと思います。
●SEALDs=ヒップホップじゃない
かりん 次の動きもあるんですよね。
のまりく はい。12月20日に京都で安保関連法の廃止を求めるデモをやります。成立したから終わりではなくて、こっちから積極的に「廃止を求める」と言っていこうと。
京都のデモはすごくいいんですよね。高いビルがなくて空が広いし、鴨川にかかった橋を人が埋め尽くして。僕はデモではコールや選曲を担当してますが、関西のデモの曲って東京とぜんぜん雰囲気ちがうんですよ。SEALDsっていうとヒップホップとかラップのイメージがあるんですけど、KANSAIにはヒップホップ好きはあんまいなくて、バンド好きが多いので、アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)の曲とかかけたり。東京のSEALDsも奥田くんや牛田くんだけじゃなくて、いろんな趣味の人がいるよね。普段みんな、どんな音楽聞いてますか?
ちあき 岡村靖幸とか好きです。
杏珠 いろいろ聞くんですけど、ずっと聞いてるのはUKロックで。オアシスは神様。
さち Perfumeとか好きだし、アジカンも好きだし。親が音楽家なのでクラシックも聞きます。
かりん 私もSASPLの時代からデモに参加はしていたんですけど、サウンドカーに乗ってる人たちを見て「ちょっと私、ついていけなさそう…」って思ってた。私、見ての通りサブカル系で、筋肉少女帯とかが大好きなんで。SASPLに混じるといじめられるんじゃないかとか思ってた(笑)。
一同 (笑)
かりん でも、実際入ってみるとヒップホップ系じゃない子もたくさんいた。一方で、勧められてヒップホップを聞いてみたら、歴史も含めておもしろいなと。食わず嫌いだったなっていう反省もある。さくらちゃんも音楽好きだよね?
さくら 私も、もともと好きなのは昔の音楽、はっぴいえんどとかなんですけど、SASPLのカルチャーにふれてからヒップホップも聞くようになって。J-POPとかと違って政治的なことをはっきり言っていくところとか、いいなって。アジカンのゴッチ(後藤正文)さんとか、アーティストの人たちが政治的な発言をしたりするのには勇気をもらってる。
●選挙はデモと違うテンションが必要
かりん SEALDsの魅力は身体感覚っていうか、実際に身体を動かすことにもあると思っていて。よく「騒ぎたいだけだろ」とか批判されるけど、それもある意味では事実。実際にデモの現場に行って歩く、声を出してみる、リズムに乗ってみる、その感覚は悪いことではないと思う。最初は私も乗れなかったんですけど、音楽があって人が集まる、それでひとつの場ができるんですよね。べったりした集団じゃなくて、ゆるやかにつながった空間。それは音楽の力じゃないかなって思って。それまで言葉だけに頼っていた自分が変わった気がした。
でも、次の参院選を考えると、それだけじゃ足りないのかなって思う。9月までの情勢の中では、リズムに乗って声を出して、自分たちを鼓舞しながら意見を表明する、訴えていくっていうかんじだったけど、選挙っていうのはもっと地に足ついたというか、低いテンションで冷静に説得していくような実践も必要なのかなって。
ちあき 身のまわりの一番近い人たちにどうやって伝えるか。SNSでいったら拡散力の高いTwitterじゃなくてLINEとかFacebookのメッセンジャーみたいな。顔の見える一人ひとりに直接伝えていく。それって怖いよね。
かりん このままじゃダメだっていうのはみんな薄々思ってると思う。それをちゃんと議論して考えていきたい。それを強く思ったのは、この本(『SEALDs 民主主義ってこれだ!』)の最後に収録されている奥田くんと高橋源一郎さん(作家)の対談を読んだときで。この対談は、安保関連法が強行採決された直後に収録されたんですけど、2人のテンションの低さ。私は、少し高揚した気持ちでここまで読んでいって、最後のこの対談でガツンと殴られた気がした。安保国会でSEALDsは今までの運動がやれなかったことをやったと思うけど、そのノリのまま行ったら痛い目にあう。冷静に、しっかり戦略を練って備えていかないと、次の状況には対応できないなって。
「そのノリのまま行ったら痛い目にあう。冷静に、しっかり戦略を練って備えていかないと」って、あいそうにないシッカリしすぎたところが歯がゆいんですよ!馬鹿まるだしの全共闘世代はあれはあれで良かったな〜と思ってしまうもの。