先日のこの欄で紹介した「11・23全国スラップ訴訟止めよう!シンポジウム」に参加するため、私は早稲田大学を訪れた。会場である早稲田キャンパス15号館201教室は大勢の聴衆で埋まった。
スラップ(SLAPP)とは何かについては、その8)で書いたので、そちらを参照していただきたい。まず基調講演として、自身もオリコンからSLAPPを起こされた烏賀陽弘道さんがお話しされた。日本のSLAPP対策が米国に比べて20年遅れであり、今やカナダ、豪州、南アフリカにも被害防止法があるなど、その話は微に入り細を穿つ詳しさだった。そして烏賀陽さんはSLAPP訴訟の特徴を語った。
・民事訴訟であること
・請求額の多寡は関係ない
・論点のすり替え(Dispute Transfer Strategy)
・事実争いの泥沼(Fact Quagmire)に引きずり込む
中でも、「論点のすり替え」と「事実争いの泥沼に引きずり込む」の2点は、まさにSLAPPが嫌がらせのためだけに行われることの証左だ。本来の問題が議論されず、瑣末な事実関係の確認ばかりが延々と行われる審理。つまり、問題が矮小化されているだけで、この裁判で被告が負けたところで本来の問題が是認されたわけではないし、反対運動の正当性が否認されたわけでもない。
しかし、裁判になることによってその反対運動があたかも悪いような偏見が広まり、周囲が関わりを控えるような冷却効果(Chilling Effect)が発生する。また新聞社や放送局も報道を控えだすという。かつて朝日新聞記者だった烏賀陽さんは「あの裁判は『運動屋さん』がやってることだから」と社内で語られていたエピソードを紹介。それがましてや負けるとなると…。
さらに米国のSLAPP事情の報告も。米国では、SLAPPがなぜいけないのか、というと裁判制度が崩壊するからだという。つまり「弱い者いじめ」だからではなく、裁判所は民主主義の砦であり、裁判所を誰も信用しなくなっては、民主主義が崩壊するからいけないのだ。米国の法学者の話を聞いて、烏賀陽さんは目から鱗が落ちたそうだ。
そして、沖縄県東村の「高江ヘリパッドいらない住民の会」、山口県上関町の「上関原発阻止被告団」、東京の「経産省前テントひろば」の3団体の人々が厳しい現状を報告し、支援を訴えた。また、SLAPPやその定義には入らないがやはり恫喝・口封じ訴訟の当事者からの報告も行われ、聴衆から温かい拍手が送られていた。
高江弁護団の加藤弁護士、上関弁護団の小沢弁護士とも語ったのが、その手段を選ばぬ事例。信じがたいほどの下劣さで、弁護士なら「品位を汚す」ということで懲戒処分にかけられそうだが、国の代理人は訟務検事が担当するため関係ないということだった。
誰もがブログやSNSなどで発信するインターネット時代、かつてのように職業言論人だけでなく、誰もがSLAPPされるようになる。これにどうしたらよいか。まずは現在被害を受けている当事者のゆるやかなネットワークをつくり、起こされたときの対策をすぐに立てられるようにしたいとのこと。また法整備や法律官僚への働きかけなどの指摘もあった。
烏賀陽さんも、折に触れて横の動きを模索していたとのことだが、それがこうして実現したことを日本の民主主義にとって「歴史的な日」だと評価した。まずは連帯することから始めよう。(中津十三)
最後に3団体の当事者が壇上に並んだ