8月15日が過ぎたら、急に吹く風が少し涼しくなったように感じるのは、気のせいだろうか。
それにしても、今年の夏は暑苦しかった。安倍晋三首相の「70年談話」だとか「戦没者追悼式」の安倍式辞など、暑さを倍加させる話題に事欠かなかったからだろうか。
いまさら言いたくもないが、「安倍談話」は、妙に長ったらしい“言い訳”と“引用”とに満ちたひどい文章だ。
内外からの批判と、このところの急激な支持率の低下。さらには自身の支持者の多くの右翼的心情にも配慮したあげく、何とか「4つのキーワード」を入れ込んだものの、それは自身の思いとは矛盾するがゆえに、歴代首相談話を“引用”することで切り抜けようとした。
結果、ダラダラと長い駄文になった。やめとけばいいものを…。
「風塵だより39」でも書いたけれど、安保法案は安倍首相の“痛恨の失敗”になるだろう。彼の最終的な望みは「明文改憲」であった。祖父の岸信介元首相の悲願「憲法改定」を、孫の手で実現すること。じいちゃんの怨みを孫が晴らす。それこそが、安倍首相の宿願「戦後レジームからの脱却」の総仕上げだったはずだ。
だが、もはや「明文改憲」は絶望的だ。「解釈改憲」ですら、これほどの抵抗を受けているのだ。とても「明文改憲」を発議しようなんて猛勇を振るう自民党議員は現れまい。「安倍の大失敗」である。
岸じいちゃんも草葉の陰で「よくやったが、もうダメだな。そろそろ引退時期を考えてもいいぞ、シンゾーちゃんよ」なんて呟いているかもしれない(これは別に「霊言」などじゃありません。単なるぼくの想像です、為念)。
安保法制にも安倍談話にも、言いたいことはいっぱいあるけれど、今週は「原発」について、どうしても書いておかなければならない。
川内原発再稼働という道に外れた政府・電力会社・原子力規制委員会、それに腐臭漂う原子力ムラの「命よりもカネ路線」についてだ。
ちょうどお盆休みの真っただ中、しかも、安倍談話だとか安保法制だとか、世の中の目がさまざまにチラついている頃合(8月11日)を狙っての再稼働だ。冗談じゃない。いまさら…と思う方もおられるだろうが、この原発再稼働の問題点、疑問点をできる限り挙げておこう。
- ①火山対策
- 桜島が噴火警戒レベル4に引き上げられた。桜島から川内原発までの距離は約50キロ。もし破局的大噴火が発生した場合、その影響を受けないはずがない。火砕流などは免れたとしても、火山灰は数十センチも降り積もると予想される。もしそうなれば、換気口などの配管はひどいダメージを受ける。決して無視していいものではない。
むろん、鹿児島市など桜島周辺自治体の損害をいかに軽微にするかという対策がもっとも大事なことは言うまでもないが、再稼働に至った川内原発の備えも重大事であることは自明だ。
だが、九州電力は「桜島噴火に関しては、特段の備えをする予定はない」と平然としたもの。多くの火山学者が「いつどこで噴火が起きるかは、現在の火山学の水準では指摘できない」と言っているにもかかわらず、原子力規制委員会も「川内原発稼働中は近隣の火山で巨大噴火が起きる可能性は限りなく低い」として、火山対策を無視して新基準に適合との判断を下した。だが、口永良部島、諏訪之瀬島など火山噴火が続いた。火山学者たちが言うように「どこで噴火が起きるかは予測できない」のだ。
ほんとうに、川内原発は大丈夫なのだろうか。- ②避難対策
- 立地自治体の鹿児島県と薩摩川内市は、過酷事故が起きた場合の一応の住民避難計画を立てたとしているが、少なくとも原発30キロ圏内では、老人施設や病院などの避難計画はほぼ机上の空論。報道によれば、事故の際に避難に使用される予定のバスの運転手たちの多くは「行きたくない」「拒否する」と語っているという。病人や老人、幼児施設や養護施設などの弱者は逃げ場を失うことになりかねない。
問題なのは、避難計画がなくても地元合意があれば再稼働できるという仕組みだ。新規制基準なるものには「避難計画の策定」が義務づけられていない。つまり、避難計画は自治体任せであり、政府も規制委も関与するつもりがない。こんなずさんな避難計画で、過酷事故に耐えられるのか。- ③世界一厳しい規制基準
- 安倍首相は、口癖のように「世界一厳しい規制基準に合格した原発から、安全性を確かめながら順次再稼働していきます」と話す。いったい誰が、いつ、この新規制基準を「世界一厳しい」と認めたのか? IAEA(国際原子力機関)もNRC(米原子力規制委員会)もそんな認定をしたとは聞いたことがない。日本の規制委だって、そうは言っていない。
では誰が「世界一厳しい」と認めたのか。安倍首相が自分で言って、自分で納得しているだけではないか。安倍の自作自演、口先ひとつで再稼働されてはたまらない。何しろ「福島原発はアンダーコントロール」と歴史に残るほどの大ウソをついた前例を持つ首相なのだから。
なお、福井地裁は4月14日、この新規制基準について「合理性に欠ける」として、高浜原発の運転を禁じる仮処分を決定している。「世界一厳しい規制基準」が、司法によって一旦は否定されたのである。もっとも、その後の鹿児島地裁「不合理な点はない」として住民の訴えを却下した。上しか見ないヒラメ裁判官はどこにでもいる。- ④責任の所在
- 規制委の田中委員長は「我々は、申請された原発が新規制基準に適合するかどうかの審査をするのが仕事であり、それに適合すれば安全だ、などと申し上げたことは一度もない」と繰り返している。「責任は規制委にはない」と最初から言い逃れの道を作っている。
一方、政府は③で指摘したように「世界一厳しい規制基準に合格した原発」と、規制委の判断に責任を負わせる姿勢。
地元自治体は「政府の認めた再稼働だから」と口を濁す。
さらに事業主の九州電力は「一義的には事故の責任は私どもにあります」と言うが、ではどういう責任の取り方をするのかについては、明確な答えは何もないまま。
東京電力の凄惨な事故について、いったい誰が責任をとったか? 東電も政府も官僚も原子力ムラの御用学者たちも、全員一致でその逃げ足の速いこと。誰ひとり責任など取らなかったではないか。ようやく検察審査会によって、東電の当時の幹部3人が強制起訴されたけれど、それまでは司法(検察)さえ、責任追及をしなかった。九電の言い分は信用できない。
つまり、責任回避の鬼ごっこ。もし過酷事故が起きたって、その責任の所在はまったく不明のままだ。- ⑤過酷事故対策
- 事故時に溶けだした核燃料を最終的に受け止めて冷却する装置が「コアキャッチャー」と呼ばれるものだ。ヨーロッパ型では設置が義務づけられているし、中国の新しい原発にも設置されている。しかし、川内原発にはこれが設置されていない。
さらに、事故の際に爆発を防ぐために、やむを得ず放射性物質を含む蒸気等を放出するフィルター付きベントも、まだ設置されていない。これは2年後をめどに完成させればいいと規制委が判断したからだという。
もうひとつ、福島事故で対策の最後の砦となったのが「免震重要棟」という施設だったことはよく知られている。しかし、これも川内原発にはない。九州電力によれば「2015年度中には完成させる。それまでは仮設の代替施設で対応する」とのことだが、実はまだ基礎工事さえ終わっていない。
もし、フィルター付きベントや免震重要などが設置されないうちに事故が起きたらどうするのか。そんなことは「絶対に起きない」と、神でもない九電や規制委がなぜ言えるのか。それとも、九電や規制委はもはや「神の領域」に入ったのか?- ⑥世論無視
- 最近の世論調査やアンケート結果では、国民の過半数が「川内原発再稼働に反対」しているのは一目瞭然だ。反対が5~6割、賛成が2~3割というのが平均的な数字だ。どんなマスメディアでも、これだけは一致している。にもかかわらず、政府はゴーサインを出した。日頃から「国民に丁寧な説明を」と言い続ける安倍政権だが、その白々しさには呆れかえるしかない。
- ⑦廃炉
- 福島原発の原子炉内部の調査は、まったく手つかず状態。デブリと呼ばれる溶け落ちた核燃料がどこにあるのかさえ、まるで分かっていない。国は「廃炉作業は30~40年」と言っているが、ほとんど不可能な数字だ。
例えばイギリスの原発(無事故で廃炉)は70年でも廃炉作業は完了しない、といっている。
日本でも、東海原発(16.6万kw、日本原電)は1998年に営業運転停止、廃炉作業を開始したが、17年後の今日でもまだ原子炉建屋の解体工事には至っておらず、原子炉本体の解体に取りかかれるのは2019年から(予定では2014年とされていたが、5年延長)とされていて、いつ終了するかは明らかではないが、数十年単位になることは間違いない。合計すれば、百年は超えるかもしれない。しかも、廃炉後の高レベル放射性廃棄物の処理や管理に関しては「数百年~万年単位」というだけである。
比較的小規模で、事故原発でなくてもこの工程である。100万kw級の原発の確実な廃炉工程表をまず示してから「再稼働」を論議すべきである。- ⑧使用済み核燃料処理と費用
- むろん、使用済み核燃料の処理方法や最終処分場は決定しておらず、現状でもあと数年~10年ほどで、原発敷地内の使用済み核燃料保管プールは限界を迎える。
最終処分場に関しては、政府はこれまでの公募方式を改め、政府が候補地を選んで指定、当該自治体に協力を要請することとしたが、各地では反対運動もおこり、まったく見通しは立っていない。
核燃サイクルの要である青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場は1993年に着工したものの不具合が多発し、これまでに22回もの稼働延期を繰り返し、運転開始などほとんど夢物語と化している。
工事費用は当初7600億円程度と見積もられていたものが、すでに2兆3000億円超の費用が投じられている。さらに電気事業連合会(電事連)が2003年に発表した数字では、最終的な費用は11兆円と見込まれている。これが12年前の試算なのだから、むろんもっと膨大な金額になっているのは当然。
同じことが、核燃サイクルのもうひとつの環「高速増殖炉もんじゅ」にも言える。「もんじゅ」もまた、何度稼働を延期してきたことだろう。死傷者も出しした「ナトリウム爆発事故」。そして数々の事故や不具合、数万カ所にも及ぶ機器の点検漏れの隠蔽。ほとんど「不祥事の殿堂」である。ここにもすでに1兆5千億円ほどの費用が使われ、さらに現在も毎日約5500万円の維持費がかかっているとされる。
これらの費用は、結局は我々消費者の電気代や税金から支出される。しかも、その費用を原発電力のコスト計算からは外しているのだから「原発電力は安価」という経産省や電力会社、御用学者たちの説明がいかにウソにまみれているかが分かるだろう。
それでも「核燃サイクル計画」をやめられない。あの新国立競技場問題と似ている。だが、新国立は白紙になった。核燃サイクルも、もはやこれ以上の資金投下は無駄である。白紙に戻すべきだ。誰も責任はとらないだろうけれど。
「核燃サイクル」計画が頓挫すれば、日本の「核政策」自体に大きな影響が出る。それが「再稼働」へ突き進む安倍政権の本音なのだろう。- ⑨福島原発事故の教訓
- 福島原発はいまどうなっているか。原子炉内部は依然として高温、汚染状態。とても詳しい調査ができるような環境にない。高濃度汚染水は溜まり続け、敷地内の汚染水タンクはすでに1000基を超えた。まもなく限界に達する。
避難民はなお、福島県内と県外を併せて10万人を超える。とても生活が再建されたなどと言える状態ではないが、政府は強引に「ふるさと帰還」を呼びかける。住民が元の町村へ戻ることによって「事故収束」のムードを作りたいという政府の意図はミエミエだ。
東電と福島県は、次第に避難者への援助を打ち切る方針。これも「帰還圧力」の一環と見ていいだろう。
これらを含めて、川内原発再稼働は、まったく福島の教訓を生かそうという姿勢がない。もう一度、過酷事故が起きなければ目が覚めないのか。それとも、当事者たちは「自分が携わっている間に事故が起きなければそれでいい。後のことも、次世代のことも知っちゃいない」ということか。- ⑩テロ対策
- 安倍首相は今年1月、中東へ出かけ、得意満面で「中東支援策として、人道援助、インフラ整備などに25億ドル(約3000億円)。そのうち2億ドル(約240億円)をIS(イスラム国)台頭に伴う難民支援などのために周辺諸国へ供与する」と発表した。我々の税金を、まるで自分のカネのようにばら撒く安倍外交にはほとほと愛想が尽きるけれど、それより問題なのは、この安倍外交が「日本へのテロ」を誘発しかねないことだ。
事実、このとき誘拐されていた日本人2人はその後、ISによって殺害された。直接の原因ではないにしろ、安倍発言がきっかけのひとつになったと考えてもおかしくはない。
実際、イラクで難民支援活動を行っている高遠菜穂子さんによれば「日本へのイメージは、確実に悪化しつつあります。NPOの難民支援活動でも、場所によっては、使用車両に掲げていた日の丸を外すようなこともあります。最近の安倍さんの安保法制の報道も、日本の平和国家イメージを壊しているかもしれません」とのことだった。
それらを考えた時、日本で、とくに原発を狙ったテロが起きないとは言えまい。日本の原発はすべて海岸沿いに立地している。もし狙うとしたら、これほど標的にしやすいものはない。
安倍首相は安保法制論議でしきりに「ホルムズ海峡に機雷が敷設された場合」という荒唐無稽な話を持ち出して、集団的自衛権使用の正当性を力説した。だがそれは、当のイランが対米交渉で軟化、さらにホルムズ海峡迂回パイプライン設置などで、あっさり消え去った。「安倍リクツ」の見事なまでの破綻。すると今度は、具体的に中国の名前を挙げて南シナ海の脅威などを言い出した。とにかく「仮想敵」が欲しくて仕方ない子ども。
だが、もし中国や北朝鮮を仮想敵国とするなら、日本海側にもずらりと並んだ原発を、どうやって攻撃から守るかが問われるだろう。
残念ながら、日本の原発に「テロ対策」はまったくといっていいほどなされていない。本気で「仮想敵国」と対峙するなら、まず全国民の命のかかわる原発への攻撃をどう防御するか。そのことなしに「原発再稼働」を言うのは、安倍自身の「仮想敵国論の破綻」を意味する。
いまベストセラーの『天空の蜂』(東野圭吾、講談社)は、原発を標的としたテロだ。また『東京ブラックアウト』(若杉冽、講談社)にも、原発に対するテロ攻撃が描かれている。『天空の蜂』はいまから20年前の著作だが、小説家の想像力を事実が後追いすることもあるのだ。
安倍首相の一連の政策は「平和国家日本」のイメージをかなりの程度、破壊した。テロが日本を狙う可能性は、以前に比べれば増したといっていい。原発がそれを無視していいわけはない。- ⑪アメリカ・サンオノフレ原発の例
- 米カリフォルニア州の電力会社SCE(南カリフォルニア・エジソン)社が運営する「サンオノフレ原発」が2013年に廃炉を決定した。日本の三菱重工業が納入した「蒸気発生器」の配管に異常な摩耗があり、周辺に放射性物質を含む汚染水が漏れた。
この事故を受け、再稼働への展望が開けないために、SCE社は廃炉にせざるを得ない、と結論。周辺住民の反対運動も激しく、さらにNRC(米原子力規制委員会)の「原因究明と操業の安全性が確保されるまでの稼働停止」との命令により、稼働断念に追い込まれたのだ。
SCE社は、三菱重工業に対し、総額9300億円にも上る損害賠償訴訟を起こすという。むろん、三菱側は争う姿勢だが、いずれにしてもそうとう巨額の損害賠償に応じざるを得ないだろう。
サンオノフレ原発の蒸気発生器は、2009年に設置されたばかりの比較的新しいものだという。それが事故を起こした。
ところで、川内原発は三菱重工業製だ。サンオノフレ原発と同じ「加圧水型」である。当然のことながら、機器には同じ仕様のものも使用されているといわれている。とすれば、サンオノフレと同じ事故は起きる可能性があるのではないか。
規制委は「機器の審査も新基準に適合した」としているが、果たしてサンオノフレの機器の不具合と照らし合わせた審査を行ったのだろうか。- ⑫損害賠償
- 福島原発事故を受け、被災者たちへの損害賠償はどうなったか。政府と福島県は被災者支援の打ち切りへ舵を切りつつある。「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」の指定を解除する方向である。つまり、この区域に居住していた人たちへの「精神的損害賠償」を、2018年までに打ち切ると決めたのだ。自主避難者に至っては、避難先の住宅提供も2017年3月には打ち切られる。
人々を切り捨てることで、まるで、何もなかったかのように…。こんなことが許されるだろうか。
「原子力損害賠償法」という法律がある。これは1961年に制定されたホコリをかぶったような古い法律である。これがほとんど意味をなさないことは、福島事故で実証された。改正をしなければならないということで、ようやく議論が始まったのがなんと昨年のこと。
あまりに遅すぎる、という批判はさておき、もし原発再稼働をどうしてもするというのなら、最低限、この法律を多くの人たちが納得できるようなものに仕上げてからにすべきではないか。
万が一、原発での過酷事故が不幸にしてもう一度起きた場合に、被災者をどう救済するかの備えは、絶対的に必要なはずだ。
こんな法律ひとつ改正することすらできなくて、よくもまあ「再稼働」なんていえるものだと、ぼくは呆れるのだ。
とりあえず、思いつくままに列挙してみた。むろん、ここに漏れている危険な事項もたくさんある。これはあくまで、参考例である。すべてを解決してほしいと、心から思う。
原発のことを考えただけでも、「アベ政治は許さない」と言い続けなければならない。